プロコーチが紐解く部下育成の視点

第8回

自己開示をする

五十嵐 久 2015年8月5日
 

 朝礼などのスピーチでは、業務上の話材よりもプライベートな出来事の方が聞き手の心に響くことが多いようです。そして、ただの出来事の話だけでなく、その出来事にまつわる自分の想いや感情を付加させることで、そのスピーチはより深みを増し、聞き手の心に感動を与えます。

 なぜなら、聞き手に人間としての「共感」という感情が働くからです。「共感」という言葉はよく使われていますが、この感情についてもう少し詳しく掘り下げてみましょう。

 テレビや映画やお芝居を観て、胸がジーンとしたり思わず泣いてしまったりことはないですか。登場人物の喜びや悲しみをまるで自分の感情のように感じてしまうことが誰にでもあると思います。

 まず登場人物への強い関心があります。そしてその人物の感情の認知がなされます。つまり、喜びや悲しみの意味、その大きさや深さを感じ取り、理解します。次にその感情を自分の中に取り込みます。あたかも自分が同じ状況にあり、同じ体験をしているように感じるのです。これが「共感」です。

 他人の感情を自分の中に受け入れ、自分の感情として認識するプロセスとも言えます。

 楽しい、ワクワクする、といった体験をした人の話を聞くうちに自分の気持ちもワクワクしてきた、こういう状態が、「共」に「感」じるということなのです。

 共感するには相手が想いや感情をオープンにしてくれなければなりません。セミナー講師の話に納得するのは共感ではなく、理解です。あるいは気づきです。

 相手の話に共感すると、より相手に対する親和性が増します。もちろん、共感できないこともあります。でも、不快や否定的な気持ちにはならず「彼(彼女)は、こんな風に感じるんだ」という理解だけが残ります。彼(彼女)がスピーチで「私たちに開示してくれた」ことへ、意識が向うからでしょう。これが「相手を受容する」ということなのだと思います。

社長が社員に共感を抱いてほしいことは?

 さて、社長の場合を考えてみましょう。社長が社員に最も共感を抱いてほしいことは何でしょう?

 もちろんプライベートなことを話し、社員がそれに感動してくれて共感を得られれば親和性は生まれ、上下の垣根も取り払われるかもしれません。でも、もっとも共感してもらいたいのは、自分が掲げる会社のビジョンではないでしょうか。社長がいくら立派なビジョンを掲げ、それを熱く語っても社員に共感されなければ、ビジョンは到達されません。

 経営者は、よく「社員にビジョンを浸透させる」という言い方をしますが、それは言葉を変えれば「社員にビジョンを理解させる、同意させる」という意味合いに取れます。

 ビジョンは理解させるだけで良いのでしょうか?

 それを理解し、同意をしたら、次にその実現のための行動をしてもらわないとビジョンは実現しません。社員にとっては、ビジョンによって実現する世界に身を置いた時に、それが魅力的でないと行動には至らないのです。経営者はビジョンを掲げる際、そのビジョン、つまり会社の行くべき方向や事業の夢が、社員の共感を得られるものかをじっくりと吟味してからそれを伝えなければなりません。そして、それを伝える際、なるべく自分の言葉で十分に想いを込めて語らなければ、共感は得られません。その想いに社員が共感したときにビジョン実現のために一体となった動きが出てくるのです。

 
 

株式会社コーチビジネス研究所
五十嵐 久

新潟県小千谷市出身、埼玉県川口市在住。
大学卒業後、公的な中小企業支援機関に勤務。
中小企業診断士として、経営相談、資金調達支援、創業支援、再生支援業務、人材育成などに従事。2007年から、銀座コーチングスクールにてコーチングを学び、同年10月同スクール認定コーチとなる。以後、起業を目指す方や中小企業経営者の方を主な対象に、コンサルティングとコーチングを融合させたコンサルティング・コーチとしてサポートする傍ら、埼玉県浦和駅前並びに東京・池袋にてプロコーチ養成のためのコーチングスクールなどを運営している。2014年3月(株)コーチビジネス研究所設立、代表取締役就任。銀座コーチングスクール埼玉校、池袋校共同代表。中小企業診断士、銀座コーチングスクール認定プロフェッショナルコーチ、日本マーケティングコーチ協会認定マスターコーチ、産業カウンセラー・キャリアコンサルタント

同じカテゴリのコラム

キーワードからコラムを検索する