社会によろこばれる会社のESを軸とした組織づくり

第2回

社会によろこばれる会社がこれからは主役になる時代!

 

2011年3月11日、東日本大震災発生。万を超える人命が奪われ、多くの物が破壊されたこの時を境に、我が国においてこれまで力を持っていた社会における価値観が一瞬にして吹き飛んでしまった感覚にとらわれている方も多いのではないでしょうか。

国土が焼け野原となった太平洋戦争の終戦から立ち上がり、戦後の混乱期から高度経済成長、バブル経済とその後の失われた20年による閉塞感の強い時代・・・と、時代背景は変わっても、我が国は一貫して「金銭的な豊かさ」と「物の豊かさ」を追及してきました。その結果、我が国は世界第2位の経済大国となり、40年にわたりその地位を守り続けてきました。
昨年になってその地位を中国に奪われ、「これから我が国はどうなっていくのか?」と人々が戸惑っているところに襲った今回の震災。
私たちが今まで、「戦前」「戦後」と時代や世代を分けていたのと同様に、これからは、「震災前」「震災後」という新しい時代・世代の区分が生まれたといっても過言ではありません。

震災前に力を持っていた価値観が吹き飛んでしまった今、我が国には新たな価値観が生まれてきていることを感じます。それは

「社会によろこばれる会社が、震災後の我が国を牽引する主役になる」

そんな時代がやってきたという想いを強く感じるのです。

これまでのお金や物の豊かさを追求し続け、利益を上げた会社が評価される時代から、例えば、環境や地域社会によい活動をしていることが人々の評価を集め、それをもとに業績を向上させることにより、利益を社会に還元していく会社が震災後の我が国を復興から再び繁栄へと導いていく、そんな時代が到来したといえるでしょう。
震災後の社会は、「心の豊かさ」を求める社会です。お金より大切な何かを忘れ、アメリカ型の資本主義に染まっていた日本人が、かつて行っていた日本的な経営や日本人の文化の素晴らしさとその大きな力をもう一度見つめなおし、大切にする、そんな組織を作り上げていくことで、社会に喜ばれる会社や組織が作り上げられていくのです。

「社会によろこばれる会社や組織を創る」というと「社会貢献をすることか。うちにはそんなところまではとてもとても。そもそも社会貢献活動やCSRは余裕のある大会社がやることだ」とお考えの向きもあるかもしれません。
一口に「社会によろこばれる会社」と言っても、社会貢献をすることだけがその手段ではありません。

物があふれかえる時代において、衣食住に関する基本的なニーズは満たされ、人々には「本当の自分らしさを追求したい」という「自己実現」の願望が芽生え始めています。その結果として現在の社会は「消費者が自分の心の底から共感できる企業や商品を選ぶ」という"自己投影型社会"に変わってきているのです。
人々に共感や満足を与えることで企業価値を高めていくことができる会社こそが「社会によろこばれる会社」です。社会貢献やCSRといったものはその手段の一つにすぎず、それ以外にも社会に喜ばれる会社や組織を作り上げる手段として多様なものが考えられます。

自己投影型社会のような新たな価値観が生まれつつある中にあって、儲けを生み出し持続的に成長している会社や、決して派手な展開をしているわけではないのに利益を大きくしている会社が我が国にはたくさん存在しています。
そのような企業に共通してみられる「経営の軸」とは一体何なのでしょうか。
そうした企業の例をいくつかご紹介します。

感動体質の企業文化を作り上げる組織づくりとは

静岡県浜松市に株式会社都田(みやこだ)建設という建築会社があります。社員40名ほどの地場の建築会社ですが、多くの建築会社が建築棟数を競ったり、利益率を追求したりしている中にあって、この会社では「感動の家づくり」を顧客に提供することをモットーとし、社員は「想いをひとつに」の合言葉のもと、毎朝「感動工房」という名の朝礼で、順番に社員に「感動体験」を語ってもらっています。感動する物語を社員全員が共有することにより、社員の気持ちを一つにする社風、『感動体質』を生み出しているのです。

