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経営者・人事担当者のための未来系人事情報

第5回目

震災関連情報5

 

今回のコラムを執筆する、有限会社人事・労務の瀧田と申します。
このコラムでは、社会保険労務士事務所を母体とした人事コンサルティング会社として、私たちの専門分野である労務管理の視点から見た震災に対しての対応策をまとめております。
今回は厚生労働省から出されましたQ&Aを元に、その内容についてまとめていきたいと思います。経営者の皆様、人事・総務担当者の皆様のお仕事のご参考にしていただければ幸いでございます。

第5回目 厚生労働省から出されたQ&A(雇用調整助成金の活用)

東北地方太平洋沖地震の発生により、被害を受けられた事業場においては、事業の継続が困難になり、又は著しく制限される状況にあります。また、被災地以外に所在する事業場においても、鉄道や道路等の途絶から原材料、製品等の流通に支障が生じるなどしています。
このため、厚生労働省から、賃金や解雇等の労働者の労働条件について使用者が守らなければならない事項等を定めた労働基準法の一般的な考え方などについてQ&Aが発表されました。
Q&A第1版では、地震に伴う休業に関する取扱いについて記載されています。

≪目 次≫

1 地震に伴う休業に関する取扱いについて

Q1.
今回の被災により、事業の休止などを余儀なくされ、やむを得ず休業とする場合にどのようなことに心がければよいのでしょうか。
A1.
今回の被災により、事業の休止などを余儀なくされた場合において、労働者を休業させるときには、労使がよく話し合って労働者の不利益を回避するように努力することが大切であるとともに、休業を余儀なくされた場合の支援策も活用し、労働者の保護を図るようお願いいたします。
Q2.
従来、労働契約や労働協約、就業規則、労使慣行に基づき、使用者の責に帰すべき休業のみならず、天災地変等の不可抗力による休業について休業中の時間についての賃金、手当等を支払うこととしている企業が、今般の計画停電に伴う休業について、休業中の時間についての賃金、手当等を支払わないとすることは、適法なのでしょうか。
A2.
労働契約や労働協約、就業規則、労使慣行に基づき従来支払われてきた賃金、手当等を、今般の計画停電に伴う休業については支払わないとすることは、労働条件の不利益変更に該当します。
このため、労働者との合意など、労働契約や労働協約、就業規則等のそれぞれについての適法な変更手続をとらずに、賃金、手当等の取扱いを変更する(支払わないこととする)ことはできません。
なお、企業側の都合で休業させた場合には、労働者に休業手当を支払う必要があり、それについてQ4~9において、最低労働条件として労働基準法第26条に基づく休業手当に係る取扱いを示したものでありますが、労働契約や労働協約、就業規則、労使慣行に基づく賃金、手当等の取扱いを示したものではありません。
Q3.
今回の地震のために、休業を実施しようと思います。この休業に伴い、休業についての手当を支払う場合、雇用調整助成金や中小企業緊急雇用安定助成金を受給することはできますか。実施した休業が労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当するか否かでその扱いは異なるのですか。また、計画停電の実施に伴う休業の場合は、どうでしょうか。
A3.
雇用調整助成金及び中小企業緊急雇用安定助成金は、休業等を実施することにより労働者の雇用の維持を図った事業主に休業手当等の一部を助成するものです。
今回の地震に伴う経済上の理由により事業活動が縮小した場合は、雇用調整助成金及び中小企業緊急雇用安定助成金が利用できます。「経済上の理由」の具体的な例としては、交通手段の途絶により原材料の入手や製品の搬出ができない、損壊した設備等の早期の修復が不可能である、等のほか、計画停電の実施を受けて事業活動が縮小した場合も助成対象になります。
本助成金は、労働基準法第26条に定める使用者の責に帰すべき事由による休業に該当するか否かにかかわらず、事業主が休業についての手当を支払う場合には助成対象となり得ます。このことは、計画停電に伴う休業であっても同様です。
助成金を受給するには、休業等実施計画届を提出するなど、支給要件を満たす必要がありますので、詳しくは、最寄りのハローワークにお問い合わせいただくか、厚生労働省のホームページをご覧ください。
Q4.
今回の地震で、事業場の施設・設備が直接的な被害を受け労働者を休業させる場合、労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由」による休業に当たるでしょうか。
A4.
労働基準法第26条では、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合には、使用者は、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払わなければならないとされています。
