マネジメントを再考してみる 後編<上級マネジメント>

第27回

部門間連携のWin-Win発想法

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
「上級マネジャーの役割として、他部門との連携についてお聞きしてきました。」

「これは是非、進めていって欲しいところだ。これをするとしないとでは、会社としてのパフォーマンスに大きく差が出てくるのだから。」

「おっしゃる意味は、よくわかります。しかし、現場レベルでは難しいと考える気持ちも、よくわかります。」

「どういう意味だ?」

「他部門と連携すると我が部門のパフォーマンスがあげられなくなるのです。他部門が良い成績をあげる手伝いをして、こちらは成績低迷では目も当てられません。」

「そうだな。そういうことが全くないとは、私も言わない。しかし、考え方を改めてもらいたいとも思う。」

「考え方を改めるですって!どんな風にですか?」


いつもWin=Winで発想する

「連携する他部門も自分もメリットが得られる、Win=Winで発想することだよ。」

「Win=Winですか、一時期流行りましたよね。」

「Win=Winは流行り廃りで考えるものではない。いつも、その方向性で考えてもらいたいものだ。」

「でも、最近はWin=Winという言葉もあまり耳にしなくなりました。これって、やっぱりWin=Winは絵に描いた餅だとみんなが考えるようになったからではないだろうか?」

「最近は昔ほど『IT化』という言葉を聞かなくなったと思う。では、『IT化』は時代遅れになったのだろうか?」

「それは逆ですね。当たり前すぎるから、あまり耳にしなくなったのではないかと思います。」

「俺もそう思う。同じようにWin=Winについても『当たり前になった』と言えるようになって欲しい。」

「そのお気持ちは、わかりました。Win=Winを『当たり前になった』と言えるようにするには、どうすれば良いのでしょうか?」

「一筋縄ではいかないこと、俺もわかっているよ。」

「何か、名案があるのですか?」


<問題解決法を研究する>

「俺は、Win=Winを当たり前に活用できるように、問題解決法を研究するようになった。」

「本当ですか?いろいろあるのでしょうね。どんな本を読まれたのですか?」

「いろいろ読んではみたが、自分にとって腑に落ちた解決方法をパターン化した方が良いのではないかと思っている。」

「どんなパターンがあるのですか?」

「そうだな。いくつか紹介しよう。」


原因を取り除く

「問題が生じた時、どうする?」

「原因を調べます。」

「そう、それって、原因を取り除けば問題現象が消失するという考え方に則っているよな。」

「言われてみれば、そうですね。」

「つまり問題解決の最初は、原因を取り除くことだ。」

「ある特定の人物が問題を起こしやすかったらその人をチームから外すという考え方ですね。」

「仕上がり精度の低い工作機械は使わないようにするという考え方でもある。」

「なるほど。」


原因が問題現象を生まないようにする

「しかし、原因があれば必ず問題が生じるのかな?」

「そうではないのですか?」

「問題児がいれば、必ず問題が起きるのか?」

「そうではなさそうですね。」

「そうだ。だから第2は、原因があっても問題現象を起こさないようにするというアプローチがある。」

「問題を起こしやすい人物には重要な仕事は任せないという方法がありそうですね。」

「そうだ。仕上がり精度の低い工作機械は前処理で使って仕上げは別の機械を使うというアプローチが有効だろう。」


問題現象を消す

「そして、どうしても問題現象が生じてしまった場合には、それを消すという方法がある。」

「そんな魔法のようなことができるのですか?」

「いや、これは結構、誰でも使っている方法だよ。『暑くなったらクーラーを点ける』というのも、この方法だ。」

「なるほど。問題児がお客様とトラブルを起こしてしまった場合には、そのもととなった発注ミスを是正してお客様の怒りを鎮めてもらうということですね。」

「そうだな。精度の低い工作機械で作った仕上がりの劣った製品に修正を加えるという方法でもある。」


問題現象に蓋をする

「問題現象が起きた場合の対処には、まだあるぞ。」

「えっ、本当ですか?」

「問題現象を『消す』訳ではない、蓋をするということだ。」

「蓋をするとは?」

「端的に言って『気にしない』ということかな。」

「なるほど。暑さを我慢することですね。」

「誠意をもって対応した顧客とトラブルがあり、どうしても許してもらえない時には『そのお客様との取引継続は期待しない』と考えても良いのかもしれない。」

「精度の低い工作機械で作った仕上がり精度の低い製品はB級品として販売するという方法もあるのかもしれません。当社では実行していませんが。」


問題現象に新たな意味合いを与える(意味合いを変える)

