社会によろこばれる会社のESを軸とした組織づくり

第12回

組織の多様な価値をはかる「クレドアセスメント」の具体的手法とは

 

 前回のコラムでは、組織の幸福度・企業文化の浸透度をはかるモノサシとして、次のような項目を掲げて「クレドアセスメント」として運用していく、というお話をお伝えしました。

○ クレボリューションプログラム(「アクティブミーティング」や「ありがとう運動」な どのES施策の実践)=クレドの理解・習慣化の実践度合いをはかる
○ インバスケットテスト=リーダーの企業文化の理解・実践度合いをはかる
○ チャレンジングシート=個々の成長と組織の成長との融合度合いをはかる
○ グリーンアクション="人と地域と環境にやさしい"という視点を日常の行動でどの程度  実践しているかをはかる
○ つながりインタビュー=組織の中での共感度や価値の高まりをはかる

 実際、組織診断や意識調査といった形で数値分析するケースもありますが、"理念"や"企業文化"という目には見えないものは数値で一律に把握できるものではありません。大量の情報が行き交い直線的な仕事の仕方が"複雑系"の仕事へと変化し、多様な仕事観のもとで多様な働き方をする社員がいる現在の組織においては、それらの多様な価値を多様なモノサシで多元的に把握していくべきであると私どもは考えています。
 そこで、前回お伝えした「クレドアセスメント」においては、「チャレンジングシート」や「インバスケットテスト」を用いた評価と、「クレボリューションプログラム」の取り組みに関する評価に対して、対話(ダイアログ)手法である「つながりインタビュー」を用いてアセスメントを行い、処遇(昇格や表彰)や配置、教育に反映させるわけです。

以下、チャレンジングシートとつながりインタビューの進め方についてご紹介しながら、クレドアセスメントという"目に見えない部分の評価"の大切さについて考えていきたいと思います。

新たな成果を生むチャレンジングな姿勢を養い、プロセスを評価するチャレンジングシート

 本来の目標管理制度、成果主義というのは、責任が伴う分"自由・裁量"がなければなりません。そのためには"権限委譲"が必要です。
 しかし、多くの社長さんは「不安で部下に権限委譲できない」と考えているのです。それは社員の自律性が足りていないか、会社として社員に価値観を示していないか、のいずれかが原因であると言えます。

 そこで、経営理念やビジョンといった組織としての価値観を明確に示し、それを具体的な行動レベルまで落とし込み、リーダーとしての成果を生み出すまでのプロセスを管理するツールとして「チャレンジングシート」があります。このシートを作成し、実行していくことで、社長や上司のおもいを社員一人ひとりと共有し、安心して権限委譲できるような自律心を養っていくことができます。

 リーダーの立場であれば、日々の仕事の4割から6割がチャレンジング業務(未来の業績に結びつく仕事)、残りをルーチンワークのような発生業務という割合で取り組むのが理想と言われています。しかし、その理想的な仕事の仕方を実践・継続していくのはなかなか困難です。そこで、このチャレンジングシートの中で、「年度」「月次」単位でのリーダーとして取り組むべき業務(会社目標、部門目標と連動している)を記入し、具体的な行動レベルまで落とし込んでいくのです。

 "具体的な行動レベル"とは、「このチャレンジングシートを見れば手・足・口・耳を実際に動かすことができる」ということです。そのためには、まずはリーダー自身が仕事の先(未来の仕事)を描いているか?自己の成長というものと社員一人ひとりが向き合っているか?という点が重要です。
 そのため、シートの中には"信念"を記入する欄をもうけ、自分の腹に落ちたおもいを自分の言葉で信念を語ってもらいます。そして、上司と部下との間で、これから取り掛かる仕事の意義や目指すべき姿を共有する、というESの視点を盛り込んでいるのです。
 ★チャレンジングシートについて詳しくはこちらをご覧ください。
 http://www.jinji-roumu.com/es/chasheet.html

 このチャレンジングシートの記入には、慣れないうちは4~5時間かかるかもしれません。しかし、このシート作成を通して、上司と部下がお互いの立場を理解することができるようになります。そして、年初に描いたチャレンジング業務の実践度合いを毎月チェックしていくことで、一年が経過した時には、自然と新たな成果が生み出されている状態を作り出すことができるのです。

