マネジメントを再考してみる 後編<上級マネジメント>

第37回

フィードバックしながら改善していく

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
「上級マネジャーの役割について理解してもらったところで、次に行こう。」

「はい。でも、次とは何でしょうか?」

「もちろん、その役割をきちんと果たしてもらうための、マネジメントの改善方法についてだ。」

「あ、確かにそうですね。ぜひ、教えてください。」

「と言いながら、そんなに難しいことではない。フィードバックしながら、改善することだ。ちなみにここでいう『改善』のことを『コントロール』と言おう。」

「『改善』のことを『コントロール』と言うことは、前にもお聞きしましたね。しかし、上級マネジャーが役割をきちんと果たす方法論がフィードバックだなんて、あまりにも分かり切ったことで。身も蓋もないと感じてしまいます。」

「そういうと思ったよ。でも、この問題は奥が深いんだ。」


フィードバックを機能させる要素

「なにごとも手がけてすぐにうまくいくことはない。物ごとを上手に行うためには『改善していく』ことが必要だ。」

「はい。だから、目標が実現できなかったら実現できるようにフィードバックしながら試行錯誤していくべきだと、三上取締役は仰りたい訳ですね。」

「そうだ。しかし簡単にいうが、いくつかなくてはならない要素がある。」

「何でしょう?」

「目標、目標実現のメカニズム、メカニズムが果たす役割そしてコントロール手法だ。」

「思いっきり、難しい表現ですね。説明してください。」


単純な事例

「分かった。暖房機の例で考えてみよう。暖房機は室温を20℃に設定すると、20℃未満では電気ヒーターが働き、20℃に到達すれば休止する。また20℃を下回ると電気ヒーターに再通電する。」

「はい。それが何か?」

「気が付くことはないか?」

「当たり前すぎて、何も?」

「部屋の中に暖房機がなければ、この話は成り立つか?」

「成り立ちません。」

「暖房機のコードが電源に繋がっていなければ、この話は成り立つか?」

「成り立ちません。」

「暖房機に、室温に応じて電源を入切する機能が備えられていなければ、この話は成り立つか?」

「成り立ちません。」

「暖房機に『目標温度20℃』とセットしなければ、この話は成り立つか?」

「成り立ちません。なるほど、だからフィードバックを機能させるには、目標(室温を20℃に保つ)と目標実現のメカニズム(暖房機を使う)、メカニズムが果たす役割(電気ヒーターで加熱する)そしてコントロール手法(室温に応じて通断電する)が必要なのですね。」

「そうなんだ。」


マネジメントをコントロールする場合

「同じことがマネジメントにも言える。目標を決めてマネジメントを実施し、目標を実現できればそのマネジメントを継続すれば良いと考えらる。しかし、目標を達成できない場合は改善(コントロール)しなければならない。」

「マネジメントのメカニズムを活用して、改善していく訳ですね。」

「そうだ。そしてその場合も、同じ要件が成り立つ。」

「目標は、我が社で設定される種々の目標ですね。全社目標や、ブレークダウンされて各マネジャーに課される目標が該当すると思います。」

「目標実現のメカニズムとは、会社の場合、階層構造になっている等ことだ。現場では働き手たちが業務改善(業務コントロール)しながら製品やサービスを顧客に提供している。経営陣は経営戦略をブラッシュアップ(戦略コントロール)している。」

「そして両者を繋ぐマネジャーが、マネジメントを実施し、それを改善(マネジメント・コントロール)している訳ですね。」

「そういうことだ。」

「では、メカニズムが果たす役割とは何ですか?」

「そこが肝なんだ。メカニズムが果たす役割とは、会社の場合、マネジャーが果たすべき役割となる。部長が自分の役割を果たし、課長が自分の役割を果たすということだ。」

「それで三上取締役は、上級マネジャーにしても現場マネジャーにしても、彼らの役割をしっかり説明してくれたのですね。」

「そうなんだ。マネジャーは、自分の役割をもっときちんと果たせるように自分のマネジメントを改善していく。それがマネジメント・コントロールだからな。」

「なるほど。」

「そしてコントロール手法とは、会社の場合、マネジャーがマネジメントとして行える幾つかの手法のことだ。」

「それって、もしかしたら、現場マネジャーのマネジメントの時に教わった『アクション・コントロール』、『リザルト・コントロール』そして『ピープル・コントロール』のことですか?」

