マネジメントを再考してみる 後編<上級マネジメント>

第41回

マネジメントの落とし穴

落藤 伸夫 2018年2月9日
 

「上級マネジャーが行うべきマネジメントについて、今回もいろいろとお聞きして来ました。」


「そうだな。思った通り、長い解説になったな。」


「率直な印象を申しても良いですか?」


「もちろん。この改革の実質リーダーとなる中川部長が疑問を抱えたまま取組みを推進できないからな。なんなりと言ってくれ。」


「私、MCSをベースにしたマネジメントの枠組みを聞いて、『これは素晴らしい。これは新しい』と思ったのです。でも、よくよく考えてみると、欧米で実践されているマネジメント、そのものなのですよね。」


「よく気が付いたな。というより、その話は既にしていたと思っていたが。確かにMCSは、欧米で行われているマネジメントを体系化したものだ。一方で、マネジメントがMCSという形で体系化されたことにより、現場のマネジメントも改善されて来たという効果もあっただろう。」


「現場と理論で、相乗効果があったのですね。」



MCSの弊害

「MCSの理論と現場の実践が相乗効果でもってお互いをブラッシュアップしたことで、現在の欧米の強み、もっと言えばホワイトカラーの高い生産性がもたらされた、そう三上取締役は仰りたいのですね。そのお話、頭では理解できます。しかし、欧米のマネジメントというと弊害も多いような気がします。そういう声を、多く聞きますから。とすると、安易に導入してはいけないのではないかという気もするのです。」


「会社や個人の業績が短期的な指標で判断されることで、息の長い取組みが軽視されるという話かな。」


「そうです。図星ですね。」


「いつかそういう疑問が出てくるだろうと思ったからな。」


「で、実際のところ、どうなんでしょう?」


「質問に質問で返して悪いが、一つ質問させてくれ。例えば人材の将来性を発掘して、それを実らせるために育成していくという取組みは、日本と欧米とでどちらが行われていると思う。」


「そうですね。人材育成プログラムの多くが欧米からもたらされていることを考えると、欧米の方が活発なのだと思います。」


「そういう取組み、短期的な視野だけで行われるものだろうか?」


「いや、そうではないでしょう。逆に長期的視野に立ってしっかりとした考え方に基づかなければ、できないと思います。」



積み重ねられた克服への試み

「しかし、そうやって考えてみると変ですね。もしそうなら、なぜ、欧米流のマネジメントは短期的な視野になりやすいというイメージが付きまとっているのでしょうか?」


「会計指標をベースにしたマネジメントには、実際に、そのような性質があるからだろうな。そして、その弊害が猛威を振るった時代もある。」


「やっぱり。では、やはり安易に取り込むのは危険なのではありませんか?」


「いや。だからこそ、その弊害が認識され、対策が考えられてきたんだ。」


「本当ですか?」


「本当だとも。MCSの教科書を見ると、これは『近視眼問題』として論じられているくらいなんだ。」


「そうですか。では、それを教えてください。」



マネジメントよる近視眼

「では、まず、近視眼問題としてどんな現象があるか考えてみよう。」


「はい、これは明白ですね。我が社でも時々、見受けられます。売上目標を達成するため、決算月、息のかかった販売会社に商品を受け入れてもらうなどという現象が横行しています。」


「来期になったら返品されるわけだな。」


「そうなんです。そのような取引はやめるよう御触れが出るのですが、毎年毎年繰り返されています。」


「そんなことをしたら、後で泣きを見るのは営業部門自身なのにな。でも、やってしまう訳だ。」


「そうなんです。MCSを推進すると、その傾向に歯止めがかからないどころか、もっと激しくなるのではないでしょうか?」


「その話の結論は、説明を最後まで聞いて自分で判断してもらおう。」



原因(その1)目標の不適正

「さて、このような現象が起きる根本原因は、何だろう?」


「さて、何なのでしょう?」


「MCSでは3つの原因が提示されている。」


「3つもですか?そういう細かい分析があるところが、欧米理論の魅力ですね。分析ができれば望む結果が必ず得られるかとは限りませんが、分析ができていなければうまくいく可能性など皆無ですから。成功に一歩近づいたといえます。」


「そうだな。分析が出発点という意見、俺も賛成だよ。その出発点のその1は『目標の不適正』だ。」


「目標の不適正ですって?そんな、不適正な目標を設定することなんてあり得ませんよ。」


「いや、そうでもないぞ。先ほど、営業部門が決算月に、息のかかった販売会社に商品を受け入れてもらっているという話があった。それは、なぜだ?」


「売上目標を達成するためです。」


「なぜ売上目標なんだ?会社としては利益を出したいのだろう?目標とすべきは利益目標なのではないか?」


「うーん、それは・・・。」


「いや、悪かったな。利益は会社全体で出すものだ。つまり製造部門や配送部門、はたまた財務部門なども絡んでいる。そのような『利益』を、営業部門が単独で責任を持つような形にはできない。だから売上目標しか立てられないんだ。」