ただし、天災事変等の不可抗力の場合は、使用者の責に帰すべき事由に当たらず、使用者に休業手当の支払義務はありません。ここでいう不可抗力とは、①その原因が事業の外部より発生した事故であること、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たすものでなければならないと解されています。
今回の地震で、事業場の施設・設備が直接的な被害を受け、その結果、労働者を休業させる場合は、休業の原因が事業主の関与の範囲外のものであり、事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故に該当すると考えられますので、原則として使用者の責に帰すべき事由による休業には該当しないと考えられます。なお、Q2、A2もご覧ください。
Q5.
今回の地震により、事業場の施設・設備は直接的な被害を受けていませんが、取引先や鉄道・道路が被害を受け、原材料の仕入、製品の納入等が不可能となったことにより労働者を休業させる場合、「使用者の責に帰すべき事由」による休業に当たるでしょうか。
A5.
今回の地震により、事業場の施設・設備は直接的な被害を受けていない場合には、原則として「使用者の責に帰すべき事由」による休業に該当すると考えられます。ただし、休業について、①その原因が事業の外部より発生した事故であること、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たす場合には、例外的に「使用者の責に帰すべき事由」による休業には該当しないと考えられます。具体的には、取引先への依存の程度、輸送経路の状況、他の代替手段の可能性、災害発生からの期間、使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案し、判断する必要があると考えられます。なお、Q2、A2もご覧ください。
Q6.
今回の地震に伴って計画停電が実施され、停電の時間中を休業とする場合、労働基準法第26条の休業手当を支払う必要はあるのでしょうか。
A6.
今回の地震に伴って、電力会社において実施することとされている地域ごとの計画停電に関しては、事業場に電力が供給されないことを理由として、計画停電の時間帯、すなわち電力が供給されない時間帯を休業とする場合は、原則として、労働基準法第26条に定める使用者の責に帰すべき事由による休業には該当せず、休業手当を支払わなくても労働基準法違反にならないと考えられます。なお、Q2、A2もご覧ください。
Q7.
今回の地震に伴って計画停電が実施される場合、計画停電の時間帯以外の時間帯を含めて1日全部を休業とする場合、労働基準法第26条の休業手当を支払う必要はあるのでしょうか。
A7.
計画停電の時間帯を休業とすることについては、Q6の回答のとおり、原則として、労働基準法第26条に定める使用者の責に帰すべき事由による休業には該当しないと考えられますが、計画停電の時間帯以外の時間帯については、原則として労働基準法第26条に定める使用者の責に帰すべき事由による休業に該当すると考えられます。ただし、他の手段の可能性、使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案し、計画停電の時間帯のみを休業とすることが企業の経営上著しく不適当と認められる場合には、計画停電の時間帯以外の時間帯を含めて、原則として労働基準法第26条の使用者の責に帰すべき事由による休業には該当せず、休業手当を支払わなくても労働基準法違反とはならないと考えられます。なお、Q2、A2もご覧ください。

厚生労働省より出されたQ&Aの内容をまとめると以下になります。

ポイント1

今回の震災で、事業場の施設・設備が直接的な被害を受け従業員を休業させる場合、原則としては休業期間中の休業手当を支払わなくても労働基準法違反にはならないが、労働契約や労働協約、就業規則、労使慣行などで、天災地変等の不可抗力の休業でも賃金や手当等を払うとしている場合は、適法な変更手続をとらずに、賃金、手当等の取扱いを変更する(支払わないこととする)ことはできない。

ポイント2

今回の地震により、事業場の施設・設備は直接的な被害を受けていないけれど、労働者を休業させる場合、原則として休業期間中、平均賃金の6割の休業手当を支払わなければならない。例外として①その原因が事業の外部より発生した事故であること、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たす場合には、休業手当を支払わなくても良い場合がある。

ポイント3

今回の地震に伴って計画停電が実施され、停電の時間中を休業とする場合、原則としては休業時間中の休業手当を支払わなくても良い。ただし、この場合も労働契約や労働協約、就業規則、労使慣行などで、天災地変等の不可抗力の休業でも賃金や手当等を払うとしている場合は、適法な変更手続をとらずに、賃金、手当等の取扱いを変更する(支払わないこととする)ことはできない。