"目には見えない"資本をはかる「つながりインタビュー」

 「チャレンジングシート」などクレドアセスメントの各ツールに取り組み、生み出された成果やそこに至るまでのプロセスを振り返って評価に結びつけるのが、「つながりインタビュー」という手法です。

 つながりインタビューとは、横浜開港150周年記念イベントである「イマジンヨコハマ」において、横浜で体験や横浜の未来について二人一組でインタビューし合う形で実施されました。
 そして、その後イマジンヨコハマに関連するさまざまなワークショップの中で展開され、未来に向けた横浜のブランドイメージが市民創発でまとめられたのですが、この手法を企業の組織開発においても活用することができます。

 例えば、新しく社員が入社してきた時に、新入社員が先輩社員に対してインタビューを行なって、組織がもつ共感資本を明らかにし、企業文化や会社の価値観を実感させることができます。また、そのインタビューを通して出てきた言葉を整理して、"人と地域と環境にやさしい"グリーンの考え方を盛り込んだクレドを作る際に活用することもできます。

 クレドアセスメントにおける「つながりインタビュー」は、以下の手順で行います。手元には、「チャレンジングシート」や「NGワードシート」や「ありがとうカード」などクレドアセスメントの各ツールを置き、期中の自分の行動を振り返りながら、落ち着いた状況の中で話をするようにします。

① 二人一組のペアになり、どの程度"価値"を高めたのかについて聞き手がインタビューを  し、話し手に語ってもらう。その内容は「気づきのシート」に聞き手が記録する。
② 聞き手・話し手を交換し、同様にインタビューする。「気づきのシート」は、記入完了 後、本人へ渡す。
③ 職場・部署内の他者のインタビュー内容(気づきのシート)を把握する。
④ 他者の内容も踏まえ、期中の"自己の価値の高まり度"について「つながりインタビューシ ート」に記入し、自己評価を行う。

インタビューは、次の4つの項目について、問いかけを行います。
・ 自分自身の会社や仲間とのつながりについて
・ 自分自身の会社のサービス商品やお客様とのつながりについて
・ 自分自身の地域や環境とのつながりについて
・ 自分自身の家族や友達とのつながりについて

これらの問いかけで登場する「会社」「お客様」「家族・友達」「地域」「環境」というのは、働く自分自身にとっての"ステークホルダー"にあたります。それらの関わりある存在との中で生じた"価値"がどの程度に高まったのかを評価し、同時に各々の暗黙知を洗い出して組織の資産として共有するための施策が「つながりインタビュー」なのです。

 個々の社員は、目には見えない"価値"を持っています。それは、大きく分けると「知識資本」「関係資本」「信頼資本」「評判資本」という4種類です。これらの価値の総量が組織全体の「共感資本」となり、その会社の企業文化をブランド化します。つまり、「うちの会社らしさ」がブランド力となり、他社との差別化を実現するわけです。
 しかし、共感資本は"お金"というモノサシで測ることはできません。社員一人ひとりの多様な価値観や、目には見えない共感資本を測るには、多元的なモノサシをもって測る必要があるのです。

人事考課ではなく人材アセスメントである

 このクレドアセスメントにおいて大切なのは、人事考課ではなく人材"アセスメント"である、ということです。

 業績に結びついた行動の一場面やその結果だけを見て単一的に評価する「人事考課」では、そこに至るまでのプロセスや、業績には結びつかないけれども企業文化を育む行動を取り上げ、評価し、承認することができません。そこで、組織の共感資本をはかることを目的として「クレドアセスメント」で企業文化を育む行動やプロセスを評価し、業績に結びつく行動や業績そのものの評価は「ES向上型人事制度」で行い金銭的報酬の分配につなげる、というわけです。

 冒頭で、「多様な価値を多様なモノサシで多元的に把握していくべき」ということをお伝えしました。そのような多元的な把握(=アセスメント)を行なうことで、個々の社員には"承認"や"自己の成長の実感"、"新たなチャンス"といった非金銭的報酬がもたらされ、持続的にモチベーションを向上させながら仕事に取り組む状態を作り出すことができるのです。
 これからの時代、単一的なモノサシではかった成果に対して金銭的報酬を分配していくだけでは、個々のモチベーションを"持続"させることはできませんし、組織全体の成長の糧とすることはできません。新たに生み出された多様な価値を多様なモノサシではかっていくことで、金銭的報酬と非金銭的報酬という「トータルリワード」をいかに組織のすみずみまで行き渡らせるか、という観点で、人事のしくみを考えていく必要があるのです。