「はい・・・。」


「ここで理解して欲しいことは、ベストな目標があるにも関わらず、業務のオペレーションや会計処理、また責任や権限の範囲などの理由でそれが使えないことが多いということなんだ。不適正な目標を使わざるを得ない場合も多いんだ。」


「なるほど。このような場合には仕方なく、問題のある目標を使わざるを得ないのですね。」


「そういうことだ。」



原因(その2)ロジカルな誤導

「次は、ロジカルな誤導だ。」


「ロジカルな誤導?なんですか、それは。」


「先ほど『本当は利益を目標にしたいのだが、営業部門では売上を目標にせざるを得ない』という話をした。」


「はい。」


「今度は会社全体の話として考えてみよう。この場合は、利益を目標とすれば良いな。例えば『営業利益率は現在5%だが、今期目標は10%にする』と。」


「はい。それで良いと思います。」


「しかし、人は時としてロジカルに誤導されてしまう。」


「えっ、それは何故ですか?」


「利益率を上げるには、いろいろな方法がある。」


「売上単価を上げ、コストを下げるのですね。」


「そうだな。では、コストを下げるため研修費を削るのはどうだ。給料の高い熟練者を辞めさせ、経験のない未熟練者に置き換えるのは?」


「まさに、近視眼的な対応ですね。」



原因(その3)ゲームズマンシップ

「原因の3つ目は『ゲームズマンシップ』だ。」


「何ですか?そのゲームズマンシップとは。スポーツマンシップは聞いたことがありますが。」


「ゲームズマンシップとは、スポーツマンシップの反対だと思えば間違いないだろう。スポーツマンシップとは、どういう意味だ?」


「正々堂々と戦うことですね。勝利と正々堂々を天秤にかけると、正々堂々を重視する姿勢だとも言えます。」


「なかなか良いことを言うな。ちょうど良い表現だ。ゲームズマンシップとは、勝利と正々堂々を天秤にかけると、勝利を重視する姿勢だ。」


「勝つためには手段を選ばないと言うことですね。」


「そうなんだ。先ほどの押し込み販売などはゲームズマンシップの典型例だな。」


「本当にそうです。」



目標をベースにしたマネジメントが人々を誤導する

「さて、以上から何がわかっただろうか?」


「目標をベースにマネジメントするというのは、とても合理的に見えますが、実際は誤導する要素が満載だということですね。なので真面目に取り組んでも、期待した成果が得られない場合が多いということだと思います。」


「まさにそうだ。適切な目標を選んだつもりでも、実際は妥協の産物で、間違った方向に人々を導いてしまう場合がある。」


「本当に適切な目標を目指していても、合理的な手段が、時には望まぬ結果を生む場合もあるようですね。」


「そして人には『ゲームに勝つこと』に集中してしまい、本質から目を背けてしまう性質もある。」


「これらを知らなかったら、間違った方向にフルスロットルで驀進してしまうことでしょう。私が危惧していたような状態です。」


「そうなんだ。逆に、目標によるマネジメントの陥りがちな罠を意識して、その回避策を取っていれば、パフォーマンスは高まるだろう。」


「それがMCSがうまく機能している姿だと仰りたいのですね。三上取締役は。」


「そうなんだ。我が社にもそのようなMCSを取り入れたいと思っている。」


「わかりました。」


 
 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

昨年まで、現場マネジャーが行うマネジメントについて、世界標準のマネジメント理論である「MCS(マネジメント・コントロール・システム)論」をベースに考えてきました。日本では「マネジメント」について省みることがほとんどないようですが、世界では「マネジメントとはこういうものだ」という姿がきちんと描かれていて、それを学ぶように促されています。日本のホワイトカラーの生産性が低迷している原因は、もしかしたら、このあたりにあるのかもしれません。

昨年度は約1年かけて、現場マネジャーのマネジメントについて考えてきました。現場マネジャーは、現場で働く人たちが高いパフォーマンスをあげられるよう促すマネジメントを行なっています。一方で現場マネジャーも、マネジメントを受けます。現場マネジャーが行うマネジメントが現場の力をあますところなく引き出しているか、企業として目指す方針や戦略を実現できるよう導いているかという観点でのマネジメントを必要としているのです。

今年度は、連続コラム「マネジメントを再考してみる」の後編として、上級マネジメント(上級マネジャーの行うマネジメント)についてMCS論をベースに考えます。上級マネジャーがどんな役割を担っているか、それをどのように果たしていくかについて、体系的にご説明します。 企業パフォーマンスを向上させる世界標準のマネジメントに関する解説は、日本初の試みです。是非、お楽しみください。

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