「経営戦略には階層があるということをお聞きしました。」
「聞いてみたら『当たり前のことだ』と感じただろう。しかし、自分が関わるべき戦略のレベルが分かっていないマネジャーが多い。経営陣もだ。」
「相変わらずの毒舌ですね。でも、そのお考え、わかるようになってきました。」
「そうなんだ。特に上のレベルに行けば行くほど、自分にふさわしいレベルが分かっていない。課長レベルで止まっているメンバーさえいる。」
「私、そのような恐ろしい話に加担していると思われたくないので、そろそろ本題に入ってもらって良いですか?」
「そうだな。」
「上級マネジャーの役割について、経営戦略の部分を教えてもらっています。」
「その、前提となる経営戦略のレベルについて説明したところだ。そろそろ、そこで上級マネジャーがどのように関わっていくか、考えてみよう。」
「お願いします。」
「上級マネジャーの、日常業務の順番からすると出てくるのはかなり後になることも多いのだろうけれど、ここではせっかく『経営戦略のレベル』について考えたので、そのトップレベルから考えていこう。」
経営戦略(基本戦略)策定に貢献する
「トップレベルですか?経営戦略の中でも基本戦略と呼ばれているものですよね。それって、経営陣の仕事だと習ったばかりだと思いますが。」
「もちろんそうだ。だが、経営陣が基本戦略を定めるに当たって『総合的な判断があった』、『いろいろリサーチして、当社の強みや弱み、市場の動向などを検討し、ありとあらゆる可能性を考えながら決めた』と言ったのを、覚えているだろう。」
「それはもう、もちろん。」
「では『いろいろリサーチして、当社の強みや弱み、市場の動向などを検討し、ありとあらゆる可能性を考える』のは、経営陣ができるのだろうか?」
「そのために、それなりの企業には経営戦略室が必要なのではないですか?三上取締役が、いつも力説しておられるように。」
「そうだな。当社ほどの規模、事業内容、そして事業環境だと経営戦略室は必要だと思う。しかし、それがあれば上級マネジャーの貢献が不要になる訳ではない。」
「基本戦略の策定に、上級マネジャーが関わるということですか?よく分かりません。」
経営戦略(基本戦略)策定に必要な情報
「思い出してもらおう。基本戦略は経営陣が、鉛筆なめなめ作れば良いのだろうか?それを中川部長は『お気楽』と言っていたようだが。」
「そうではなかったですね。総合的な判断が必要ですし、その前提として、いろいろリサーチ、分析、判断が必要でした。」
「例えば当社の強みや弱みについて、経営陣が全てを知っているのだろうか?」
「もちろん、そうではないと思います。特に現場の強みや弱みは、現場が一番、よく知っているでしょうね。」
「顧客や市場についてはどうだろうか?」
「現場は、顧客や市場についての肌感覚を持っています。」
「そうだよな。統計や、業界紙などで紹介されるトレンドなども大切だが『顧客は、仕入れ先を多様化する戦略を取っているらしい』とか、『ある顧客は、相見積もりを必要とするルールに変えようとしているらしい』などの情報も大切だ。」
「そうですね。最近は、引き合いをメールで行おうとする顧客が多くなりました。これはつまり、多数の仕入れ先に同じメールを出して、価格比較しているのですね。事実上の入札です。」
「そうなんだ。つまり・・・。」
「取引環境が大きく変わってきた可能性があるということです。この場合だと、競合の価格に、もっと敏感にならなければなりません。」
「そうだな。つまり。」
「戦略的な対応が必要ということですか?」
「その通り。経営戦略の最上位レベル、基本戦略にも影響が及ぶ可能性があるということだ。」
「おっしゃる通りですね。」
「どんなに良い戦略に見えても、顧客やビジネス環境を踏まえていない戦略は使い物にならない。」
「えらくはっきりと言われますね。」
「それは、そうだ。使い物にならない戦略に踊らされるほど、会社にとって無駄なことはない。」
「そうならないようにするために、現場の情報を取り入れなければならないということなのですね。」
「そういうことだ。」
求めに応じて、的確な情報を提供する
「一つお聞きして良いでしょうか?」
「なんだ?」
「経営陣が意思決定すべき経営戦略について、上級マネジャーも関わる必要があることについては、理解しました。でも、それは、上級マネジャーが『私にも関わらせてください』と申し出るような話ではないですよね。求められた時に対応すると言う感じでしょうか。」
