明日を生き抜く知恵の言葉

第6回

企業の理念に込められた知恵【後編】――「未知未踏」への挑戦あるところに道は拓ける

イノベーションズアイ編集部 2022年4月12日
 

一、理念は、いつの時代でも変わらない価値観

前回に引き続き、企業の理念に込められた知恵の世界を探訪していきたい。

企業の理念とひとくちにいっても、企業理念も経営理念もあれば、基本理念や創業理念という呼び方をする企業もある。社是や社訓、ミッション(使命)なども理念とひとくくりにされることが少なくない。この原稿では、それらをひとくくりにして、広い意味での理念として話を進めていきたい。

バンダイナムコホールディングスは2022年4月に理念体系を改定し、こんなパーパスを制定した。

Fun for All into the Future
もっと広く。もっと深く。
「夢・遊び・感動」を。
うれしい。たのしい。泣ける。勇気をもらう。
誰かに伝えたくなる。誰かに会いたくなる。
エンターテインメントが生み出す心の豊かさで、
人と人、人と社会、人と世界がつながる。
そんな未来を、バンダイナムコは世界中のすべての人とともに創ります。 

バンダイナムコグループは、2005年に旧バンダイ、旧ナムコの経営統合によりスタートした。経営統合以前に、旧バンダイの高須武男社長(当時)にインタビューし、バンダイの社名は「萬代不易(ばんだいふえき)に由来すると聞いた

「易」という漢字には「たやすい」のほかに「変える、変わる」という意味があり、「萬代(=万)代不易」とは永久に変わらないことをいう。「いつの時代にも変わらず人々の心を満たす商品を作ること」が、同社の理念だと高須氏は話していた。

旧バンダイは初代社長の山科直治氏によって、「萬代屋(ばんだいや)」として1950年に設立されたという。バンダイナムコホールディングスの設立以降も、「萬代不易」の理念は、「いつの世でも人びとの心を満たす商品を作り、やむことのない企業の発展を願う」という創業理念として、バンダイ、BANDAI SPIRITSに受け継がれてきた。

一、理念は、人としてのあり方や働き方の指針を示す価値観

時代を越えて受け継がれてきた価値観という意味では、大丸の経営理念(現・フロントリテイリングの基本理念)である「先義後理(せんぎこうり)」も有名だ。

「先義後理」は、中国の古典である『荀子(じゅんし)』の「先義而後利者栄(義を先にして利を後にする者は栄える」というフレーズが出典。利益よりも善悪や道理、物事の正しい筋道を意味する「義」を大事にすることが、繁栄の道だというわけだ。

1717年(享保2年)、創業者の下村彦右衛門正啓(しもくらひこえもんしょうけい)氏が、29歳のときに京都・伏見に開いた古着商「大文字屋」が大丸のルーツ。

大丸松阪屋百貨店HPの「トップメッセージ」には、「『お客様や社会への貢献を最優先に考える』という精神は、時代が変わり、そこに生きる人びとが変わっても、私たちの揺るぎないDNAとして受け継がれ」ており、「私たち自身が楽しみながら、面白がりながら、百貨店の可能性を突き詰め、新たな挑戦と進化を重ねてまいります」と記されている。

21世紀の今になっても同グループには、「先義後理」の理念が生きているというわけだ。

しかも、理念というと「難しいもの」とか「お堅いもの」というイメージがある中、江戸時代以来の「先義後利」に「楽しみ、面白がりながらチャレンジ・進化をしていく」という、若い世代にも受け入れられそうな価値観が加わっている。伝統をふまえつつ、現代に合ったメッセージングを打ち出していこうということなのだろう。

「「子曰く、之(こ)れを知る者は、之れを好む者に如(し)かず。之れを好む者は之れを楽しむ者に如かず(知るということは、好きということには及ばない。好きということは、楽しむことには及ばない)」と『論語』にもあるように、やはり楽しんで仕事をすることが理想的だ。

堀場製作所も、「おもしろおかしく」という社是を掲げている。

常に「やりがい」をもって仕事に取り組むことで、人生の一番良い時期を過ごす「会社での日常」を自らの力で「おもしろおかしい」ものにして、健全で実り多い人生にして欲しいという前向きな願いが込められています(同社HP)

そのために、同社は社員が「おもしろおかしく」働ける舞台を提供していくというのだ。

また、理念としては明確に謳っていないが、創業者の教えを、経営者が目指すべきあり方として受け継いでいる企業もある。

「うなぎパイ」で有名な浜松市の春華堂を訪れた際、2代目社長の山崎泰弘(現会長)氏に、先代から受け継ぐ同社の「三惚れ主義」について伺った。

1つ、土地に惚れること
2つ、商売に惚れること
3つ、家内に惚れること

自社の製品や商売を育ててくれた浜松の地に感謝し、恩返しのつもりで商売をすること。自社の製品や商売に愛着を持ち、商いに飽きずに一生懸命打ち込むこと。そして、夫婦円満を大切ニ、仕事と家庭のバランスを取りながら商いをすることが大事だと、山崎氏は話していた。

ちなみに、「うなぎパイ」には「夜のお菓子」というキャッチフレーズがある。そのキャッチフレーズをめぐり、さまざまな憶測が飛び交っているようだ。

同社が創業した高度経済成長期には、女性の社会進出も始まり、家族が顔を合わせる時間が少なくなった。そこで家族が集う夜の団らんのひとときを、「うなぎパイ」とともに過ごしてほしいという思いから、「夜のお菓子」というキャッチフレーズが生まれたというのが、事の真相だ。

