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明日を生き抜く知恵の言葉

第5回

企業の理念に込められた知恵【前編】――あなたの会社の「パーパス」 は何ですか?

イノベーションズアイ編集局  ジャーナリスト 加賀谷 貢樹

 

「企業の存在意義」が大きく問われる時代

昨年頃から、企業の存在意義を意味する「パーパス」が、企業経営におけるキーワードとして注目を浴びるようになってきた。

たとえば、ソニーグループは「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というパーパスを掲げ、ベネッセは「社会の構造的課題に対し、その解決に向けてどこよりも真摯に取り組んでいる姿勢に共感できる存在」「自分が一歩踏み出して成長したいと思った時にそばにいてほしい存在」という2つのパーパスを定めている。

こうした中で、自社でもパーパスを制定しようと考える企業は少なくないと思う。

パーパス制定、パーパス経営にしろ、その意気やよしである。だが、明確に「パーパス」という形にはしていなくても、社会における自社の存在意義や、自分たちが社会に果たす使命、役割を規定し、広く共感を得ている企業理念や経営理念などが数多くある。まず、ここに目を向けたいと思うのだ。

そこで今回は2回に分けて、私の取材体験も交えて、さまざまな企業の理念を読み解いてみたい。

パーパスという言葉が浸透しつつある中、これまで企業が自ら思索を重ね、培ってきた知恵の言葉である理念を振り返ってみることにも、大きな意義があるのではないかと思う。

理念の中に込められた企業の哲学、使命

たとえば日清食品ホールディングスは、こんな企業理念を定めている。

食足世平「食が足りてこそ世の中が平和になる」
食創為世「世の中のために食を創造する」
美健賢食「美しく健康な身体は賢い食生活から」
食為聖職「食の仕事は聖職である」

人が生きていくうえで最も重要な、食に対する創業者・安藤百福氏の思い、食に携わる仕事を手がけることへの強い使命感や誇りが伝わる言葉だ。

安藤氏は『食欲礼賛』(PHP研究所)という著書の中で、

「終戦直後、食べるものがなく、飢えて死んでいく人が多かった。そういう悲惨な状況に立ち会った私は、人間にとって一番大切なものが食であることに気付いた。そして、食を生涯の仕事にしようと決意したことによって、私は救われたのである」

と、創業の思いを語っている。

経営者のこうした体験や人生経験から生まれた価値観や哲学が、企業理念、経営理念、あるいは経営の目的に昇華し、広く世に役立つ事業やビジネスを創り上げる原動力になるのだろう。

メディア取材で経営者と話をさせていただいていると、理念が話題に上ることが多い。

たとえば冒頭でも取り上げたベネッセが、「Benesse=『よく生きる』」という企業理念を掲げ、その理念を社名にしていることは有名だ。「Benesse」はラテン語をもとにした造語で、「bene(ベネ)」は「良い」、「esse(エッセ」は「生きる」という意味(*)だという。

(*)「esse」は、辞書的には英語の「be」に相当し、「ある、存在する」という意味を表す。英語「essence(エッセンス/本質)」もラテン語の「esse」に由来する


ベネッセホールディングスの福武總一郎名誉顧問の社長在任当時、企業理念の背景について話を聞いたことがある。


1955年の創業当初から教育事業を手がけてきた同社は、1980年代後半に至り、今後少子高齢化によって福祉を始めとする社会システムの基盤がゆらぎ、「豊かさ」に関する人の意識や価値観が大きく変化すると予測した。


そこで、「一時の流行よりも、時代を越えて価値のある『不易(ふえき)』に目を向けることの方が大事だ」と、当時社長に就任したばかりの福武氏は考え、赤ちゃんからお年寄りまで誰もが持っている人間としての向上意欲に目を向け、「Benesse」(よく生きる)という企業理念を定めたのだという。


そこから同社は、企業理念「Benesse」の実現のため、個人とその家族を対象とした直接的・継続的ビジネスに徹する方針を定めた。それに合わせて、事業領域を子ども向けの教育に加えて語学、生活、介護へと広げ、新たな発展を遂げたのだ。


「感動創造企業」に向けて、「心のエンジン回転数」を上げよ(Revs your Heart)!

ヤマハ発動機は「感動創造企業」を、同社が自社の存在意義と位置づける「企業の目的」として掲げている。


この企業の目的に加え「顧客の期待を超える価値の創造」および「仕事をする自分に誇りがもてる企業風土の実現」、「社会的責任のグローバルな遂行」の3つからなる経営理念、そして「スピード」、「挑戦」、「やり抜く」からなる行動指針が三位一体となって、同社の企業理念が形作られているという。


浜松市にある同社の本社ショールームを訪れた際、柳弘之社長(社長および会長を歴任したあと現・取締役)に、同社では「感動創造企業」の実現に向けて、"Revs your Heart(レヴズ・ユア・ハート)"というブランド・スローガンを定めていると聞いた。


「Rev」とは「エンジンの回転数を上げる」という意味の英語で、「わくわくさせる」とか気持ちを「高ぶらせる」というニュアンスが込められている。


1955年にヤマハ(旧・日本楽器製造)から分離独立して以来、オートバイなどを手がけ、世界的なメーカーとして数多くのファンを持つ同社の矜恃やものづくりに懸ける思いが、「Revs」という言葉に凝縮されている。


このブランド・スローガンを実現するうえで大切にしている「ヤマハらしさ」を、同社は「発・悦(えつ)・信・魅(み)・結」の5文字で表していると柳氏は語った。


ヤマハ発動機の「発」が独創性で、顧客の悦(よろこ)びと信頼を得る卓越した技術が「悦」と「信」。顧客の感性に訴え、魅了するのが「魅」。そして、人や社会とつながり、絆を結ぶ「結」である。


そこに、人と機械が応答し合い一体感を生む、「人機官能(じんきかんのう)」という同社独自の開発思想が加わって、独創的なコンセプトが具体的な製品となり、ユーザーを魅了し、感動を創造していくのだ。


「独創性のポイントはイノベーションにあるが、工学的にはイノベーションは何もないところからは生まれない。従来手がけてきたエンジンを含むパワーソース、車体・艇体・機体を作るボディ技術、エンジンおよびボディの統合制御技術という3つのフィールドをそれぞれ進化させ、組み合わせることでイノベーションが生まれる」という、柳氏の言葉が印象深い。


このように、それぞれの企業が持つ価値観や哲学から広がるストーリーを表現したものが、広い意味で企業の理念だといってもいいのではないか。


外から学び、新しいものを取り入れることも重要で、意義のあることだが、自らの内面と向き合い、思索を重ねる中で生み出されるものの価値もまた、大きい。


そこから何かを学び取ろうとする私たちにも、多くの気付きを与えてくれる。


次回は、さまざまな企業の理念を引きながら、理念が企業経営の中で持つ意味や役割を考え、さらに深めていきたい。


ジャーナリスト 加賀谷 貢樹


 

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