「今、日本の経営者に知らせたい、重要な経営課題」

第4回

「なぜ、日本の企業人材育成は、海外から遅れを取っているのか?」  NPO法人 日本イーラーニングコンソシアム 名誉会長 小松 秀圀氏 【前編】

田原祐子 2021年9月3日
 

今回のテーマを取り上げた理由

コロナ禍によって、私たちの働き方は大きな転換期を迎えています。これまでは遅々として進まなかったテレワークも、緊急事態宣言下では60%以上の企業が導入せざるを得ない状況となりました。リモートで仕事をするとなると、各自の仕事の内容と責任範囲が明確になっていなければならず、従来の働き方を大きく変えなくてはなりません。こうした影響から、従来のメンバーシップ制からジョブ制へと移行する企業も増えています。

また、企業内ではペーパレスも進んでおり、生産性向上のためのDX、CX、人事部門ではHRテック(人事関連のDX。人的資源管理Human ResourcesとTechnologyを掛け合わせた語)等も導入されはじめました。デジタル化、RPA、AIの導入によって業務自体がロボットに置き換わってしまうケースもあり、ビジネス全般が大きな変革を余儀なくされている状況か、企業は、ビジネスモデルを変え、ビジネス自体を再構築しなくてはならなくなっています。こうした状況下において、これまでとは、企業で働く人材に求められるスキルやコンピテンシー、また、企業内人材教育のあるべき姿も変わってきています。

そこで、今回は、永く企業内人材育成を手掛けられ、企業内人材教育、および、eラーニングの導入等に貢献され、20数年海外企業の人材育成ベンチマーク調査をなさって海外と日本の本質的な違いもよくご存じである、小松名誉会長をゲストにお招きしました。

小松名誉会長のご紹介

小松名誉会長は、(株)富士ゼロックス(日本・アメリカ)で永く企業内教育を手掛られた後、(株)NTTラーニングシステムズの起業に参画され、メディア(eラーニング等)を活用した社会人教育事業を立上げられました。同時に、現在名誉会長を務めておられるNPO法人日本イーラーニングコンソーシアムを30年前に発足され、日本において早くからビデオ教材など、メディア教材活用した社会人教育の先駆者でもいらっしゃいます。また、熊本大学大学院 教授システム学専攻科でも10年近く非常勤講師として教鞭をとっておられました。


小松秀圀名誉会長

小松 秀圀氏プロフィール

NPO法人日本イーラーニングコンソシアム名誉会長

モバイルラーニングコンソシアム 会長

元熊本大学 大学院 教授システム学専攻科 非常勤講師

元NTTラーニングシステムズ株式会社 常務取締役


田原: 小松名誉会長、早速ですが、日本の人材育成やデジタル化は、小松さんの眼からご覧になって、欧米と比較してどの程度遅れているのでしょうか?そして、なぜ、このように遅れてしまったのでしょうか?

製造業から情報産業への転換が遅かった日本

小松名誉会長:海外と比較すると、日本の社会人の人材育成は10年以上、社会人人材育成の理念、教授法の最適化においては、おそらく15年以上は遅れているのではないかと思います。そして、それは、日本の社会人人材育成のプロフェッショナルの不在、政府の社会人人材育成への関心の薄さ、およびもの造り産業が強すぎて、産業構造自体の変化による競争力の変遷に気づかないことに起因しているのでしょう。

1980年代には、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」(エズラ・F.ヴォーゲル氏の著作名)と言われ、世界中が日本の物造り産業の素晴らしさに注目していました。高品質で正確、緻密で几帳面な日本人が働く製造業が生み出す製品の数々は、高く評価されたのです。しかし、その後、1890年以降、日本でも産業構造は大きく変化し始め、日本でも社会を牽引する仕事は物造り産業も堅調でありながら、ワークスタイルは情報産業やサービス産業へと移行しました。日本は80年代までの永い物造り産業の成功にどっぷりと浸かり、この成功体験と社会通念が社会のあらゆる構造の常識になり、社会を牽引する産業構造が足下から変化し、その変化に対応すべき人材育成の必要性などに気づくのが遅れているのです。もっと正確に言えば今も気付いていないと言えます。

過去の成功体験に浸る企業は、新たな成長を阻む

田原:それは、日本に衰退をもたらしかねない、大きな問題ですね。今、日本でDXが遅れているのも、その頃からの遅れや、産業構造変化に伴うIT化の変化への対応の遅れが影響しているのかもしれません。また、それだけでなく、事業の発展において最も警戒すべきは、「過去の成功体験」ではないかと感じています。成功に甘んじて、「今、上手く行っているから、この方法でよい」と変化しようとしないため、世界潮流の変化に気づかず、浦島太郎になってしまっている可能性もあります。また、組織の管理職が「過去の成功体験」からの価値観で、物事の判断をしていると、部下からあげられる改革・改善の提案も通りません。

製造業と情報産業の人材育成体制は、大きく異なる

小松名誉会長:日本での製造業から情報産業への転換が遅かったことは、企業内の人材育成にも影響があります。

製造業における人材育成を考えてみてください。機械の操作や品質管理等、ほぼルーティンワークです。工場の機械が変化しなければ、1回教わり理解できた事は長く使えます。また、クリエイティブな工夫をすることも普段はあまり求められません。すなわち、人材育成は、短期間で完了し、一度覚えたことは永く使えたのです。一方、情報産業は、裾野が広く、業種が多く、しかも進化や変化が激しい。仕事の内容も、求められるスキルもどんどん変化し進化して行きます。この様な環境からいったん習得したスキルも寿命が短く、動き続け、時代に合わせ進化するためには、日々学習やスキルアップが必要です。企業側も変化する業務に合わせ、人材育成戦略も中長期で連続的に考えなくてはならないのです。


――次回に続く――

 
 

プロフィール

株式会社ベーシック
代表取締役 田原祐子 (ソーシャルナレッジ・コンサルタント)

株式会社ベーシック 代表取締役 社会情報大学院大学 教授。

外資系派遣会社の人材教育トレーナー、コンサルティング会社の新規事業室長を経て、1998年に会社設立。

電力会社の新規事業立ち上げを指導し、暗黙知を形式知化する。ナレッジ・マネジメントの独自手法で、実績とシェアを倍増させた。DX推進・組織開発・新規コンテンツ開発(環境省ワーケーション)・エグゼクティブコーチングを手掛ける。

「あなたは部下のやる気をなくさせていませんか?」(インデックスコミュニケーション)等、著書15冊。業界紙への執筆多数。


【主な役職】


兼松株式会社 社外取締役、サンヨーホームズ株式会社 社外取締役 監査等委員

日本ナレッジ・マネジメント学会 理事 新産業革命研究部会長

経済産業省先進的リフォームビジネスモデル選定委員(2014.15)

東京都NEW CONFERENCE TOKYO女性経営者 メンター(2019.2020)


HP:株式会社ベーシック

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