第12回コラム執筆者

金野美香 (きんの みか)

(有)人事・労務 ヘッドESコンサルタント
厚生労働省認定CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)
日本ES開発協会(JES) 専務理事

福島大学行政社会学部行政学科卒業後、有限会社人事・労務にて、日本初のES(従業員満足)コンサルタントとして、企業をはじめ、大学、商工団体で講師を務めるなど幅広く活動する。「会社と社員の懸け橋」という信念のもと、独自に編み出したES向上プログラムや、組織活性度診断「人財士」を活用したやる気アッププロジェクトの立ち上げに取り組む。また最近は「人と社会と環境にやさしい企業風土づくり」をテーマに、「グリーンな企業風土づくり」、「社員が誇れる組織づくり体制」に力を入れ、ESを中心に更にSS(社会的満足)の要素を加えたグリーンクレドやクレドアセスメント、インビジブル人事制度等の新たな手法を企業に紹介、実践し、高い実績を得る。

●主な講演実績、著書
・「社会によろこばれる会社」のためのESを軸とした組織づくり (加須市商工会議所)
・後継者向けESマネジメント研修 (あいおいニッセイ同和損害保険株式会社)
・キャリアデザイン入門 (日本大学 法学部)
・今日からすぐに始められる会社が元気になる7つの施策(千葉県指定工場協議会)
・『人財経営実践塾』愛社精神溢れる-体感経営
  ~ES(従業員満足度)が会社を伸ばす~ (ふくいジョブカフェ)
・新任管理職の為のリーダーシップ強化セミナー (ヒューマンリソシア 「定額制公開講座 ビジネスコース」)
・JES定例会「人と環境と社会にやさしい社内体制の作り方」
 ~グレートスモールカンパニーが社会を変える!~ (日本ES開発協会)
・経営者が知っておきたい2010年のキーワード (ピーシーエー株式会社)
・若手社員の採用と定着を上手に行う秘訣 (常陽産業研究所)
・「共感資本時代のリーダーはここが違う」(株式会社USEN)
・グリーン経営への取り組みによるES向上セミナー (あいおいニッセイ同和損害保険株式会社)
・ES型人事制度構築のポイント (淡路青年会議所)
・「心のスイッチをONにしよう!お金中心で動く人事制度から思いやり・感謝で動く人事制度へ」 (一般社団法人組織内コミュニケーション協会)               ・・・他

・従業員のモチベーションアップに役立つ社内コミュニケーション 
(日本経団連事業サービス社内報告セミナー) ・ESコーチング&ESマネジメント 感動倍増組織の作りかた (九天社)
・儲けを生み出す人事制度7つの仕組み (ナナブックス)
・人事労務のいろは (東商新聞連載)
・労務事情 「人事労務相談室」(株式会社産労総合研究所)
・月刊総務 (株式会社ナナ・コーポレート・コミュニケーション)
・ニュートップリーダー ~ES経営が会社を伸ばす~
  成長企業の取り組みからわかる次の時代を生き抜くヒント(日本実業出版社)
 2,010年2月号:「社員がここにいたいと思う会社にする一株式会社アドバネクス」
 2,009年12月号:「患者の立場に立ってよりよい病院づくりをしたい-医療法人井上整形外科」
 2,009年11月号:「印刷を通して地域や社会に貢献したい-株式会社大川印刷」

URL:http://www.jinji-roumu.com/unyou/index.html

 
 

プロフィール

有限会社人事・労務

現在社長を務める矢萩大輔が、1995年に26歳の時に東京都内最年少で開設した社労士事務所が母体となり、1998年に人事・労務コンサルタント集団として設立。これまでに390社を超える人事制度・賃金制度、ESコンサルティング、就業規則作成などのコンサルティング実績がある。2004年から社員のES(従業員満足)向上を中心とした取り組みやES向上型人事制度の構築などを支援しており、多くの企業から共感を得ている。最近は「社会によろこばれる会社の組織づくり」を積極的に支援するために、これまでのES(従業員満足)に環境軸、社会軸などのSS(社会的満足)の視点も加え、幅広く企業の活性化のためのコンサルティングを行い、ソーシャル・コンサルティングファームとして企業の社会貢献とビジネスの融合の実現を目指している。

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