「まさに、その通りだな。経営陣が戦略創造する時に、上級マネジャーがしゃしゃり出ることはないだろう。」
「そうやって、受け身で良いのなら、なぜ、この機能をわざわざ取り上げたのですか?」
「それは良い質問だな。上級マネジャーのポジションにある中川部長に、理解してもらいたいことがあったからだよ。」
「何ですか?それは?」
定例会議でより的確な情報を提供する
「経営陣の戦略創造を助ける情報を提供するという、この機能、どのように果たされると思う?」
「いや、そこをお聞きしたいと思っていたのです。私は部長で上級マネジャーですが、そういう情報を求められた記憶がないので。」
「じゃあ聞くが、中川部長は経営陣と全く切り離された状態で仕事しているのか?」
「いえ、そういう訳ではありません。月に一回、経営陣主催の『経営会議』に情報提供します。私の仕事の半分は、そこにどんな情報を、どのように提供するかを決めることだと言っても過言ではありません。」
「立場を変えてみよう。経営陣は、なぜ、経営会議を開いているのだ?」
「そうやって考えてみると・・・、経営戦略策定のための情報ですか?」
「もちろん、それだけではないだろう。多くの場合、今、推進している経営戦略の進捗度合いや達成度をモニタリングして、フィードバックするために使っている。」
「成績が良くないと、締め付けるという訳ですね。」
「別に、成績が悪くなければ怖くはないだろう?」
「ええ、まあ、そうですが。」
「それに、既存の経営戦略をブラッシュアップするために活用するかもしれない。」
「既存の経営戦略のブラッシュアップですって?なんですか、それは?」
「品質改善を目指した時に、当時の体制ではうまく推進できないので品質保証部を設置したというのも、ブラッシュアップに該当するだろうな。」
「そう言われたら、そうですね。」
「経営陣は、多分、経営会議で部長たちの報告を聞きながら、今言った措置をする必要かを考えているだろうな。」
「三上取締役は、そうしておられるという意味ですね。」
「そのような中、次の経営戦略を立てる時に参考になる情報がないかとも、思っているだろう。」
「例えば?」
「例えば、営業部から『我が社の取引先が相見積もりや入札を求めるようになってきた』という情報だ。」
「なるほど。」
「今期は品質向上を戦略目標にしている。では、来期はどうか?このまま品質をもっと高めていくことを目標にすべきなのか、それとも価格競争力を身に付けるよう目指すべきなのか?」
「なるほど。基本戦略は変える必要があるかの判断が必要なのですね。」
「その判断が必要になった時にきちんと判断できるよう、普段から情報収集に心がけているんだよ、経営陣というものは。」
「分かりました。決して、お気楽ではないのですね。」
上級マネジャーに意識してもらいたいこと
「ここまで言えば、俺の言いたいことが、分かってもらえたのではないかと思う。」
「経営陣はこれほどまでに真面目な姿勢で経営会議に臨んでいるので、しっかりと対応しろと仰りたいのですね。」
「何か角が立っているような表現だが、まあ、そういうことだ。」
「俺たち経営陣が真剣に聞いているのに、『今月は特段、報告すべき事項はありません』なんて言われると、カチンとくるという訳です。」
「ますます角が立っていると感じられるが、そういうことだ。」
「しかし、こちらの方としてはよく分からなくなるのですよ。誠意をもって報告しようとすると『そういうことを聞きたい訳ではない』なんて、半ば怒ったように言われるのですから。」
「実際、そうなのだから仕方ないな。」
「私たちはどうすれば良いのでしょうか?」
「俺たちの立場になって考えてくれれば良いんだ。経営陣は上級マネジャーからの報告を聞く時に、『現在の経営戦略の進捗管理』、『ブラッシュアップの必要性検討』そして『次期経営戦略のための題材探し』のネタはないかと、耳を皿のようにして聞いている。」
「多分それは、『目を皿に』だと思われますが。」
「自分たちが経営陣だったら、そのような役割を果たすために、どんな情報が欲しいかを考えて欲しい。」
「つまりそういうことを考えて、私たちが課長から情報収集するようにということですね。」
「そういうことだ。」