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社会によろこばれる会社のESを軸とした組織づくり

第11回

組織のきずなをはかる「クレドアセスメント」

 

●世界一幸せな国・ブータンにみる「幸せのモノサシ」

最近さまざまな企業から、「従業員幸福度」や「ES(従業員満足)度」をはかり評価をしたい、という問い合わせをいただくことが増えてまいりました。

「幸福度」と言えば、"世界で一番幸せな国"ブータンの考え方が有名です。ヒマラヤの仏教国・ブータンでは、1974年、ジグメ・ワンチュク前国王(当時18歳)が「GNHはGNPより重要だ」という考えを提唱し、1976年には国際会議で世界に向けて発信しました。「GNH」とはGross National Hapinessの略で、国民総幸福度と訳されます。ブータンでは、(1)持続可能で公正な社会経済開発(2)環境の保全(3)文化の保護と振興(4)良い統治、という4本の柱を掲げ、幸福度をはかるモノサシとして幸せな国づくりに取り組んできたのだと言います。

「何を幸せと感じるか」、これは人によってさまざまです。「お金に不自由しない生活をおくること」「温かい家庭をもつこと」「自分の志を形にすること」・・・、そういった"幸せをはかるモノサシ"について、我が国ではこのように考える、ということを世界に先駆けて発信したのがブータンなのです。

経済的・金銭的な豊かさを追い求めてきた価値観や生き方を見直そうという現代の流れの中で、ブータンのこのGNPという考えが世界各国、そして日本でも注目されるようになりました。自然のめぐみや歴史、文化、そして思いやりの心など、日本固有の財産と改めて向き合い、日本にとっての"豊かさ""成長"とは一体何なのかを考える局面にきていると言えるでしょう。

「ES」とは、「自分の"働く(仕事)"が、会社の成長や地域社会の役に立っており、自分自身の成長(自分の理想的な人生)にもつながっている、という実感をもち、それをよろこび・誇りとして取り組んでいる状態」を指します(優しい対応をしたり迎合したりすることがESではありません)。

そして、一人ひとりの幸福度が高まれば、その総量として組織の幸福度も高まり、共感資本が増え、組織の成長が持続する-、その考えに基づき、私どもはいわば"会社としての幸せ度"をはかる術として「クレドアセスメント」という対話(ダイアログ)を取り入れた仕組みを考え、クレドを軸に企業文化の浸透度合いをあらゆる角度から評価するプログラムを開発しました。

企業のグリーンな経営、すなわち"人と地域と環境にやさしい"という視点を盛り込んだ商品サービスを提供する、ということと、社員のキャリアビジョンや価値観を融合させたクレドと軸として、対話(ダイアログ)の手法をつかった施策を行ない、その結果を処遇や配置転換、教育に反映していく、というものです。

つまり、組織の幸福度、企業文化の浸透度をはかるモノサシとして、次のような項目を掲げています。

○ クレボリューションプログラム(「アクティブミーティング」や「ありがとう運動」などのES施策の実践)=クレドの理解・習慣化の実践度合い

○ インバスケットテスト=リーダーの企業文化の理解・実践度合い
○ チャレンジングシート=個々の成長と組織の成長との融合度合い
○ グリーンアクション="人と地域と環境にやさしい"という視点の日常での実践度合い
○ つながりインタビュー=組織の中での共感度

●クレドアセスメントのしくみとは

日本に古来から「功あるものには禄を、徳ある者には地位を」という言葉があるように、クレドアセスメントにおいても「成果を出した社員・能力の高い社員には金銭的報酬を、人間性を高め企業文化を育む社員には地位(立場・役割)を」と考え方をしています。

成果を出した社員には、会社業績に応じて「ES向上型人事制度
http://www.jinji-roumu.com/chin_top.html 」で金銭的報酬を分配します。具体的には、成果に対しては賞与、能力(専門能力、職務能力)に対しては昇給や手当で処遇をする、というものです。

