「暗黙知へのいざない…~無形資産が有形資産を生む」

第1回

出井様、あなたの暗黙知は、素晴らしかった。

田原祐子 2022年6月10日
 
突然、元ソニーの出井伸之様の訃報が飛び込んできて、愕然とした。

出井様とは、2年前、取締役のWinterSeminarで同じグループになり、日本をよくするためのテーマで、グループワークをした。「発表は任せるから、あなたがしなさい!」と言われて、素直に、ちょっと過激な発言をした。もちろん、【暗黙知】についてだ。実は、【暗黙知】は、今しきりに取り上げられている、人的資本・知的資本の源泉だが、ハイコンテクスト文化の日本では、それらが【形式知化】できていない。出井様は、腕組みをして、「いいね!」と言ってくださった。
 

「秘書の〇〇に連絡して」と、メッセージをもらって、赤坂のクオンタムリーブへ。私が、【暗黙知】について説明すると、ゆっくり頷きながら、聞いている。

出井様のような、鋭い閃きを持つ経営者の【暗黙知】を、【形式知化】する方法は、いくつかある。例えば、【暗黙知】を、独自のオリジナルメソッドやTheoryとして、講座化する方法。経営やオープンイノベーション等にテーマを絞って読み物化したり、自分史的な、企業案内等の冊子にすることもある。

また、ご自身の企業の次世代人材を育成する、『サクセッションプラン』として、ご自身の事業に対する思いや、判断軸、決断時の迷いの払拭等を、プログラムとして【形式知化】しておけば、企業に脈々と受け継がれる、企業独自のポリシー(Vision、Mission、CoreValueなどにも)として、明確に【形式知化】できるし、言葉でなく次の世代に繋ぐ物語を交えて、永遠に繋ぐことができる。

出井様の講演やセミナーで、【暗黙知】が共有できるかと言えば、実は、この方法は、限りなく無理に近い。

なぜなら、武勇伝を聞いても、「あの人だからできる=自分にはできない」と思う人がほとんどで、「今日は、いい話をお聞きました!」「勇気をもらいました!」と言ってはいるが、一週間も経てば、忘れてしまうからだ。

武勇伝を、自分にも落とし込んで、応用・活用できるように、【暗黙知】を取り出し、なんらかの【形式知】にしなければ、できるようにはならない。

2回目に、出井様にお会いしたのは、昨年の12月だった、ちょうど新しいご著書『個のイノベーションー対談集』を出版なさったばかりだった。冨山和彦氏から、YOSHIKOまで、多様な方々との対談が綴られていた。
少しお疲れの様子が見えて、心配だった。

「素晴らしいご著書ですね!【暗黙知】がいっぱい詰まっています。」とお伝えした。「有難う!」と、出井様。

会話を通して見えてくる、出井様の判断軸、何を見て、どう判断しているかが透けて見える。

現在の「今ココ」を見ていない。時間軸が、遠い未来に向けられており、驚くばかり深い階層の情報・状況を、独自の視点で読み込み、お話しされているのだ。



「今度は、出井様のお話しを、もっとお聞きしたいです!」
「秘書の〇〇に連絡して!」

それが最後のメッセージ。
出井様、あなたの【暗黙知】は、本当に素晴らしかった。

 
 

プロフィール

株式会社ベーシック
代表取締役 田原 祐子 (たはら ゆうこ)


社会構想大学院大学「実践知のプロフェッショナル」を養成する実務教育研究科教授、 日本ナレッジ・マネジメント学会理事


仕事ができる人材は、なぜ、仕事ができるかという“暗黙知=ナレッジ”を20年前から研究し、これらをモデリング・標準化・形式知化(マニュアル、ノウハウリスト、システム等の社内人材を育成する仕組み)を構築。企業内に分散する暗黙知やノウハウを組織開発・人材育成に活用する、【実践知教育型製ナレッジ・マネジメント】を提唱し、社内インストラクターの育成にも寄与。約1500社、13万人を育成指導。


トップマネジメントや、次世代を担うエグゼクティブの、コンピテンシー分析・意思決定暗黙知の形式知化や、企業内の知財の可視化(人的資本・知的資本・無形資産含む)にも貢献し、上場企業2社の社外取締役も拝命している。


環境省委託事業、経産省新ビジネスモデル選定委員、特許庁では特許開発のワークショップ実施。2021年より、厚生労働省「民間教育訓練機関における職業訓練サービスの質向上取組支援事業」に係る運営協議会および認証委員会委員。


暗黙知を形式知化するフレーム&ワークモジュールRという独自メソドロジーは、全国能率大会(経産省後援)で、3年連続表彰され、導入企業は、東証一部上場企業~中小企業、学校・幼稚園、病院・介護施設、研究開発機関、伝統工芸、弁護士、知財事務所等。DX・RPA・AIとも合致。営業部門は、Sales Force Automation、Marketing Automation、一般部門では、Teams・SNSツール・Excel等も活用可能。


著書15冊、連載・ビジネス誌執筆等、多数。


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