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「今、日本の経営者に知らせたい、重要な経営課題」

第8回

「知的資本経営こそ、日本企業の強みを発掘・再構築する源泉」  株式会社ICMG(ICMG Co., Ltd.)代表取締役社長 兼 グループCEO 船橋仁氏【中編】

株式会社ベーシック  田原祐子

 

日本の強みを活かす経営とは

船橋様:そうですね。企業経営でも、営業利益率2桁の利益を出すためには、相当拡大生産しなければなりませんが、そういう利益設定をする企業経営を日本はやってきていない。アメリカでは、資本家階級をベースにした経営をしてきたが、日本には、そもそも資本家階級は存在していませんでした。ある種、コミュニティ経営であるわけです。ですから、株主も資本主義社会の中でも、配当等が劣後していてもあまり違和感を持っていなかった。ところが、海外の投資家は、これまでの日本型経営と異なる考え方で、営業利益率アップや、配当を求める。そして、日本の経営者たちが、それに対抗するロジックがなかったのです。全米経営者協会が、これからは、シェアホルダー主義でなくて、ステイクホルダー主義だと言っているが、そんなことを言われる前から、我々日本では、ステイクホルダー資本主義だったのです。

また、日本は、スタンダードモデルやルールを作るのが上手くないため、これらすべてが後手に回ってしまい、最近では脱炭素を含めたルールがヨーロッパ主導で作られています。あたかもそれら全部が素晴らしいと信じ込み、本質的・批判的思考を持たなければ、日本の社会が壊れていくのではないかと心配しています。

田原:私はその一つの解こそが、人的資本、知的資本であると思い、このタイミングで、ぜひ、船橋様にインタビューして、日本の企業経営者にここに気づいていただきたいと思いました。日本では、海外と比較して、人材育成や教育への投資もかなり少ないですし、一方で、人材自身も、自ら積極的に自己研鑽していかねばなりません。

また、「日本は、ルールづくりや標準化が苦手」という部分は、何とかしなくてはならないと思っています。おりしも、内閣府の知的財産戦略本部が発表した『知的財産推進計画2021~コロナ後のデジタル・グリーン競争を勝ち抜く無形資産強化戦略~』でも、日本では標準活用の重要性の認識が希薄であり、官民を挙げて標準の活用に向けた取組を進めると明示されました。標準化というと、「型にはめられる」「個性が発揮できない」等というイメージがありますが、まったく逆の発送です。私が、昔オール電化住宅(田原は、日本におけるオール電化住宅の普及拡大を全面的に指導し手掛けたため)ドイツを視察に行った際に驚いたのですが、ドイツが発祥の地とされるシステムキッチンは、全メーカー、同じ規格同じ寸法で、あらゆるメーカーのパーツを組み合わせることが可能なのです。万一、どれか一つのメーカーが製造中止になったとしても、他のメーカーと組み合わせられ、バリエーションも拡がりますし、企業にとっても協業や共有が可能となり、ビジネスが安定するだけでなく、ビジネススケールも拡大します。今注目されている、知財の“オープン&クローズ戦略”の“オープン”の部分がこれです。この戦略の素晴らしさは、知財のベースの部分を全部標準化しオープンにしてしまい、それに組み合わせる知財を有料にしてクローズにする。標準化のその先に、そういう戦略やメリットがあることを理解すれば、標準化の必要性が理解できると思います。

人的資本・知的資本・ナレッジマネジメントから考える、日本の未来の在り方

今、日本の経営には、短期的・中期的な経営視点よりも、もっとロングスパンの、ロングターム・ステイクホルダーバリューが必要だと思います。そのためには、従業員や、お客様、パートナーとの連携は必須。こうした関係資本の磨き方も、日本は苦手な部分です。

短期的な目先の営業利益率の追求するのではなく、信頼関係と、ある程度長い目で、人的資本・知的資本を磨き上げて、企業価値や実績を向上させていくことが何より大切です。それは、昔、リクルート時代に、デトロイトの工場に行ったときに、大企業が、巨大な工場を、もういらなくなったから捨てることにしたと廃墟にしていた。また、シリコンバレーのベンチャーたちの日本進出支援をしていた時、実感したのは、その人たちの仕事の仕方は、企業を止まり木のように、一時的な存在として考えているなということ。自分自身が生涯かけてその会社にいようとは、最初から思っていない。

しかし、我々は、人材を切り捨てたり、ダメな事業をやめるのでもない、伊勢神宮ではないですが、どんどんリニューアルしていいものを創っていくという考え方を大事にしていくべきです。じっくりじっくり人的資本から、価値を創造していく。そのためには、ICレーティングⒸで知的資本である人的資本・組織資本・関係資本等を可視化し、成長戦略のStepの中に、落とし込まなくてはなりません。また、不足している部分は、外から調達することもできるのです。弊社がクライアントの経営者にお伝えしているのは、すぐに改革したいなら、プロジェクトという選択肢もサポートメニューにはあるが、人材自体が自分でやる気を起こさない限り何の意味もない。ですから、徹底的に人材を磨きあげるなら、半年から数年かけて取り組む、人材育成プログラム(智と軸のリーダーシッププログラム)をおすすめしています。このような企業研修のニーズも多くあります。

ただし、日本のもう一つ弱みである、いらないものを持ちすぎる、過去のやり方を引きずる、過去の成功体験に甘んじるといった部分は、もちろん絶つべきです。自分たちのために、自分たちで気づいて、自分たちで変えていく・守り抜くという、新しい再生の動きこそが、日本の新たな強みになると思います。企業経営も同様に、内部留保がありすぎる、PBRが低いからダメだと、一つの企業の断面を見て判断するのではなく、コミュニティ側、従業員側から見れば、違う認識も出てくるのです。


図表2

図表3


――次回に続く――

 

プロフィール

株式会社ベーシック
代表取締役 田原 祐子 (たはら ゆうこ)


社会構想大学院大学「実践知のプロフェッショナル」を養成する実務教育研究科教授、 日本ナレッジ・マネジメント学会理事


仕事ができる人材は、なぜ、仕事ができるかという“暗黙知=ナレッジ”を20年前から研究し、これらをモデリング・標準化・形式知化(マニュアル、ノウハウリスト、システム等の社内人材を育成する仕組み)を構築。企業内に分散する暗黙知やノウハウを組織開発・人材育成に活用する、【実践知教育型製ナレッジ・マネジメント】を提唱し、社内インストラクターの育成にも寄与。約1500社、13万人を育成指導。


トップマネジメントや、次世代を担うエグゼクティブの、コンピテンシー分析・意思決定暗黙知の形式知化や、企業内の知財の可視化(人的資本・知的資本・無形資産含む)にも貢献し、上場企業2社の社外取締役も拝命している。


環境省委託事業、経産省新ビジネスモデル選定委員、特許庁では特許開発のワークショップ実施。2021年より、厚生労働省「民間教育訓練機関における職業訓練サービスの質向上取組支援事業」に係る運営協議会および認証委員会委員。


暗黙知を形式知化するフレーム&ワークモジュールRという独自メソドロジーは、全国能率大会(経産省後援)で、3年連続表彰され、導入企業は、東証一部上場企業~中小企業、学校・幼稚園、病院・介護施設、研究開発機関、伝統工芸、弁護士、知財事務所等。DX・RPA・AIとも合致。営業部門は、Sales Force Automation、Marketing Automation、一般部門では、Teams・SNSツール・Excel等も活用可能。


著書15冊、連載・ビジネス誌執筆等、多数。



Webサイト:株式会社ベーシック

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