マネジメントを再考してみる 後編<上級マネジメント>

第42回

落とし穴へのアプローチ

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 

「マネジメントによる弊害についてお伺いしているところです。マネジメントを行うと、部下が、目指しているのとは違った方向に向かってしまうという弊害、よく起こりますよね。前回は、その原因について教えて頂きました。」


「そうだな。極端に言えば『マネジメントが目標の達成を目指すなら、そのことそのものに落とし穴がある』と言うことだろう。」


「そうですね。マネジメントで弊害が生じる原因の第1は『目標の不適正』、第2は『ロジカルな誤導』、そして第3が『ゲームズマンシップ』でした。言われてみると、もっともなことばかりです。」


「そう。これから考えると『目標の実現に向かって働き手たちを促す』というマネジメントには、弊害が不可避的に生まれてくるメカニズムが内在しているということができるだろう。」



自主性に任すアプローチは?

「すると、どうなんですか?マネジメントをあきらめて従業員の自主性に任せるしかないのでしょうか?」


「そうだな。自主性に任せるアプローチでうまくいく職場も存在するのかもしれない。個人での仕事が中心のデザイン事務所などだと、そういうマネジメントも成立するのかな。」


「でも、私たちの職場は、従業員の自主性だけでは成り立っていかないと思います。」


「その差は、どこにあるのだろう?」


「我が社のメイン製品である水道用品は、製造するのも、企画・設計するのも、そして営業するのも、当社の基準に則った形で熟練することが必要で、かつ、関係者と連携していかなければなりません。」


「そういう職場では、各個人の自主性に任すだけだと、うまく回っていかないということだな。」


「はい、職場で一緒に働くチームや他部門、時には外部関係者のことを考えに入れた目標を設定して、これらの信頼を裏切らないように実現していくことが必要だと思います。つまり、目標の実現に向かって働き手たちを促すマネジメントが必要なのです。」


「うん。俺も、そう思うよ。」



問題にしっかりと立ち向かう

「とすると、俺たちは、目標の実現を目指すマネジメントから逃げることはできない。不可避的とも思える問題に立ち向かっていくしかないということだな。」


「マネジメントで弊害が生じてしまう原因となっている『目標の不適正』、『ロジカルな誤導』、『ゲームズマンシップ』に対処するのですね。口で言うのは簡単ですが、どうやってこれに対処してゆけば良いのでしょう?」


「それについて、MCSは3つのアプローチを提案している。まずは『目標を改善する』、次に『目標以外のツールを使う』、そして『絶えず改善していく』だ。」



目標を改善する

「最初からお聞きさせてください。『目標を改善する』とはどういう意味ですか?時として不適切な目標が立てられている話しをお聞きして『それはいかん!』と思いましたが、そうせざるを得ない事情があるようです。それを聞いた時、目標を改善する方法はないと感じたのですが。」


「先日は、営業部門の目標として売上にするか、利益にするかという話をしたんだったな。売上を目標にするから『押し込み販売』などという弊害が起きる。そもそも会社で実現したいのは、売上ではなく利益だ。」


「そうです。だから『利益を目標にすれば良いではないか』と思いましたが、利益となると、他に関係する部署が多すぎて営業部門の目標としてそぐわない。そういうお話でした。」


「そう。それを改善するのだ。」


「どうやって、改善するのですか?」



指標をミックスする

「一つの方策として『指標をミックスする』という方法がある。


「指標をミックスする?」


「例えば、押し込み販売をした場合には既存特定顧客への販売ウエイトが高くなるという現象が生じる。なので、既存顧客と新規顧客の販売ウエイトをチェックし、既存顧客へのウエイトを制限すれば、押し込み販売を防止することができるだろう。」


「なるほど。売上高に新規・既存顧客販売ウエイトという目標を追加してミックスするのですね。」


「既存顧客への販売ではなく新規顧客への開拓をもっと強力に推進したいなら、新規顧客開拓数(口座数)という目標を加えるという手もあるぞ。」


「なるほど。目標をミックスして、単一目標だった場合の弊害を回避するという考え方、理解しました。」



目標以外のツールを使う(アクション・コントロール)

