IoTキュレーション

第10回

停車の難しさ

ピーエムグローバル株式会社 2019年12月31日
 


 運転していた車が自分で止まるように──。国土交通省は17日、高齢者による交通事故対策の一環として、2021年11月以降に発売される国産の新型モデルについては自動ブレーキの搭載を義務付けると発表した。販売中の既存モデルの場合は25年ごろからとなる一方、輸入車に関しては新車が24年ごろから、既存車種は26年から適応されることになるという。

 ブレーキペダルの踏み間違いによる交通事故は、政府が動くほど社会問題化している。人口の高齢化が進む日本では早急な対策が必要で、義務化によって一定の効果も期待できるだろう。

効果は限定的

 

 懐疑的な見方もある。自動車ジャーナリストの井元康一郎氏は記事「『自動ブレーキ義務化』だけでは済まない高齢ドライバー対策の現実」(ダイヤモンド・オンライン12月18日付)の中で、義務化の効果は限定的だと予言する。運転補助装置である自動ブレーキそのものは、年齢を問わずドライバーにとってメリットになるとし、義務化による性能の保証や開発競争が期待できるとする一方で高齢者の交通事故に対する「根本的な解決策にはならない」と警鐘を鳴らす。社会的な有用性はあるものの、恩恵を受けるのは新車を買える層に限られる上、逆走といった人為的なミスには無力であることも触れる。

 井元氏は解決策の一つに「完全自動運転」を挙げつつも、技術の進歩には時間がかかるため、一朝一夕には解決しないとの立場を示す。

進む物体認識技術開発

 

 報道などで技術革新が日進月歩で進んでいるというイメージもある自動運転技術だが、実用に向けた課題は多い。米ニューヨークタイムズ紙のジョン・R・クアン記者による記事‘These High-Tech Sensors May Be the Key to Autonomous Cars’(電子版9月26日付)によると、自動運転車に搭載されてきた物体認識技術は安全性を担保できないとの見方がある中、障害物の認識については、さらなる技術開発が進められているという。同紙は自動運転の標準モデルに採用されてきた4種類のセンサー(ビデオカメラ、レーダー、超音波センサー、光センサー)には、視認性の問題などでそれぞれ弱点があると指摘。その上でさらに厳しい気象条件下でも物体を感知できる「遠赤外線カメラ(熱カメラ)」をはじめ、認識エリアが広く、高速走行でも反応する「高波長モデル」を自動運転車に導入する動きがあることを紹介している。

「常識」が作用?

 

 ブレーキを踏んで車を止めるのは、簡単ではない──。ポートランド州立大学のメラニー・ミッチェル教授(情報工学)は言論サイト「AEON」に記事‘How do you teach a car that a snowman won’t walk across the road?’(雪だるまが道路を渡らないことを車にどう教えるか)を寄稿。何気なく行っているようにみえる「ブレーキを踏んで停車する」という動作がどのような認識の上で行われているかを論じる。

 ミッチェル氏は、鳥が車をよけられることや、ボールが落ちているだけに見えても、子どもが後から道路に飛び出してくる可能性があること、ガラスの破片を踏むとパンクする恐れがある、といったわれわれの「常識(暗黙知)」があることに言及し、こうした常識を人工知能(AI)に学ばせる重要性を強調する。ヒトが無視するような「障害物」に対して自動運転車にいかに急ブレーキを踏ませないようにするか、といった学習が必要になることを説明する。

 同氏は人間の常識をAIに学習させることは、典型的な状況のパターン化といった、知識の「目録化」が中心だったとした上で、そうした知識の大半は明文化も口伝もされないばかりか、当たり前すぎて知覚すらしない直感的なものであることを指摘。機械にそうした概念を学習させる難しさを説く。

 ミッチェル氏は機械の知能を評価する一方、学習する要件定義が狭いため信頼性に乏しいと断じる。その上で乳児が世界を認識していく過程を例に、AIにもそうした習得プロセスが可能になるような設計を施すべきだと主張している。

止まる技術と止まるための技術

 

 交通事故対策としての自動ブレーキ搭載義務化は、劇的な効果は期待できないかもしれないが、停車技術そのものの進歩は見込める。自動運転につながる技術革新が起こる可能性もある。一方で、公道で自動運転技術を導入する難しさは、進路を妨害する障害物や突発的な侵入者を回避できるだけなく、いかに「人間のように」走行できるか、も求められる点にある。人間が「止まる必要なし」と無視するような物体にいちいち停車していては、後続車も危険にさらすことになる。

 「止めるための技術」については、物体認識の精度を上げる一方で、停車にいたる判断を人間並みに磨く努力も必要になってくるはず。「止まる技術」である自動ブレーキは、AIによる停車判断が洗練されるまでの橋渡し的な役割を果たすのではないか。自動運転車の実現は、止まる技術と止まるための技術という二正面での開発の進捗が鍵になるだろう。

 
 

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