一、理念とは、自ら行動することによって未来を拓こうとする意志である

さまざまな企業の理念を見ていくと、自分たちの意志や行動によって、より良い社会、より良い未来を築き上げていこうという志を感じさせる言葉が見つかる。

たとえば、イオングループの「イオン宣言」がそれだ。

イオンは
日々のいのちとくらしを、
開かれたこころと活力ある行動で、
「夢のある未来」(AEON)に変えていきます。

「AEON」とは、ラテン語で時代(age)、永遠(eternity)を意味する「aeon」に由来する。「aeon」は古典ラテン語では「アエオーン」と発音されていたが、中世の教会ラテン語になると「エーオン」と発音されるようになったという。

さらにさかのぼると、「aeon」は古典ギリシャ語の「αἰών(aiṓn/アイオーン)」に由来するという。「αἰών」も時代、永遠を意味していた。語源をさかのぼっていくと、西洋哲学の歴史をひもといているようで、なかなか奥深い。

また、東京大学宇宙線研究所の梶田隆章前所長がノーベル物理学賞を受賞し、大きな話題になっていた頃、私は、魂を揺さぶられるような企業理念に出会った。

梶田氏がノーベル賞を受賞したのは、ニュートリノという素粒子が質量を持つことを発見したという功績による。ここでは理論的な部分には立ち入らないが、この世紀の大発見をなしとげた研究を支えた実験施設が「スーパーカミオカンデ」であり、ニュートリノ観測における「目」の役割を果たしたのが光電子増倍管(こうでんしぞうばいかん)という部品だ。

直径20インチという世界最大の光電子増倍管を作り上げ、同研究に大きく貢献したのが、浜松ホトニクス(浜松市)だ。

同社は「人類未知未踏領域への挑戦」を企業理念に掲げている。

当時、同社の晝間(ひるま)明社長は、「常に進化を考えなければならないし、とどまることは後退することと同じ」、「浜松ホトニクスらしさ(ホトニクスイズム)をなくしてはならないが、『今と同じようにやっていれば、会社はこのまま存続する』という甘い考え方であってはいけない」と話していた。

ちなみに、光電子増倍管の仕組みは、相対性理論で有名なアインシュタイン博士がノーベル物理学賞を受賞した光電効果に基づいている。光電効果とは、電圧をかけたマイナス側の電極に光を充てると電子が飛び出す現象。これを利用することで、光を電流に変換できるようになり、光センサーやテレビなどに広く応用されるようになった。

晝間社長は社長就任の挨拶で、「会社には『status quo(ステイタス・クオ/現状維持)』という言葉はありません」と語ったという。現状維持では先がない。だから挑戦し続けるのだ。それも、人類未知未踏領域に向かってである。


一.理念とは、経営者や社員が最終的に立ち返る「心のより所」

最後に、ヤマトホールディングスで聞いた理念の話を、ぜひ紹介しておきたい。

一、ヤマトは我なり
一、運送行為は委託者の意思の延長と知るべし
一、思想を堅実に礼節を重んずべし

これは1919(大正8)年に創業した大和運輸が1931(昭和6)年に定めた社訓で、ヤマトグループの基本理念の原点になるものである。

ヤマトホールディングスの瀬戸薫会長(当時)は、「ヤマトは我なり」とは「自分自身=ヤマト」という意識を持ちなさいということだと話していた。

セールスドライバーが1人で配送業務を行っているとき、何を行動の規範にしたらいいのか迷うことがある。だが「自分自身=ヤマト」であり、自分が担当地区でヤマトを代表する存在だということがわかっていれば、どうすればお客様に喜んでもらえるのか、そのためにどういう行動をすべきか、おのずと答えは出てくるはずだというのだ。

瀬戸氏は、そのヤマトの精神がまさに体現されたエピソードとして、東日本大震災の際に宮城県気仙沼市のある社員の行動について話して下さった。

2011年3月11日の東日本大震災で、同市は震度5強から6弱の強い揺れに見舞われたあと、波高最大20メートル以上の大津波に襲われ、壊滅的な被害をこうむった。

発災から3日後の3月14日、同市で働く社員が市側と直談判し、救援物資の管理と避難所への配送支援を自主的に始めていたという。

各被災地のセンター(営業所)と連絡が取れるようになり、現地の自主判断による取り組みを知ったヤマトホールディングス本社は、その動きを追認し、直ちにバックアップを開始した。全グループを挙げて、車両200台、スタッフ500名からなる救援物資輸送協力隊を組織し、被災地の復旧支援に取り組んだのである。

まさに「ヤマトは我なり」のDNAが、同グループには根付いていた。「自分はこの地域でヤマトを代表する存在だ」というヤマトの精神が生きていたからこそ、社員が、今何をすべきかを考え、自律的に行動することができたということになるだろう。

企業にはそれぞれ、創業者の人生体験や思い、価値観などから生まれ、今に引き継がれている理念があるはずだ。それは知恵の結晶であり、自社はもちろんお客様、ステークホルダー、社会を繁栄に導くための原動力にもなり得るものだ。

急速な変化と不確実性に満ちた世の中で、理念に立ち返り、自分たちがなすべきことを考え、実践する企業が繁栄すると信じて疑わない。


ジャーナリスト 加賀谷 貢樹


 
 

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