「今、日本の経営者に知らせたい、重要な経営課題」

第4回

「なぜ、日本の企業人材育成は、海外から遅れを取っているのか?」  NPO法人 日本イーラーニングコンソシアム 名誉会長 小松 秀圀氏 【前編】

株式会社ベーシック  田原祐子

 

今回のテーマを取り上げた理由

コロナ禍によって、私たちの働き方は大きな転換期を迎えています。これまでは遅々として進まなかったテレワークも、緊急事態宣言下では60%以上の企業が導入せざるを得ない状況となりました。リモートで仕事をするとなると、各自の仕事の内容と責任範囲が明確になっていなければならず、従来の働き方を大きく変えなくてはなりません。こうした影響から、従来のメンバーシップ制からジョブ制へと移行する企業も増えています。

また、企業内ではペーパレスも進んでおり、生産性向上のためのDX、CX、人事部門ではHRテック(人事関連のDX。人的資源管理Human ResourcesとTechnologyを掛け合わせた語)等も導入されはじめました。デジタル化、RPA、AIの導入によって業務自体がロボットに置き換わってしまうケースもあり、ビジネス全般が大きな変革を余儀なくされている状況か、企業は、ビジネスモデルを変え、ビジネス自体を再構築しなくてはならなくなっています。こうした状況下において、これまでとは、企業で働く人材に求められるスキルやコンピテンシー、また、企業内人材教育のあるべき姿も変わってきています。

そこで、今回は、永く企業内人材育成を手掛けられ、企業内人材教育、および、eラーニングの導入等に貢献され、20数年海外企業の人材育成ベンチマーク調査をなさって海外と日本の本質的な違いもよくご存じである、小松名誉会長をゲストにお招きしました。

小松名誉会長のご紹介

小松名誉会長は、(株)富士ゼロックス(日本・アメリカ)で永く企業内教育を手掛られた後、(株)NTTラーニングシステムズの起業に参画され、メディア(eラーニング等)を活用した社会人教育事業を立上げられました。同時に、現在名誉会長を務めておられるNPO法人日本イーラーニングコンソーシアムを30年前に発足され、日本において早くからビデオ教材など、メディア教材活用した社会人教育の先駆者でもいらっしゃいます。また、熊本大学大学院 教授システム学専攻科でも10年近く非常勤講師として教鞭をとっておられました。


小松秀圀名誉会長

小松 秀圀氏プロフィール

NPO法人日本イーラーニングコンソシアム名誉会長

モバイルラーニングコンソシアム 会長

元熊本大学 大学院 教授システム学専攻科 非常勤講師

元NTTラーニングシステムズ株式会社 常務取締役


田原: 小松名誉会長、早速ですが、日本の人材育成やデジタル化は、小松さんの眼からご覧になって、欧米と比較してどの程度遅れているのでしょうか?そして、なぜ、このように遅れてしまったのでしょうか?

製造業から情報産業への転換が遅かった日本

小松名誉会長:海外と比較すると、日本の社会人の人材育成は10年以上、社会人人材育成の理念、教授法の最適化においては、おそらく15年以上は遅れているのではないかと思います。そして、それは、日本の社会人人材育成のプロフェッショナルの不在、政府の社会人人材育成への関心の薄さ、およびもの造り産業が強すぎて、産業構造自体の変化による競争力の変遷に気づかないことに起因しているのでしょう。

1980年代には、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」(エズラ・F.ヴォーゲル氏の著作名)と言われ、世界中が日本の物造り産業の素晴らしさに注目していました。高品質で正確、緻密で几帳面な日本人が働く製造業が生み出す製品の数々は、高く評価されたのです。しかし、その後、1890年以降、日本でも産業構造は大きく変化し始め、日本でも社会を牽引する仕事は物造り産業も堅調でありながら、ワークスタイルは情報産業やサービス産業へと移行しました。日本は80年代までの永い物造り産業の成功にどっぷりと浸かり、この成功体験と社会通念が社会のあらゆる構造の常識になり、社会を牽引する産業構造が足下から変化し、その変化に対応すべき人材育成の必要性などに気づくのが遅れているのです。もっと正確に言えば今も気付いていないと言えます。

過去の成功体験に浸る企業は、新たな成長を阻む

田原:それは、日本に衰退をもたらしかねない、大きな問題ですね。今、日本でDXが遅れているのも、その頃からの遅れや、産業構造変化に伴うIT化の変化への対応の遅れが影響しているのかもしれません。また、それだけでなく、事業の発展において最も警戒すべきは、「過去の成功体験」ではないかと感じています。成功に甘んじて、「今、上手く行っているから、この方法でよい」と変化しようとしないため、世界潮流の変化に気づかず、浦島太郎になってしまっている可能性もあります。また、組織の管理職が「過去の成功体験」からの価値観で、物事の判断をしていると、部下からあげられる改革・改善の提案も通りません。

製造業と情報産業の人材育成体制は、大きく異なる

小松名誉会長:日本での製造業から情報産業への転換が遅かったことは、企業内の人材育成にも影響があります。

製造業における人材育成を考えてみてください。機械の操作や品質管理等、ほぼルーティンワークです。工場の機械が変化しなければ、1回教わり理解できた事は長く使えます。また、クリエイティブな工夫をすることも普段はあまり求められません。すなわち、人材育成は、短期間で完了し、一度覚えたことは永く使えたのです。一方、情報産業は、裾野が広く、業種が多く、しかも進化や変化が激しい。仕事の内容も、求められるスキルもどんどん変化し進化して行きます。この様な環境からいったん習得したスキルも寿命が短く、動き続け、時代に合わせ進化するためには、日々学習やスキルアップが必要です。企業側も変化する業務に合わせ、人材育成戦略も中長期で連続的に考えなくてはならないのです。


――次回に続く――

 

プロフィール

株式会社ベーシック
代表取締役 田原 祐子 (たはら ゆうこ)


社会構想大学院大学「実践知のプロフェッショナル」を養成する実務教育研究科教授、 日本ナレッジ・マネジメント学会理事


仕事ができる人材は、なぜ、仕事ができるかという“暗黙知=ナレッジ”を20年前から研究し、これらをモデリング・標準化・形式知化(マニュアル、ノウハウリスト、システム等の社内人材を育成する仕組み)を構築。企業内に分散する暗黙知やノウハウを組織開発・人材育成に活用する、【実践知教育型製ナレッジ・マネジメント】を提唱し、社内インストラクターの育成にも寄与。約1500社、13万人を育成指導。


トップマネジメントや、次世代を担うエグゼクティブの、コンピテンシー分析・意思決定暗黙知の形式知化や、企業内の知財の可視化(人的資本・知的資本・無形資産含む)にも貢献し、上場企業2社の社外取締役も拝命している。


環境省委託事業、経産省新ビジネスモデル選定委員、特許庁では特許開発のワークショップ実施。2021年より、厚生労働省「民間教育訓練機関における職業訓練サービスの質向上取組支援事業」に係る運営協議会および認証委員会委員。


暗黙知を形式知化するフレーム&ワークモジュールRという独自メソドロジーは、全国能率大会(経産省後援)で、3年連続表彰され、導入企業は、東証一部上場企業~中小企業、学校・幼稚園、病院・介護施設、研究開発機関、伝統工芸、弁護士、知財事務所等。DX・RPA・AIとも合致。営業部門は、Sales Force Automation、Marketing Automation、一般部門では、Teams・SNSツール・Excel等も活用可能。


著書15冊、連載・ビジネス誌執筆等、多数。



Webサイト:株式会社ベーシック

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