マネジメントを再考してみる 後編<上級マネジメント>

第45回

『マネジメントの軸を合わせ』てMCSを導入する

落藤 伸夫 2018年3月9日
 

「MCSを導入するに当たっての私の懸念について、ご説明頂いているところでした。」


「MCSは欧米で開発されたものだということを、中川部長は、懸念材料だと思っているということだったな。」


「いえ、欧米で開発されたことが理由で疑ってかかる必要があるという趣旨ではありません。ただ、『欧米のマネジメントは合理的なあまり辛いものだ』というう、暗黙の了解のようなものがあると思うのです。」


「とするならば、MCSを導入してマネジメントを強化するなんてありえないという反応があるはずだと考えるのだな。」


「そういうことです。」


「俺は、そうは思っていないんだ。」


「はい。なので三上取締役は、最初に『それは思い過ごしだ』と仰いました。」


「MCSは、マネジメントを実効あるものにするために絶えずブラッシュアップされてきた。その歴史を紐解くと、日本の英知もかなり取り込まれていると考えられる。だとすると、欧米発祥だからといって問題視する必要はない。」


「一方で『潜在意識の問題』は厄介だと仰りました。どんなに適切なものでも、相手が『これは今までと違いすぎて馴染めない』と認識してしまうと、反発が生じる可能性があるということですね。もし反発により組織内に悪い雰囲気が充満してしまうと、MCSの導入そのもが不可能になるかもしれない、というお話でした。」


「そうなんだ。まあ、不可能ということはないだろうけれど、数ヶ月、時には数年も無駄な時間を要すかもしれない。」


「そうならない配慮として、三上取締役は『マネジメントの軸を合わせる』ことが必要だと仰いました。今日は、それについて教えてください。」



マネジメントを強化するという意味

「では、例えを用いて考えてみよう。」


「はい。」


「わが社での新製品開発を例に取ろう。最初は最もシンプルな形だ。中川部長が新製品開発の最終責任者、そして現場にいる作業者に試作品を製作してもらうことになる。中川部長の指示に従って、作業者が試作品を製作するわけだ。」


「はい。」


「中川部長は、いつも本社にいなければならない。一方で作業者は工場だ。勢い、コミュニケーションは難しい。」


「そうですね。」


「でも、部長としては、今回の新製品開発には熱い思いがある。いい加減な製品を世に出したくない。」


「はい。私はいつも、そう思っています。」


「しかし作業者は、部長の思いを聞くことには慣れていない。部長の思いを聞いても、それを形にする、つまり試作品として反映していくことは難しいんだ。」


「たぶん。そうですね。」


「そういう状態で、何度かやり取りしたが、部長の思いを実現した試作品はできなかった。どうなる。」


「どうなると言われますと・・・。」


「中川部長の言葉は、強い、時には厳しいものになるのではないかな。」


「多分、そうなのでしょうね。」


「一方で、誠実に努力しているのに部長が評価してくれない。作業者の表情も険しくなり、時には激しく反応してしまうことになるのではないか?」


「そういうことも、あるでしょうね。」


「これって、お互いに不幸なのではないか?」


「確かに。」


「では、どうすれば良い?」


「いや、どうすれば良いかと聞かれましても。」


「答えは簡単だ。マネジメントを強化することだ。」


「えっ、マネジメントを強化するのですか?それではもっと、事態が悪くなるのではないでしょうか?」



組織マネジメントを強化する

「そうかな。部長が思いを伝えても、作業者はその意図がわからない。だから中間に、部長の思いを形にする、つまり図面を起こす者を入れるのだ。そうした方が、良くはないか?」


「それはもう、もちろんです。」


「図面作成者の前工程として、形状や機能、仕上がりなどの専門分野に責任者を置くこともできる。」


「もっと良くなりますね。」


「そして製造にあたっては、製造方法に長けた技術部門の協力も得られるようにする。」


「完璧です。」


「これって、何だろう?」


「はい?なんでしょう?」


「組織形態を整えるというマネジメントを行ったのではないか?」


「確かに、そうですね。」



働きかけマネジメントを強化する

「一連の改善について、こんどは作業者への働きかけという観点から見てみよう。中川部長と作業者しかいなかった場合には、指示命令というコミュニケーションツールしか、働きかけの方法はなかった。」