感動体質を作り上げる取り組みの一つとして、都田建設では毎週1回、平日の昼休みに社員全員で、会社内のバックヤードにあるガーデンキッチンでバーベキューを実施しています。
バーベキューを行うのは組織力を高め、社員のコミュニケーションを円滑にすることが目的ですが、社員全員が一つになって、物事をやり遂げるひとつの「プロジェクト」の意味もあるといいます。

もともとは社長が発案して実施することになったこの平日昼休みのバーベキューには3つのルールがあります。
①昼休みの1時間で実施すること
②全員で毎週やるということ
③予算は1万円以内ということ

一見するとなかなか困難なこのルールを守って、その日の当番は40人分の料理を作る。そのための事前準備や当日バーベキューを実行していく過程で、社員は困難を克服するため、自分の役割やするべき行動は何かを考える習慣がついていきます。また、ルールを守って毎週のバーベキューという「プロジェクト」を成功させることで、困難を克服した感動を体験することができる、と都田建設社長の蓬台浩明氏は自らの著書『社員をバーベキューに行かせよう!』の中で述べています。

感動体質を身につけた社員がその仕事ぶりでお客様にも感動を与える社風を作り上げたのです。その結果、建築会社ながらモデルハウスもなく、営業担当者もいない会社にもかかわらず、都田建設はこの住宅不況の中、着工まで3か月待ちという人気を誇る、静岡県では屈指の建築会社になっています。

都田建設のように人々に愛される経営を実現している会社の共通点として、「社員が生き生きと働いている」、つまり、「従業員満足を実現している」ことがあげられます。(従業員満足=ES(Employee Satisfaction))

従業員満足(ES)とは「働く人が、その会社にどれだけ満足しているか」という概念です。
「社員を満足させる」といっても、賃金や休みを多くして…といった具合にいわゆる「社員を甘やかす」ことではないのです。
確かにそうした側面も無視できないものではありますが、ESの本質とは「社員が仕事を通じて自己の成長や理想的な人生につながる充実感を実感できる」ことや、「自らの仕事を通じて、社会や人々の役に立つことの実感や、そうした人々からの感謝の言葉や態度を受けることでモチベーションや誇りを感じる」ことであり、賃金や休みの多さはほんの小さな要因でしかないのです。
このESの実現こそが、「社会によろこばれる会社の組織づくり」の重要なカギとなるのは間違いないのではないでしょうか。

非金銭的報酬をもたらす仕組み

愛知県豊橋市に東証第2部に上場している株式会社物語コーポレーションという会社があります。焼き肉・ラーメン・お好み焼きといった外食産業のFCチェーンを展開している会社です。
外食産業と言えば、長時間労働に加えて、立ち仕事での接客、油まみれになって汚いといったマイナスイメージが先行し、就職難の昨今にあっても、学生の人気は率直にいって今一つ、という業種です。
そんな中にあって、物語コーポ―レーションの新卒募集には1万人を超える学生の応募があるといわれます。物語コーポレーションの小林社長は、学生を前にした就職セミナーで「自分で意思決定するこの重要性」を説き、これに共感した学生たちが数多く入社してくるといいます。組織の歯車ではなく、自ら意思決定できる社員を育成し、成長する機会を得られることに学生たちは魅力を感じて、入社してくるのです。

平成21年度上期雇用動向調査(厚生労働省実施)によると全産業で見た離職率は16.4%、宿泊・飲食サービス業においては32.1%と高い数値がでている業種にあって、物語コーポレーションの離職率は7%と極めて低く、昨年度まで5期連続で増収増益を記録していることからも、この会社の従業員満足度が高いことがうかがわれます。
長時間労働でキツイ仕事にもかかわらず、「自分を伸ばしてもらえる機会や場を与えてもらえる」ことが非金銭的な報酬として、入社を志望する学生や会社内で各店舗を任される店長たちには魅力ややりがいにつながっている事例ということができると思います。

