「今、日本の経営者に知らせたい、重要な経営課題」

第1回

「なぜ、日本のDX(デジタルトランスフォーメーション)は進まないのか?」  名古屋大学名誉教授 山本修一郎先生 【前編】

株式会社ベーシック  田原祐子

 

今回のテーマと山本先生のご紹介

コロナ禍によって、テレワークや、DX推進への意識づけ、ジョブ制の導入等が一気に進み始めています。しかし、DXについては、その本質を理解できず、社内でDX推進チームは結成されはしたものの、うまく進められていない企業も少なくありません。

 

実は、日本のDXの遅れはかなり深刻であり、欧米のみならずアジア諸国にも遅れを取っており、このままでは日本がデジタル後進国にもなりかねない由々しき課題です。

 

そこで、今回は、経済産業省の研究委員、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)のフェロー等、日本のDXをけん引する要職に就かれている、名古屋大学名誉教授の山本修一郎先生をお招きして、日本の経営者の皆様に、「なぜ、日本のDXは進まないのか?」という根本的な課題についてお聞きしたいと思います。

 

まずは、山本先生のプロフィールをご紹介させていただきます。山本先生は、NTTデータの技術開発本部副本部長、同社初代フェロー、システム科学研究所所長を経られて、名古屋大学教授となられました。さらに、今春開学する、名古屋国際工科専門職大学にて教授にご就任される予定です。

 

 

システム開発技術を知る専門家から見た、日本のDX課題

田原: 早速ですが、山本先生は、昨年秋に、新刊『DXの基礎知識 具体的なデジタル変革事例と方法論』を上梓なさったとうかがいました。こちらの本を書かれた意図や背景を教えていただけますか?

 

山本先生: はい。私自身、名古屋大学で教鞭をとる前は、NTT研究所とNTTデータで、長くITの技術開発や実用化を推進してきました。様々な企業にシステムを導入した経験もしている、技術畑の出身です。最近は、経営学の先生方やいろいろな方々が、DXをビジネスや経営の観点から掲げている書籍は多いのですが、これらは、実は「デジタル技術の本質を捉えきれてない」と感じています。デジタルトランスフォーメーションというのは、デジタル技術に立脚しているにもかかわらず、表層的な経営論だけでDXを議論しているものが多いためです。今回出版した『DXの基礎知識』は、読みやすい本ではありませんが、実際にデジタル技術をどのように活用するのかという方法論や、DXで重要な役割を担うマイクロサービス等、技術的な視点から海外の成功事例等をまとめて紹介しています。

また、経済産業省からはDXのための一般的なガイドラインは出されていますが、具体的な知識にまでは昇華しておらず、何をどうするかは企業側にゆだねられています。そのため、DXのための具体的なガイドライン、方法論等を明らかにする必要があると、ずっと考え続けてきたことを今回の新刊にまとめました。

DXに関する誤った認識 - アジャイル思考等、断片的な知識・つけやき刃な対応ではDXは実現しない。

田原: 私も、日本では、DXの本質を理解なさっている経営者やマネジメント者は少なく、DXが、単なるデジタル化、RPA、AI等と混在して捉えられているように感じています。本日は、ぜひ、山本先生直々に日本の経営トップの方々に、DXの本質についてお話をしていていただければありがたく存じます。

 

山本先生: 日本では、DXに関する知識が散在しており、各所で断片的に取り組まれています。これら、それぞれがサイロ化してしまっており、これも大きな問題です。部分最適な発想ではDXは実現しません。ビジネスそのものを全体最適かつ包括的な視点で、再構築しなくてはならないのが、DXなのです。

また、最近DXは、日本でも様々なところで取り上げられていますが、やれ、デザイン思考だ、アジャイル開発でDXをやりましょうといった、つけやき刃的な方法論のお話が多いのも問題です。これらの知識はDX以前からあったもので、特にDXのために特別必要な知識ではありません。

DXの定義

田原: 私も日本では、特に海外からのカタカナ言葉に代表される、新しい知識、方法論に弱く、本質を理解せぬまま、鵜呑みにしてしまっていたと感じることがこれまでも多々ありました。

そもそも、DX自体は、経済産業省ではどのように定義されているのでしょうか?