「マネジメントの弊害を回避する方法について、次に進もう。目標以外のツールを使うと言うことだ。」


「どういう意味ですか?」


「目標を定めてその達成を目指させるコントロール手法を、何といった?」


「リザルト・コントロールですね。」


「コントロールには、他に何がある?」


「アクション・コントロールと、ピープル・コントロールです。」


「つまり?」


「そうか。リザルト・コントロールで典型的に発生しがちな弊害に対処するため、アクション・コントロールとリザルト・コントロールを使うのですね。」


「そういうことだ。例えば、我が社ではどんな取り組みをしている?」


「どんなにノルマがシビアでも、マニュアルに沿った作業手順は遵守するというアクション・コントロールはしっかりと取り組んでいます。各ロットにはチェックリストが添付してあり、マニュアル通りの作業を行なったことと完了検査を行ったことについて、責任者が署名捺印しなければなりません。」


「ノルマのために急いで仕事をやり、不良品ばかり生産したのでは意味がないからな。」


「本当に、そうです。」



目標以外のツールを使う(ピープル・コントロール)

「ピープル・コントロールの併用については、思い当たることはないか?」


「うーん。」


「作業現場で毎日行うことになっている朝礼は、どうだ?」


「ああそうですね。現場の雰囲気作りに役立っていると思います。」


「雰囲気作りか。どういう意味だ?」


「職場の雰囲気について、私はMCSを学ぶまで無頓着だったのです。職場がどんな雰囲気でも、やるべきことをやってくれればそれで良いではないかと。」


「今はどうなんだ?」


「ノルマ実現のために急いでいる時に、手順をないがしろにするか、しっかりとマニュアル手順は守るのか、それを分けるのは職場の雰囲気だと思うようになりました。」


「そうなんだ。毎日朝礼をして品質に関する意識が作業者全員にしっかりと根付いていれば、過大とも思えるノルマが課せられた時でも、手抜きをするという近視眼的な判断に陥ることは少ないと思う。仲間に迷惑をかけることになってしまうからな。」


「逆に朝礼もなく仲間との繋がりもないと、少しくらい手を抜いても大丈夫かもという錯覚を起こしてしまうでしょう。」


「そうなんだ。ノルマ達成ばかりに目を向けて判断が近視眼的になってしまうという弊害が出てきたら、アクション・コントロールやピープル・コントロールが活用できていないのではないかと疑ってみる必要がある。」


「わかりました。」


 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

昨年まで、現場マネジャーが行うマネジメントについて、世界標準のマネジメント理論である「MCS(マネジメント・コントロール・システム)論」をベースに考えてきました。日本では「マネジメント」について省みることがほとんどないようですが、世界では「マネジメントとはこういうものだ」という姿がきちんと描かれていて、それを学ぶように促されています。日本のホワイトカラーの生産性が低迷している原因は、もしかしたら、このあたりにあるのかもしれません。

昨年度は約1年かけて、現場マネジャーのマネジメントについて考えてきました。現場マネジャーは、現場で働く人たちが高いパフォーマンスをあげられるよう促すマネジメントを行なっています。一方で現場マネジャーも、マネジメントを受けます。現場マネジャーが行うマネジメントが現場の力をあますところなく引き出しているか、企業として目指す方針や戦略を実現できるよう導いているかという観点でのマネジメントを必要としているのです。

今年度は、連続コラム「マネジメントを再考してみる」の後編として、上級マネジメント(上級マネジャーの行うマネジメント)についてMCS論をベースに考えます。上級マネジャーがどんな役割を担っているか、それをどのように果たしていくかについて、体系的にご説明します。 企業パフォーマンスを向上させる世界標準のマネジメントに関する解説は、日本初の試みです。是非、お楽しみください。


Webサイト:StrateCutions

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