第12回
SUMO人気㊦ 分かりにくいが、神聖な儀式や所作の美しさに魅了
イノベーションズアイ編集局 編集局長 松岡健夫

勝敗ルールがシンプルという「分かりやすさ」がタイパを求める外国人を惹きつける。同時に、神聖な儀式に基づく様式美が醸し出す奥深さという「分かりにくさ」にも興味を抱く。
この矛盾、二面性を「SUMO」と解釈して楽しむ外国人が増えているのだろう。単なる格闘技と捉えているのではなく、むしろ神事であり、礼節を重んじる「相撲道」に心を奪われる。見習うべき日本人は多いのではないかと思ってしまう。
確かに勝負は早く、立ち合い一瞬で決まることも多い。しかし、その前には何百年も前から引き継がれてきた神聖な儀式に時間を費やす。何をしているのか理解できずとも、この「静」と、その後に激しくぶつかり合う「動」のコントラストこそが大相撲の醍醐味だ。
力士は土俵に上がってから制限時間(幕内は4分)いっぱいになるまで、仕切りといって決められた所作を繰り返す。力士にとって単なるウォーミングアップではなく、土俵を清め、邪気を祓うといった神事を務めているのであり、「正々堂々と戦う」という自己規律と対戦相手への敬意が込められている。
四股で館内を沸かせる
所作が美しい力士は絵になるし、見ていて飽きない。四股の美しさで館内を沸かせるのが三役経験者の琴栄鋒だ。土俵上で繰り広げられるパフォーマンスに観客は釘付けになる。
四股はゆっくりと優雅で、まっすぐ伸ばした足を高々と上げる。ぶれることなく静止したあと足を土俵に下ろすと、美しさと力強さに魅せられた観客が拍手と歓声を上げる。土俵に上がったばかりなのに、早くも時間いっぱいかと思ってしまうほど館内は熱気を帯びる。
四股は足腰を鍛え、バランス感覚を養うのに打ってつけの稽古法で、鍛え上げた体幹と安定した下半身が好成績につながり、番付を上げている。
しかし、四股を踏む意味を知っているSUMOファンはそれほど多くないだろう。四股とは、大地を踏み固めることで地面にいる邪悪なものを踏みつぶすという意味がある。取組前の一連の所作も同じだ。大相撲は興行だが、神事でもある。だからこそ土俵は神聖な場所なのであり、取組前には神事に基づく決められた儀式をこなす。
礼に始まり礼に終わる
力士は「礼に始まり礼に終わる」。花道から土俵下の控えに入るときにまず一礼し、呼び出しに呼ばれて土俵に上がるときにまた一礼。土俵上で向き合った対戦相手にも一礼してから一連の所作に入る。勝敗が決したあとも互いに礼をして土俵を下りる。対戦相手や土俵への敬意だったり、伝統を継承できることへの感謝だったりを表す。
取組前の力水は体を清めるため、塩まきは土俵を清め邪気を祓うとともにケガをしないよう祈るために行う。塵手水は両腕を左右に開き、手のひらを返すことで「武器を持っていない、正々堂々と戦う」と清廉潔白を神に誓う。
こうした一連の所作は、外国人にとって不思議な振る舞いに見えるだろう。同時に、相撲ならではの伝統や慣習を習得した力士のふるまいに魅力を感じているような気がする。勝った喜びを体全体で表現することが多い海外のスポーツ選手にはない、「勝っておごらず、負けてひるまず」の相撲道に納得する外国人は多いはずだ。屈強な力士による真剣勝負と儀式的要素が組み合わさる大相撲の妙味は間違いなく世界ブランドになりうる。まさにSUMOだ。
日本人が大事にする道徳観
力や技が強いだけでなく、相手を敬う礼節、感情をコントロールできる人間性や品格をSUMO観戦で知ったに違いない。神道にも通じるが、ある意味で相撲道は日本の伝統文化、道徳規範の集大成といえる。だから日本人が大事にする道徳観・倫理観を世界に発信したい。
こんな言葉がある。「三流は人の話を聞かない。二流は人の話を聞く。一流は人の話を聞いて実行する。超一流は人の話を聞いて工夫する」。SUMO好きで日本文化へのリスペクトを持った上質な外国人なら、相撲観戦を通じて理解した品格を実践できるはずだ。
訪日外国人観光客によるマナー違反は目に余るものがある。最近の民泊騒動に関する報道を見ていると、住宅地にある一戸建てやマンションで夜間まで大声で騒ぎ、翌日にはごみ出しルールを守らず、ポイ捨ても平気で行う。迷惑行為を注意すると逆切れする。苦情の多さに規制強化に乗り出す自治体も増えるわけだ。
お天道様が見ているから迷惑をかけない
「周りの人に迷惑をかけない」という文化で育った日本人にとって、隣人の迷惑を顧みない行為は恥ずべきことだ。日本には「お天道様が見ている」という道徳観がある。他人が見ていようがいまいが、きちんと身を処す。つまり正直に生きるべきと説いた言葉だ。
儒教に「仁義礼智信」という人間が守るべき5つの徳目がある。「仁」は思いやりの心。すなわち「己の欲せざるところ、人に施すことなかれ」の精神。「義」は正義。私利私欲にとらわれず、道徳的に正しい道を進むこと。「礼」は相手を尊重し社会秩序を保つための礼儀作法。「智」は善悪を判断し真実を見極める知恵。「信」は嘘をつかず、誠実で約束を守ることをいう。
仁は最高の道徳であり、礼は仁の具体的行動であって常識的な礼儀作法や社会規範をいうそうだ。「旅の恥はかきすて」では困る。一方で、近頃、スマートフォンに夢中で周りが見えない“傍若無人”の日本人も少なくないし、歩道を暴走する交通ルール無視の「ママチャリ」も困ったものだ。道徳、倫理に疎い人にはSUMO観戦を勧めたい。
※冒頭の写真は ChatGPT により作成
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プロフィール

イノベーションズアイ編集局
編集局長
松岡 健夫
大分県中津市出身。1982年早稲田大学卒。
同年日本工業新聞社(フジサンケイビジネスアイ、現産経新聞社)入社。自動車や電機、機械といった製造業から金融(銀行、保険、証券)、財務省や国土交通省など官公庁まで幅広く担当。デスク、部長などを経て2011年から産経新聞経済部編集委員として主に中小・ベンチャー企業を幅広く取材。次代の日本経済を担える企業の紹介に注力する。
著書は「ソニー新世紀戦略」(日本実業出版社)、「K字型経済攻略法」(共著・プレジデント社)「コロナに勝つ経営」(共著・産経出版社)など多数。
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