また、クレドを体現化しマネジメント能力を発揮している社員には昇格で処遇する、という仕組みとなっています。

さらに、経営理念やビジョンを理解しクレドを日々実践している社員には通常の賞与とは別に"グリーン賞与(決算賞与)"を支給する、という考え方です。

例えば、「グリーンアクション」を実践してグリーン賞与に結び付けている例として、株式会社ファンケルが挙げられます。皆さんご存知のとおり、ファンケルは無添加化粧品の製造・販売で成長を遂げてきた会社であるため、さまざまな形で環境に関する取り組みを行ってきたと言います。その中でも2008年から開始した「ファンケルECOチャレンジ」は、従業員の家庭をも巻き込んだおもしろい取り組みです。

「1人1日1kgのCO2削減」を目指し、毎年7月から11月までの5ヶ月間で、家庭のCO2削減目標を達成した従業員に対して、5000円から1万円の報奨金を支給する、という内容です。

6月に任意エントリーした従業員が、電気代・ガス代の領収書を持ち寄り、総務省統計局「家計調査」の6月の全国平均で割って、目標数値を設定されます。2009年度は2064人の従業員が参加し、336人が目標を達成しました(年間約70トンのCO2削減)。

工場などで働くパート社員は家計を預かる主婦であることが多いので、「環境にやさしい」だけでなく「家計にもやさしい」と実感できるこうした取り組みは、受け入れやすく真剣に取り組めるものだと言います。また、社員本人だけでなく家族の協力なしでは達成できない目標なので、家族の環境への意識を高めることもできるわけです。

"人や地域や環境にやさしい"取り組みを実践している企業の姿は、社内外の共感を高め、また、働く社員にとっても「自分がしている仕事や活動が誰かの役に立っており、社会に貢献している」という実感をもてるので、モチベーションの持続にもつながります。

●クレドアセスメントの土台にある「暗黙知⇔形式知」のサイクル

このクレドアセスメントは、通常の人事制度とは異なり、組織の中の"目には見えない大切なもの"を明らかにしながら、お金ではない"非金銭的報酬"を増やしたり分配したりすることで、組織の成長を促すための仕組みです。そのため、人の能力や成果を数値ではかる"人事考課"ではなく、あくまでも社員が互いに対話をしながら各項目の理解・実践度をはかるいわば"450度評価(360度を越える)"で仕組みをまわしていきます。

そのため、対話の習慣が根付いた職場であり、かつ経営トップはもちろんですが、職場のリーダー自身が率先してこの仕組みをまわすことに参画していただかないと、このクレドアセスメントを持続的に運用することは難しいのです。

クレドアセスメントを運用していく土台には、「暗黙知⇔形式知」を繰り返していくという「企業文化浸透サイクル」がまわっています。これは、各人がもつ「暗黙知」を言葉や画像で見える化し、「形式知」へと進化させ、さらにその形式知を踏まえて経験をすることで概念化され、また各人の暗黙知として根付いていく、というサイクルです。

例えば、職場で「カレー」の話をしていたとします。

カレーという言葉に対しては、「黄色くてこってりした甘いカレー」をイメージする人と「赤くてサラサラだけど激辛のカレー」をイメージする人など、さまざまです(暗黙知)。

それを絵に描いて、言葉でお互いにカレーのイメージを説明します。それが「見える化」です。

そして、「私達が言うカレーといえば"黄色くてこってりしたピリ辛のカレー"を指す」と定義づけをします。これが「形式知」です。

そして、そのようなカレーのイメージのもとで、皆でカレーを食べに行くとします。「具沢山のカレー」「グリーンカレー」などさまざまなカレーを味わうことで(経験)、「カレーはさまざまな食材と相性が良い」という経験知が増え、「いろいろな野菜・食材を味わいたい時はカレーを食べると良い」という意味づけがなされます(概念化)。そしてそれをまた各人の暗黙知として、カレーと向き合っていく、というサイクルです。

職場の中では、このような形式知化、概念化が日々繰り返されています。そして、「うちの会社ってこうだよね」「私たちの職場ならこうするよね」と概念化されたものが蓄積し、企業文化になるのです。

クレドアセスメントにおいては、対話を通して、暗黙知の状態のものを見える化し形式知にしたり、概念化する場を持ちます。そのため、クレドアセスメントを実施すること自体が、企業文化を浸透させさらに育むことにつながるのです。

次回は引き続き、クレドアセスメントの各"モノサシ"についてご説明してまいりたいと思います。

第11回コラム執筆者

金野美香 (きんの みか)

