マネジメントを再考してみる 後編<上級マネジメント>

第32回

財務的成果をベースにマネジメントを改善する

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
「今回から、財務的成果マネジメントですね。」

「そうだ。」

「面白い名前ですね。聞くと何となくイメージは湧きますが、具体的にはどんなマネジメントなのか見当がつきません。」

「中川部長がそういうのも、仕方ないと思うよ。英語の直訳だからな。」

「どんな英語の直訳なんですか?」

「”Financial Result Control”だ。」

「そうですか。確かに”Financial”つまり『財務的』と、”Result”つまり『成果』は直訳ですね。しかし”Control”はなぜ『マネジメント』になってしまったんですか?」

「そうだな。ここは俺も苦労したところなんだ。以前に現場マネジャーの仕事について『成果コントロール』というのがあったよな?」

「私も、それを思い出していました。関係があるのですか?」

「うん、あるよ。大ありだ。『成果コントロール』とは、現場が目標とした成果を出してくれるようにマネジメントを調整していく、つまりコントロールすることを意味している。」

「なるほど。わたしはこれを聞いた時、成果そのものをコントロールすることかと思ってしまいましたが、それを行う訳ではないのですね。ざっくりいうと『下手なマネジメントから上手なマネジメントに改善(コントロール)する』という意味なのでしょう。」

「例えば『顧客からの特急依頼に応えるために今週中に水道栓を1,000個生産する』という目標がある場合、週末に出来上がる水道栓を800個でも900個でもない、1,000個にするという、成果そのものをコントロールするのは現場の役割だ。現場マネジャーが、それを実現するために必要な指示を出したり他部門との調整を行うといったマネジメントを行い、それを改善(コントロール)していく。一方で、上級マネジャーの役割は、水道栓の生産目標を達成することではない。現場マネジャーがうまくマネジメントできるように、彼らをマネジメントすることなんだ。それを改善(コントロール)していくマネジメント・コントロールを行うことなんだ。」

「なるほど。厳密には『現場マネジャーがうまくマネジメントできるように、上級マネジャーがマネジメントをコントロールする』というような意味なんですね。」

「そうだ。」

「ではなぜ”Financial Result Control”というのでしょうか?」

「中川部長が言った『現場マネジャーが成果コントロールをうまくできるように上級マネジャーがマネジメントをコントロールする』という表現が長すぎるので、こういう言い方に短縮したのではないかな。」

「なるほど。」


「財務的」という意味

「財務的成果マネジメントとは『現場マネジャーが成果コントロールをうまくできるように、上級マネジャーがマネジメントをコントロールする』ことなのですね。それは分かりました。では、そこで『財務的』という言葉が付くのはなぜなのでしょうか?」

「うん。良い質問だ。」

「褒めてもらえるのは嬉しいですが、これは誰でも思いつきますよ。」

「そうだな。やすやすと中川部長を褒める必要はなかった。」

「そこまで言われる必要もないと思うのですが。」

「中川部長の『財務的』とは何かという質問。これには2つの意味があると思うんだ。」

「どういうことですか?」


財務側面にフォーカスするという意味

「現場をマネジメントする時には、いくつかのやり方があった。それは覚えているか?」

「はい、3つのコントロールですね。働き手の動きに注目する行動コントロールと、成果に注目する成果コントロール、そして人の性質や性向に注目する人的コントロールでした。」