「ご名答。」


<MCSを活用する>

「なるほど、分かってきましたよ。マネジャーは、自分の役割をよりきちんと果たせるようにするために、アクション・コントロール、リザルト・コントロールそしてピープル・コントロールの3つの手法について熟達していく必要があるということなんですね。」

「またまた、ご名答。」

「ということで、マネジメントをフィードバックしながら改善していくことについて、納得してもらえたかな。」

「ええ、すごく納得しました。今までも、自分のマネジメントを改善していこうという気持ちは高かったと思います。でも、なかなかうまくいきませんでした。その理由が、分かったような気がします。」

「どんな風に。」

「例えば『現場マネジャーへのマネジメント』を改善する必要性を感じた時です。現場マネジャーが、現場のことをあまり把握していないと感じました。だから『現場のことをよく観察しろ。何が起きているか見極め、的確にリーダーシップを果たせ』と言っていました。」

「なるほど。」

「それでうまくいかない時、その言葉を改善することがマネジメントの改善だと思っていたのです。」

「ありがちな誤解だな。」

「そうなんです。同じ言葉を何度も繰り返したり、効果的な言葉を選ぶようにしてきました。」

「それってつまり、きつい言葉を選んだということだな。」

「はっきり言えば、そうです。」

「それで効果が出たのか?」

「出ませんでした。その理由が、分かりました。」

「どんな風に?」

「改善する時には、MCSで学んだことを活用すれば良かったのですね。つまり、アクション・コントロール、リザルト・コントロールそしてピープル・コントロールの3つの手法を意識することです。」

「具体的には?」

「私が言った『現場のことをよく観察しろ、的確にリーダーシップを果たせ』という言葉は、アクション・コントロールのようでアクション・コントロールではありません。具体性がないし、チェックのしようがないからです。」

「ふむふむ。」

「これをアクション・コントロールにするには、例えば『毎週のマネジャー会議で、現場の報告をさせる』という方法があったかもしれません。進捗遅れがあるなら、その原因を見極めた上で発表させるのです。このように取り決めれば、現場マネジャーは、自分が何を観察してどんなマネジメントを行うべきかを真剣に考えるよう、促されたでしょう。」

「俺もそう思うよ。」

「はい。こうやって考えて見ると、マネジメントを改善しようとする時、MCSの考え方はとても役に立ちますね。」

「そうなんだ。だからこんなに一生懸命、中川部長に説明しているんだよ。」

「普段もそう思っていましたが、今回、改めてそう感じました。三上取締役から学んだMCS、しっかりと取り込んで、我が社のマネジメント体制を改革していきたいと思います。」

「そう願うよ。」
 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

昨年まで、現場マネジャーが行うマネジメントについて、世界標準のマネジメント理論である「MCS(マネジメント・コントロール・システム)論」をベースに考えてきました。日本では「マネジメント」について省みることがほとんどないようですが、世界では「マネジメントとはこういうものだ」という姿がきちんと描かれていて、それを学ぶように促されています。日本のホワイトカラーの生産性が低迷している原因は、もしかしたら、このあたりにあるのかもしれません。

昨年度は約1年かけて、現場マネジャーのマネジメントについて考えてきました。現場マネジャーは、現場で働く人たちが高いパフォーマンスをあげられるよう促すマネジメントを行なっています。一方で現場マネジャーも、マネジメントを受けます。現場マネジャーが行うマネジメントが現場の力をあますところなく引き出しているか、企業として目指す方針や戦略を実現できるよう導いているかという観点でのマネジメントを必要としているのです。

今年度は、連続コラム「マネジメントを再考してみる」の後編として、上級マネジメント(上級マネジャーの行うマネジメント)についてMCS論をベースに考えます。上級マネジャーがどんな役割を担っているか、それをどのように果たしていくかについて、体系的にご説明します。 企業パフォーマンスを向上させる世界標準のマネジメントに関する解説は、日本初の試みです。是非、お楽しみください。


Webサイト:StrateCutions

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