(有)人事・労務 ヘッドESコンサルタント
厚生労働省認定CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)
日本ES開発協会(JES) 専務理事

福島大学行政社会学部行政学科卒業後、有限会社人事・労務にて、日本初のES(従業員満足)コンサルタントとして、企業をはじめ、大学、商工団体で講師を務めるなど幅広く活動する。「会社と社員の懸け橋」という信念のもと、独自に編み出したES向上プログラムや、組織活性度診断「人財士」を活用したやる気アッププロジェクトの立ち上げに取り組む。また最近は「人と社会と環境にやさしい企業風土づくり」をテーマに、「グリーンな企業風土づくり」、「社員が誇れる組織づくり体制」に力を入れ、ESを中心に更にSS(社会的満足)の要素を加えたグリーンクレドやクレドアセスメント、インビジブル人事制度等の新たな手法を企業に紹介、実践し、高い実績を得る。

●主な講演実績、著書
・「社会によろこばれる会社」のためのESを軸とした組織づくり (加須市商工会議所)
・後継者向けESマネジメント研修 (あいおいニッセイ同和損害保険株式会社)
・キャリアデザイン入門 (日本大学 法学部)
・今日からすぐに始められる会社が元気になる7つの施策(千葉県指定工場協議会)
・『人財経営実践塾』愛社精神溢れる-体感経営
  ~ES(従業員満足度)が会社を伸ばす~ (ふくいジョブカフェ)
・新任管理職の為のリーダーシップ強化セミナー (ヒューマンリソシア 「定額制公開講座 ビジネスコース」)
・JES定例会「人と環境と社会にやさしい社内体制の作り方」
 ~グレートスモールカンパニーが社会を変える!~ (日本ES開発協会)
・経営者が知っておきたい2010年のキーワード (ピーシーエー株式会社)
・若手社員の採用と定着を上手に行う秘訣 (常陽産業研究所)
・「共感資本時代のリーダーはここが違う」(株式会社USEN)
・グリーン経営への取り組みによるES向上セミナー (あいおいニッセイ同和損害保険株式会社)
・ES型人事制度構築のポイント (淡路青年会議所)
・「心のスイッチをONにしよう!お金中心で動く人事制度から思いやり・感謝で動く人事制度へ」 (一般社団法人組織内コミュニケーション協会)               ・・・他

・従業員のモチベーションアップに役立つ社内コミュニケーション 
(日本経団連事業サービス社内報告セミナー) ・ESコーチング&ESマネジメント 感動倍増組織の作りかた (九天社)
・儲けを生み出す人事制度7つの仕組み (ナナブックス)
・人事労務のいろは (東商新聞連載)
・労務事情 「人事労務相談室」(株式会社産労総合研究所)
・月刊総務 (株式会社ナナ・コーポレート・コミュニケーション)
・ニュートップリーダー ~ES経営が会社を伸ばす~
  成長企業の取り組みからわかる次の時代を生き抜くヒント(日本実業出版社)
 2,010年2月号:「社員がここにいたいと思う会社にする一株式会社アドバネクス」
 2,009年12月号:「患者の立場に立ってよりよい病院づくりをしたい-医療法人井上整形外科」
 2,009年11月号:「印刷を通して地域や社会に貢献したい-株式会社大川印刷」

URL:http://www.jinji-roumu.com/unyou/index.html

 
 

プロフィール

有限会社人事・労務

現在社長を務める矢萩大輔が、1995年に26歳の時に東京都内最年少で開設した社労士事務所が母体となり、1998年に人事・労務コンサルタント集団として設立。これまでに390社を超える人事制度・賃金制度、ESコンサルティング、就業規則作成などのコンサルティング実績がある。2004年から社員のES(従業員満足)向上を中心とした取り組みやES向上型人事制度の構築などを支援しており、多くの企業から共感を得ている。最近は「社会によろこばれる会社の組織づくり」を積極的に支援するために、これまでのES(従業員満足)に環境軸、社会軸などのSS(社会的満足)の視点も加え、幅広く企業の活性化のためのコンサルティングを行い、ソーシャル・コンサルティングファームとして企業の社会貢献とビジネスの融合の実現を目指している。


Webサイト:有限会社 人事・労務

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