ポイント4

計画停電の時間帯以外の時間帯について休業とする場合、原則として休業時間中の休業手当を支払わなければならない。ただし例外として計画停電の時間帯のみを休業とすることが企業の経営上著しく不適当と認められる場合には、計画停電の時間帯以外の時間帯も、休業手当を支払わなくても労働基準法違反とはならない場合もある。

ポイント5

雇用調整助成金及び中小企業緊急雇用安定助成金は、休業時間中の休業手当を支払わなければならない場合かどうかを問わず、今回の地震に伴う経済上の理由で事業活動が縮小して、会社が休業手当を支払えば利用することができる。

震災発生後に、従業員を休業させる場合ですが、まずは労使トラブルとならないよう会社の現状を従業員に説明し、従業員に納得して頂くことがなにより重要です。
その上で、従業員に休業を命じた場合、休業手当を支払うべきか否かを検討する必要があります。休業が短期間、短時間であれば法律上休業手当を支払う義務がなければ休業手当を支払わない選択もあります。しかし、休業が長期間、長時間におよぶのであれば、法律上休業手当を支払う義務がなくても、従業員の生活面を考慮し休業手当を支払った後、雇用調整助成金及び中小企業緊急雇用安定助成金の申請をすることも検討した方がよいと思います。
いずれにしても、後々トラブルとならないよう従業員へ事情を説明し、双方が十分納得した上で実施することが大切です。

※1~5内容は、例外もありますので詳細は「平成23年東北地方太平洋沖地震に伴う労働基準法等に関するQ&A(第1版)」にてご確認頂くか、弊社までお問い合わせください。

出典:平成23年東北地方太平洋沖地震に伴う労働基準法等に関するQ&A(第1版)
平成23年3月18日版
その他、震災の影響下における労務管理について情報はこちらをご参照ください。

このコラムは

  • 御社の社内での人事対応資料としてお使いください。
  • どうぞご自由にコピーをしてお使いください。
  • 内容に関しご質問がありましたら弊社までお問い合わせください。

ぜひ、本情報を被災地の方々にもお伝え頂ければと思います。
また、この件でのご質問に関しては、電話、メールにて無料でお受けしております。
(すでに多くのご質問をいただいております関係でご返事に多少お時間をいただく場合もございますが、ご了承ください。)

少しでも早く日本の社会が望みある未来へ向けて動き出せるように、心よりお祈り申し上げます。
(当レポートは平成23年3月28日までに発表された情報をもとに作成しております)

第5回コラム執筆者

瀧田 勝彦(たきたかつひこ)

瀧田 勝彦(たきたかつひこ)

有限会社人事・労務 チーフコンサルタント
特定社会保険労務士
立教大学法学部卒業後、大手ゼネコン会社で安全衛生管理や労務管理を担当した後、リゾートホテルに転職。管理部門の責任者として、採用、教育、配置、評価、面談、入退社管理など労務管理全般を行う。労務管理の重要性と面白さを強く感じ、2002年より現職。日々の労務相談や労働基準監督署の是正勧告、労働組合との団体交渉などの労務問題で現場に立つ一方で、ES(従業員満足)を中心とした人事制度の構築・運用をとおして、持続可能な企業の組織作りのサポートを行っている。
また、各地の商工会議所の講演会、企業の労務研修など、年間30回を超える講演実績がある。

URL:http://www.jinji-roumu.com

 
 

プロフィール

有限会社人事・労務

現在社長を務める矢萩大輔が、1995年に26歳の時に東京都内最年少で開設した社労士事務所が母体となり、1998年に人事・労務コンサルタント集団として設立。これまでに390社を超える人事制度・賃金制度、ESコンサルティング、就業規則作成などのコンサルティング実績がある。2004年から社員のES(従業員満足)向上を中心とした取り組みやES向上型人事制度の構築などを支援しており、多くの企業から共感を得ている。最近は「社会によろこばれる会社の組織づくり」を積極的に支援するために、これまでのES(従業員満足)に環境軸、社会軸などのSS(社会的満足)の視点も加え、幅広く企業の活性化のためのコンサルティングを行い、ソーシャル・コンサルティングファームとして企業の社会貢献とビジネスの融合の実現を目指している。


Webサイト:有限会社 人事・労務

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