「今、日本の経営者に知らせたい、重要な経営課題」

第7回

「知的資本経営こそ、日本企業の強みを発掘・再構築する源泉」  株式会社ICMG(ICMG Co., Ltd.)代表取締役社長 兼 グループCEO 船橋仁氏【前編】

田原祐子 2021年11月30日
 

今回のテーマを取り上げた理由

テクノロジーの飛躍的進化によって、あらゆる局面でパラダイムシフトが加速している今、私が最も重視しているテーマが、今回テーマに取り上げる「知的資本」です。また、「知的資本」は、企業の無形資産であり、次なる新たな事業を生み出す源泉(ソース)でもあります。先般、大企業の管理職1,000名へのアンケートで、7割以上がDXとデジタル化の違いを「説明できない」と回答されていたという結果が提示されていましたが、DXをするにも、今の自社の人的資本を含む知的資本が可視化できていなければ、本当の意味のDXは実現できません。例えば、自動車産業が、自動車という製品を作ることから、テクノロジーやデータを活用した「移動手段」というモビリティサービスへと変化しているように、技術の進化によって、事業のドメインそのものが、大きく転換しようとしています。DXとはデジタル技術を使って、まったく新しい事業を生み出すことであり、それには、「知的資本」の可視化が不可欠です。また、恐ろしいのは、技術進化・環境変化によって、今、うまくいっている事業も一瞬でビジネス基盤が崩れ、メインプレーヤーごと入れ替わる可能性がある、“先が読めない時代”であること。そのため、企業は、ビジネスアーキテクチャ・ビジネスモデル・事業ドメインから、人の持つ、スキル・ケイパビリティまでを可視化し、再構築を考えなくてはならない転換期を迎えています。

しかし、こうした“脅威”は、同時に、新たなビジネスを創造する“チャンス”でもあります。事業の再構築、再生、M&A等には、「今ある強み、知的資本を正しく認識でき、どう生かせるか」あるいは、「足りない知的資本を、どう育成または、調達するか」を考えれば、いかなる事態にも柔軟かつダイナミックに対応できるでしょう。しかし、多くの企業がまだ、この「知的資本」の重要性に気づいていません。また、前回の連載で、人材レポート伊藤版と、海外では既に「ISO30401・人的資本マネジメント」の開示が義務化され、投資家たちもここに注目していることをお伝えしましたが、今回テーマとして取り上げる、「知的資本」は、「人的資本」によって生み出されるものでもあり、企業や組織の知的資産管理の重要性も併せて注目され、知的資産管理のISOISO30401(ナレッジ・マネジメント・リクワイヤメント)も2018年に公示されています。

そこで、連載のインタビュー3人目となる今回は、企業の知的資本を可視化し、ジョイントベンチャーや、リーダーシッププログラム等によって、新規事業構築から事業再生までを手掛けられている、船橋様をお招きしました。

船橋様のご紹介

「今、日本の経営者に知らせたい、重要な経営課題」インタビュー、今回は、ICMGの代表取締役 船橋仁様にお越しいただきました。

 船橋様は、企業内の知的資本を可視化・評価する“ICレーティングⓇ”や、次の事業に繋ぐ、次世代幹部人材育成、ベンチャー企業を主とした非上場企業への投資やプロジェクト投資等も立上げられている、ICMGの代表取締役社長、CEOでいらっしゃいます。

船橋様、貴社の具体的な事業の内容と、どのような経緯でそれらの事業を手掛けられるようになったか、教えていただけますでしょうか?

「知的資本」「人的資本」が世界で着目されてきた経緯と、ICレーティングⓇ

船橋様:私は、20数年前、商社からリクルートに転職し、経営企画や新規事業開発を手掛けていました。リクルートは、「人」を中心とした、マッチングビジネスで大きく成長しましたが、当時、Webが出てきて、紙メディアが下火になってきていました。その中で、「人的資本からいかに、経営資源ができるような事業体ができるか」を模索していました。私自身、知的資本を含め、企業の価値を生み出すのは、他ならぬ「人」だと捉えていたためです。

しかし、愕然としたのは、当時の「人的資源管理」という捉え方は、市場側からの「企業価値」とは相容れず、この領域の考え方とは、言語も思想も違うことに驚きました。そこで、企業価値の研究を始め、監査法人とも連携して研究を進め、そこに経済産業省が参画してくれたのは、1994年のことです。企業価値の中に、人的資源が入っておらず、PL上のコスト(費用)という仕分けであり、人材は、単なる材として投入されただけで、そもそも、人的資本が「価値」だと認識されていなかった。

リクルートでは、人材を磨きあげることが企業価値を高めると思っていたのに、証券会社や投資銀行等を調べても、同じく、人材はコストとしかみなされておらず、強烈な違和感を感じ、世界中を調べました。アメリカはどうかと調べたが、数量学的なモンテカルロシミュレーション(ある不確実な事象について起こりうる結果を推定するために使用される、数学的技法)等、数理学的な話ばかりで、求めていた人的資本・顧客価値等が出てこない。もちろん組織の大切さも出てこない。その時、リクルートのワークデザイン研究室が、スウェーデンに、Intellectual Capital(知的資本)という考え方を見つけてきて、居ても立っても居られず、研究室や経産省等賛同するメンバーとともに、北欧に飛びました。