「はい。」


「しかし、図面を起こす者を入れたり、製品の形状に係る責任者を置くと『図面』というコミュニケーションツールが加わる。」


「そうですね。」


「機能や仕上がりなどの責任者を置くと、機能表や仕上がりのチェックリストを使うだろう。」


「そういう、コミュニケーションツールが使えるということですね。」


「そういうことだ。」


「とすると、中川部長としては、スケジュール管理や、予算管理などができるようになるのではないだろうか?」


「そうですね。」


「とすると、それは、期限内に仕事を終わらせたり、予算内で製品を実現できるように、作業者に働きかけができるようになったと、言えないだろうか。」


「まさに、その通りです。」


「これらの策を活用することによって、中川部長は、作業者に対する働きかけマネジメントを強化できたと言うことができないだろうか?」


「そうですね。」



作業者を支えるためにマネジメントする

「さて、このように中川部長は、新製品開発を行う作業者に対して組織マネジメントや働きかけマネジメントを強化することができる。」


「はい。」


「そういうマネジメントを、作業者は嫌うだろうか?」


「いえ、嫌わないと思います。逆に、歓迎するでしょう。」


「そうだな。図面も描けず、必要とする機能や実現して欲しい仕上がりを専門用語で表現できない中川部長とやり合うよりも、専門家と、それに適したコミュニケーションツールを活用してやりとりする方を好むだろう。」


「そうですね。その方が成果も上がると考えられますし。」


「そうなんだ。組織マネジメントや働きかけマネジメントを強化する目的は、中川部長が思いのままに作業者を操ることではない。逆なんだ。作業者が、中川部長とやりとりするという不快な思いをせずに、気持ちよく、効果的に仕事をし、効率的に成果をあげることが目的なんだ。」


「私とやりとりすることが作業者にとって不快な思いをすることになるという表現にカチンときますが、仰ることは、そうでしょうね。」



マネジメントの目的を常に共有する

「そうだな。表現が悪かったが、これこそがマネジメントの本質だと思って欲しい。マネジャーというのは、言葉を変えると中間管理職という存在は、トップと現場の働き手を結ぶために存在している。直接にコミュニケーションしたのでは上手くいかなくなりがちなものを、マネジャーを介在させることによって上手くいくようにする訳だ。」


「いっとき、中間管理職不要論が叫ばれましたが、それに反旗をひるがえすのですね。」


「反旗をひるがえすというほど、大げさなものではない。例えば1,000人の部下がいたとしても、彼らが同じ仕事をし、基本的には自立している場合には、中間管理職は必要ないだろう。AIを使って管理し、メールなどの公立的なコミュニケーション手段を使えば、一人で1,000人をマネジメントできるかもしれない。」


「なるほど。」


「しかし、1,000人の部下が何十にも分割された作業を分業し、連携して果たすような職場では、マネジャーは必要だ。必要悪ではない。いなくては組織は成立しない、そういう存在だ。」


「自分に、自信が持てたような気がします。」


「マネジャーが存在する理由はただ一つ、その方が、現場の働き手がしっかりと仕事できるようになり、効率的に、質の高い成果を出せるようになるからだ。」


「そうですね。」


「マネジャーが、常にこれを意識していること、それが『働き手と軸を合わせる』ということなんだよ。」


「ふうむ。」


「マネジャーがそれをしっかりと意識し、現場の働き手にも受け入れられていれば、マネジャーがMCSを活用するかどうかなど、働き手は全く気にかけないだろう。それがうまく機能すれば喜んで受け入れるし、ダメならば文句を言う。」


「そうですね。」


「であるならば、マネジャーとすればどうすれば良いのだろう?」


「『MCSは欧米由来のマネジメント方法だから、現場は受け入れてくれるだろうか』なんてことを心配してビクビクしているよりも、『現場の働き手を支えて成果を出させるマネジメントを行う上で、MCSは適切なツールだ』と自信を持って行動すれば良いのですね。」


「そういうことだな。」

 
 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

昨年まで、現場マネジャーが行うマネジメントについて、世界標準のマネジメント理論である「MCS(マネジメント・コントロール・システム)論」をベースに考えてきました。日本では「マネジメント」について省みることがほとんどないようですが、世界では「マネジメントとはこういうものだ」という姿がきちんと描かれていて、それを学ぶように促されています。日本のホワイトカラーの生産性が低迷している原因は、もしかしたら、このあたりにあるのかもしれません。

昨年度は約1年かけて、現場マネジャーのマネジメントについて考えてきました。現場マネジャーは、現場で働く人たちが高いパフォーマンスをあげられるよう促すマネジメントを行なっています。一方で現場マネジャーも、マネジメントを受けます。現場マネジャーが行うマネジメントが現場の力をあますところなく引き出しているか、企業として目指す方針や戦略を実現できるよう導いているかという観点でのマネジメントを必要としているのです。

今年度は、連続コラム「マネジメントを再考してみる」の後編として、上級マネジメント(上級マネジャーの行うマネジメント)についてMCS論をベースに考えます。上級マネジャーがどんな役割を担っているか、それをどのように果たしていくかについて、体系的にご説明します。 企業パフォーマンスを向上させる世界標準のマネジメントに関する解説は、日本初の試みです。是非、お楽しみください。

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