 

山本先生: 2018年9月に、経済産業省が『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』を発表しました。日本では、従来から、ITシステムが大規模化・複雑化・老朽化しているという課題があります。これが、このままの状態で、21年以上稼働する老朽システムが 2025年に刷新されない場合には、システム全体の6割以上が老朽システムになってしまい、2018年現在の老朽システムによる経済損失は年間4兆円、老朽システムを刷新してDXを断行できない場合、2025年以降はその3倍の年間最大12兆円の経済損失が発生する可能性があることが指摘されています。これが、いわゆる“2025年の崖”と言われるものです。

2025年の崖-社内システム人材の不足とベンダーの関係

田原: “2025年の崖”による経済損失が年間12兆円とは、日本全体が本気で取り組まなくてはならない喫緊の課題です。ITシステムの進歩のスピードは目まぐるしいものがありますから、21年以上も経っている老朽化したシステムの刷新は必要不可欠ではないでしょうか。老朽化したITシステムが、さらに複雑化・肥大化しているとなると、システムの動きは重く遅くなって、現場の生産性にも多大な影響が出そうですね。

 

山本先生: その通りです。その上、システムが老朽化して21年も経っていると、システムを構築した人材も、ITベンダー(企業側がシステムを外注する、システムを構築する会社)をリタイアしてしまっており、どうやってシステムを作ったかもブラックボックス化し、非常に扱い辛くシステムの再構築も簡単にはままならない状態なのです。

これは、私が“2025年の崖”がなぜ起こるかを図式化したものです。

 

 

田原: まさに、現場はこの通りですね。私自身、企業の働き方改革や、生産性向上等のコンサルティングを進める中で、システムの企画や開発・導入や実装等に幾度か関わってきましたが、以前から、「システムを発注する企業側と、受注するITベンダー企業の関係やコミュニケーション不足」に問題を感じていました。というのは、発注する企業側もITのプロではないため、「どのようなシステムを構築すればよいか」という最も大切な詰めの部分が、システムのことをよく理解できておらずITベンダー任せになってしまうのが現状です。最悪なケースでは、システムの成果や責任を、一方的に企業側がITベンダーに押し付けてしまうケースがありました。企業とITベンダーとの「言った、言わない」という訴訟もよくあると聞きます。しかし、よく考えてみれば、発注する側の企業以上には、システムを構築するために不可欠な業務内容や実務の流れを知っている人材はいません。それらを、「企業側がITベンダーに伝えきれているか?」、「ITベンダーが理解しきれているか?」という部分に大きな課題があり、コミュニケーショントラブルやミスも多々あると思います。

実際に、コンサルティングに入った企業で、完成したばかりの数億円のシステムを確認したところ、業務に最も大切なKPIを測る項目が抜け落ちており、それから3年がかりで補完するためのサポートをしたケースもありました。また、このようなトラブルが絶えないため、企業側の情報システム部門においても、ITベンダー企業においても、離職率が高い傾向があります。

 

――次回に続く――

 

プロフィール

株式会社ベーシック
代表取締役 田原 祐子 (たはら ゆうこ)


社会構想大学院大学「実践知のプロフェッショナル」を養成する実務教育研究科教授、 日本ナレッジ・マネジメント学会理事


仕事ができる人材は、なぜ、仕事ができるかという“暗黙知=ナレッジ”を20年前から研究し、これらをモデリング・標準化・形式知化(マニュアル、ノウハウリスト、システム等の社内人材を育成する仕組み)を構築。企業内に分散する暗黙知やノウハウを組織開発・人材育成に活用する、【実践知教育型製ナレッジ・マネジメント】を提唱し、社内インストラクターの育成にも寄与。約1500社、13万人を育成指導。


トップマネジメントや、次世代を担うエグゼクティブの、コンピテンシー分析・意思決定暗黙知の形式知化や、企業内の知財の可視化(人的資本・知的資本・無形資産含む)にも貢献し、上場企業2社の社外取締役も拝命している。


環境省委託事業、経産省新ビジネスモデル選定委員、特許庁では特許開発のワークショップ実施。2021年より、厚生労働省「民間教育訓練機関における職業訓練サービスの質向上取組支援事業」に係る運営協議会および認証委員会委員。


暗黙知を形式知化するフレーム&ワークモジュールRという独自メソドロジーは、全国能率大会(経産省後援)で、3年連続表彰され、導入企業は、東証一部上場企業~中小企業、学校・幼稚園、病院・介護施設、研究開発機関、伝統工芸、弁護士、知財事務所等。DX・RPA・AIとも合致。営業部門は、Sales Force Automation、Marketing Automation、一般部門では、Teams・SNSツール・Excel等も活用可能。


著書15冊、連載・ビジネス誌執筆等、多数。



Webサイト:株式会社ベーシック

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