ストックホルムのフューチャーセンターで、レイフ・エドビンソン(=『インテレクチャル・キャピタル(知的資本)~企業の知力を測るナレッジ・マネジメントの新財務指標』著者)から、バランスシートの中に計上されない、非財務情報があり、それは、人的資本が生み出す、知的資本だと聞いた時、雷に打たれたような衝撃を受けました。まさに、探し求めていた答えが、北欧にあったのです。彼らは、「インテレクチャル・キャピタルレポート」を毎年発行し、企業のディスクロージャーとともに、ストックホルム証券取引所に提出していました。それが、今、日本でも注目されている、企業の統合レポートの原点です。また、彼らは、企業の知的資本を分析する、ICレーティングⓇという独自のツールを開発していたため、我々はすぐに彼らと提携して、ICレーティングⓇを日本でも展開していきました。さらに、私自身は、産業構造審議会座長として、日本における企業情報を開示する統合レポート作成のワークショップも同時に始めて行ったのです。

図表1

北欧の教育・風土と、日本の教育・風土の相違

田原:なるほど!素晴らしいですね。北欧は、学校教育においても独自のメソッドや制度があり、私もこれらには注目しています。彼らは、知識を単に学ぶだけでなく、「なぜ、そうなのか?」とうい原点から、「ある意味、批判的に物事を見て、自分自身の力で考え、意思決定し、行動していく」、そのような教育がなされていると理解しています。また、余談になりますが、今、日本でも教育改革が進められており、変化が激しく「正解がない、正解かどうか誰にもわからない」という現状の中で、「正解のない問い」にどう対応するかという能力(課題解決力、協働力含む)が求められています。

前回のこの連載のテーマは、「日本の企業内人材育成の遅れ」を取り上げたのですが、日本は製造業で長く、Japan As №1の時代を過ごしたため、製造業モデルの人材育成の典型的事例である、「知識を習得し、言われたことを言われたままにする人材を育成」してきたという社会的・時代的背景があります。そうした理由もあって、欧米と比較して、企業内人材育成も、10年以上遅れているのです。

船橋様:確かに、北欧の教育は、自立を促す教育であったように思います。私も、その頃よく、インテレクチャル・キャピタルについて講演していました。そして、人的資本である、スキルやナレッジを高めるために、人材をあえて外に出して経験を積ませる、他流試合も勧めていて、補助金を出していたこともあります。また、ストックホルムやコペンハーゲンには、年4~5回訪問しており、あちらは“バイキング(海賊)”、こちらは“侍”だと、気心も知れて、彼らの気質も理解できました。彼らは、冬が長く、自国だけでビジネスをやっていくという考え方はなくて、アメリカや南ヨーロッパで出稼ぎし、5月6月頃のよい季節になったら戻ってくる生活が定着していました。他の国で働くには、スキルアップは当然ですが、それなりに調整力や協働力、人間力も必要です。ところが、日本の場合には、ある程度、自国内で何でもやれてしまうし経済力もある。また、いい意味、「できる子が、できない子の面倒を見る文化」であり、共同体、コミュニティ経営です。必要以上に、スキルアップをするというより、相互扶助の精神が強いですね。企業にしても、同様に、儲かっている部門や工場が、儲かっていないところの面倒を見ています。

田原:おっしゃる通りですね。面倒見の良さや、背中を見て育ててきた、メンバーシップ制の日本の強みが発揮できず、悪い部分のみが出てきて、弱点になってきているように思います。ジョブ制の導入が最近加速していますが、実は、メンバーシップ制のよい部分もあるのに、肝心な部分が活かされず、表面的なジョブ制だけが切り取られて導入されているようです。これは、本質を理解せず、物事をよく咀嚼せぬまま、自国に取り入れる傾向がある日本の悪しき部分だと感じます。また、一方で、最近、私が親しくさせていただいている、同志社大学の太田肇先生が、『同調圧力』という著書を出版されました。これらは、組織の縦の繋がりだけでなく、組織の横の繋がりの圧力にも触れられています。出る杭は打たれぬよう、杭を打たない。失敗を恐れ、自分が赴任している間は、大きな失敗をしないようにと過度に恐れた、保身に走る、消極性の元凶にもなっていると思います。本来の、日本的経営の良さや強みを、実際に今の企業経営において、どう対応し、活かせばよいでしょうか?


――次回に続く――

 
 

プロフィール

株式会社ベーシック
代表取締役 田原祐子 (ソーシャルナレッジ・コンサルタント)

株式会社ベーシック 代表取締役 社会情報大学院大学 教授。

外資系派遣会社の人材教育トレーナー、コンサルティング会社の新規事業室長を経て、1998年に会社設立。

電力会社の新規事業立ち上げを指導し、暗黙知を形式知化する。ナレッジ・マネジメントの独自手法で、実績とシェアを倍増させた。DX推進・組織開発・新規コンテンツ開発(環境省ワーケーション)・エグゼクティブコーチングを手掛ける。

「あなたは部下のやる気をなくさせていませんか?」(インデックスコミュニケーション)等、著書15冊。業界紙への執筆多数。


【主な役職】


兼松株式会社 社外取締役、サンヨーホームズ株式会社 社外取締役 監査等委員

日本ナレッジ・マネジメント学会 理事 新産業革命研究部会長

経済産業省先進的リフォームビジネスモデル選定委員(2014.15)

東京都NEW CONFERENCE TOKYO女性経営者 メンター(2019.2020)


HP:株式会社ベーシック

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