「今度はちょっと趣を変えてみよう。問題現象に新たな意味合いを与えるというアプローチがあると思う。」

「なんですか、それは?」

「我が社のような保守的な企業では、問題を起こしやすいとされている人物とは、もしかしたら、斬新なアイディアが出せる人物なのかもしれない。」

「そうかもしれませんね。」

「そういう人物に、今まで誰も考えたことのない突飛なアイディアを出してもらって戦略を練る場合の叩き台にすることはできなだろうか?」

「うーん、難しい気もしますが、可能性はありますね。」

「じゃあ、こちらは現実に当社でも使っている方法だ。旧型で仕上がり精度の低い工作機械を研修用として活用するということだ。」

「確かに。全て手作業の取り扱いが難しい機械の操作法を会得することで、最新機械のプログラミングが上達したという例もあるそうです。」


問題の重要性を下げる

「いろいろ挙げたが、そろそろ最後にしよう。問題の重要性を下げるというアプローチがある。」

「なんですか、それは?」

「問題だと思っていたことの裏に、実は価値あることが秘められた、ということはないか?」

「それは、結構ありますね。というか、我が社ではそれが存在価値でもあるのです。つまり、高付加価値の製品は加工が難しい、不良が出やすいということです。」

「良い指摘だな。苦労が多い課題でも、その解決で大きな成果が得られるならば、苦労の大きさは問題にならない。成果に目を向ければ良い訳だ。」

「とすると、問題を起こしやすいとされている人物こそ、秀でているところに注目して、その才能を特に必要としている仕事に携わってもらうことが大切なんですね。」

「そうなんだ。一方で、仕上がり精度の低い工作機械のことも考えてみよう。それで製品を作れば、ざっくりとした仕上がりの製品ができるだろうな。」

「まるで昭和の時代に立ち返ったようですね。」

「そうなんだ。もしかしたら、それはそれで需要があるかもしれないな。」

「確かにそうです。」


各部門を『調整』レベルではなく『連携』レベルで関係させる

「こうやって考えてみると、以前の例で用いられた思考法がわかったような気がします。」

「以前の例?何だっけ?」

「ある製品1,000個を納期30日で納入して欲しい旨の顧客からの要望を営業部門が生産部門に伝えた時の話です。生産部門は納期60日でないと無理だと断ったらどうするか?」

「落とし所は45日ではなかったな。」

「そうです。生産部門から『300個だったら可能。残りは60日待ってもらわなければ無理』との返答を引き出すことでお客様とWin=Winすることができました。」

「それは営業部門と生産部門との間にも、Win=Winできたということだな。」

「そうですね。45日というソリューションを出してしまったらWin=LoseどころかLose=Loseでした。」

「さて、この場合、連携したことで誰かが損をしたか?」

「いいえ、していません。」

「そうなんだ。確かに連携の場合には、歩み寄ってやる、こちらが少し手を貸してやるということもあるだろう。しかし、そういう場合ばかりではない。Win=Winできる場合もある。」

「そうですね。心して、連携したいと思います。」

 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

昨年まで、現場マネジャーが行うマネジメントについて、世界標準のマネジメント理論である「MCS(マネジメント・コントロール・システム)論」をベースに考えてきました。日本では「マネジメント」について省みることがほとんどないようですが、世界では「マネジメントとはこういうものだ」という姿がきちんと描かれていて、それを学ぶように促されています。日本のホワイトカラーの生産性が低迷している原因は、もしかしたら、このあたりにあるのかもしれません。

昨年度は約1年かけて、現場マネジャーのマネジメントについて考えてきました。現場マネジャーは、現場で働く人たちが高いパフォーマンスをあげられるよう促すマネジメントを行なっています。一方で現場マネジャーも、マネジメントを受けます。現場マネジャーが行うマネジメントが現場の力をあますところなく引き出しているか、企業として目指す方針や戦略を実現できるよう導いているかという観点でのマネジメントを必要としているのです。

今年度は、連続コラム「マネジメントを再考してみる」の後編として、上級マネジメント(上級マネジャーの行うマネジメント)についてMCS論をベースに考えます。上級マネジャーがどんな役割を担っているか、それをどのように果たしていくかについて、体系的にご説明します。 企業パフォーマンスを向上させる世界標準のマネジメントに関する解説は、日本初の試みです。是非、お楽しみください。


Webサイト:StrateCutions

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