都田建設や物語コーポレーションの事例に共通しているのは、ESを重視した組織づくりによって「社会によろこばれる会社」をつくりあげている点です。

「社会によろこばれる会社」の組織に生まれるプラスのスパイラル

仕事にやりがいを感じ生き生きと働く社員たち。日々成長する自分に喜びを感じて、さらに欲を出して成長していこうと努力している姿を目の当たりにして、その会社の製品やサービスを利用する顧客が嫌な気持ちになることは決してないでしょう。
そのような組織においては、そこに関係するすべての人、すなわち、顧客はもとより、取引先、協力会社や出入りの業者、地域のコミュニティ等に対しても満足してもらうという価値観を共有した組織になり、そこで働く社員が共通した価値観を行動に落とし込んで日々実践していくことで、さらに顧客対応やサービスの質が向上し、さらに業績が向上していく・・・というプラスのスパイラルが生まれることになります。
ESを高めるための取り組みは、そうした企業の「文化」を創造する土台を形作るものと言えます。

これまでの物やお金といった価値観から心の豊かさへの価値観の変化が起きている震災後の社会において、持続して成長していくことができるこうした組織をつくりあげられるかどうか、経営者や組織のリーダーの力量が試され、評価されているのです。

業務用寒天のメーカーのトップである、長野県の伊那食品工業は、「会社を取り巻くすべての人を幸せにする」という方針をひたすら貫いて、半世紀にわたる増収増益という業績を残しました。
「企業は事業活動を通じて社会に貢献し、人々を幸せにすることが使命である」と会長の塚越寛氏は述べています。
一見当たり前すぎるようにも思える言葉ですが、震災後の厳しい経済情勢の中で、この一番大切な「本来あるべき姿」をいつの間にか忘れてしまっている組織も多いように思えます。
いま一度、この「本来あるべき姿」を見つめなおし「社会によろこばれる」といった視点で組織を作ることが求められる時代が来ているのです。

参考文献

  • 『社員をバーベキューに行かせよう!』蓬台浩明 著 2010年 東洋経済新報社

第2回コラム執筆者

大野 広康(おおの ひろやす)

大野 広康(おおの ひろやす)

有限会社人事・労務 パートナーコンサルタント
日本ES開発協会 広報委員会 幹事
社会保険労務士
ファイナンシャル・プランナー(CFP)

日本大学法学部政治経済学科卒業後、生命保険会社・農業協同組合(JA)勤務を経て2010年より現職。JA在職時に社会保険労務士・CFPの資格を取得し、主に農業者向けのリタイアメントプランニング・資産運用等の相談に携わる。
独立後は、JA勤務の経験を生かし、農業法人や畜産関連企業向けの就業規則や労務管理・人事制度・助成金等のコンサルティング業務とともに、ES(従業員満足)を高めることで社員が成長し「人の面から利益を上げることのできる」会社作りのためのクレド導入・人事コンサルティング業務・社員研修等を行っている。

URL:http://www.jinji-roumu.com/unyou/index.html

 
 

プロフィール

有限会社人事・労務

現在社長を務める矢萩大輔が、1995年に26歳の時に東京都内最年少で開設した社労士事務所が母体となり、1998年に人事・労務コンサルタント集団として設立。これまでに390社を超える人事制度・賃金制度、ESコンサルティング、就業規則作成などのコンサルティング実績がある。2004年から社員のES(従業員満足)向上を中心とした取り組みやES向上型人事制度の構築などを支援しており、多くの企業から共感を得ている。最近は「社会によろこばれる会社の組織づくり」を積極的に支援するために、これまでのES(従業員満足)に環境軸、社会軸などのSS(社会的満足)の視点も加え、幅広く企業の活性化のためのコンサルティングを行い、ソーシャル・コンサルティングファームとして企業の社会貢献とビジネスの融合の実現を目指している。

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