「そうだ。現場の働き手をマネジメントする時には、この3つをうまく使いこなす必要があるが、マネジャーをマネジメントする場合、全てが同じように重要だろうか?」

「そうですね。そう言われてみると、成果コントロールがメインになりそうな気がします。」

「そうだな。特に上級マネジャーをマネジメントする時は、行動や人的側面がメインになることはないだろう。」

「部長の仕事は何々をすること、なんてアクションリストを作るなんて、ナンセンスですね。」

「部長がきちんと仕事をするためにチームを形成するなんてことも、あまり本質ではないだろう。そういう管理は自分でできる人材がマネジャーに登用されているはずだ。」

「だから、マネジャーに対するマネジメントの場合には『成果』にフォーカスされるのですね。」

「そう、成果、それも決算書に反映される財務的成果にフォーカスする訳だ。」


財務的なフィードバックを行うという意味

「財務的成果マネジメントには、それに加えてもう一つの意味があると思う。」

「何ですか?それは。」

「フィードバックが財務的だという意味だ。」

「うーん。持って回った表現ですが、ぶっちゃけ『給料やボーナスの多寡で報いる』という意味ですか?」

「中川部長流の表現で言うと、ぶっちゃけ、そういう意味だろうな。」

「分かるような気がします。というか、先に『財務側面にフォーカスする』という意味の裏返しではないですか?マネジメントする時に行動や人の性質や性向などよりも財務的成果にフォーカスするなら、フィードバックも給料やボーナスに集約されてくると思うのです。」

「その通りだな。でも、面白いと思わないか?」

「何ですか?」

「現場の働き手たちは組合を通して自分たちの要求を伝えてくる。その中身は、もちろん給料やボーナスも含まれているが、労働環境や上司からの命令内容など盛り沢山だ。」

「なるほど。財務的成果マネジメントだけでなく、行動コントロールや成果コントロール、人的コントロールの改善を求めている訳ですね。」

「そう言うことだ。」

「一方で、マネジャーの要望は給料やボーナスに集約される。」

「本当ですね。そう言われると、マネジャーへのマネジメントに『財務的成果マネジメント』という名前が付けられたことにも、納得がいきます。」


財務的成果マネジメントの位置付け

「ここで一つ念のため伝えておこうと思うことがある。」

「何ですか?」

「財務的成果マネジメントと、今までに説明した『戦略創造・ブレークダウン』、『現場マネジャーへのマネジメント』、『部門間連携』そして『マネジメント体制の再構築』との関係だ。」

「なるほど。同じではないことは分かりますが、どう違うのでしょう?面と向かって言われると、答えに困りますね。」

「財務的成果マネジメントは、『戦略創造・ブレークダウン』、『現場マネジャーへのマネジメント』、『部門間連携』そして『マネジメント体制の再構築』をうまく機能させるために行うツール、もしくは方法論として活用するものだということだ。」

「あ、分かりました。現場マネジャーのマネジメントの時と同じですね。」

「そうなんだ。」

「現場マネジャーには、『現場パフォーマンス向上』や『連携』、『戦略対応』、『矛盾解消』、『環境整備』という役割を担っており、それを行うツール、もしくは方法論として『行動コントロール』、『成果コントロール』そして『人的コントロール』を行うのでしたね。」

「そうなんだ。上級マネジャーの場合も同様に『戦略創造・ブレークダウン』、『現場マネジャーへのマネジメント』、『部門間連携』そして『マネジメント体制の再構築』という役割を担っており、それを行うツール、もしくは方法論として『財務的成果マネジメント』を活用する。」

「了解しました。」
 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

昨年まで、現場マネジャーが行うマネジメントについて、世界標準のマネジメント理論である「MCS(マネジメント・コントロール・システム)論」をベースに考えてきました。日本では「マネジメント」について省みることがほとんどないようですが、世界では「マネジメントとはこういうものだ」という姿がきちんと描かれていて、それを学ぶように促されています。日本のホワイトカラーの生産性が低迷している原因は、もしかしたら、このあたりにあるのかもしれません。

昨年度は約1年かけて、現場マネジャーのマネジメントについて考えてきました。現場マネジャーは、現場で働く人たちが高いパフォーマンスをあげられるよう促すマネジメントを行なっています。一方で現場マネジャーも、マネジメントを受けます。現場マネジャーが行うマネジメントが現場の力をあますところなく引き出しているか、企業として目指す方針や戦略を実現できるよう導いているかという観点でのマネジメントを必要としているのです。

今年度は、連続コラム「マネジメントを再考してみる」の後編として、上級マネジメント(上級マネジャーの行うマネジメント)についてMCS論をベースに考えます。上級マネジャーがどんな役割を担っているか、それをどのように果たしていくかについて、体系的にご説明します。 企業パフォーマンスを向上させる世界標準のマネジメントに関する解説は、日本初の試みです。是非、お楽しみください。


Webサイト:StrateCutions

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