「徳川家康やマックス・ウエーバーのおかげで安定的な世の中や組織ができたのだから、それで良いではないですか?それの、何がいけないのですか?」
「こういうやりとり、初めてではないような気がするな。」
「私も思い出しました。私が三上部長の部下だった時、居酒屋でやった議論です。」
「そうだな。」
「こっちは愚痴を聞いてもらおうと思って部長をお誘いしたのに、お説教されるのは、まあ、仕方ないかもしれませんが、こういう難しい話をされたのでは、せっかくのお酒が覚めてしまいますよ。というか、冷めてしまいました。」
「では、もう止めるか?」
「いえ、今日は続けてください。」
「そうか。では、先の話題に戻るとして。俺は徳川家康やマックス・ウエーバーがいけないとは言っていない。戦乱の世の中から平穏な社会に変えるためには、もしくは統率の取れた強い軍隊や治安を守れる行政府を作るためには、身分制や権限の考え方が必要だったし、それが適していた。命令する者と従う者を明確に決め、その構図が崩れないようにする。従う者の言動が命令する者にとって不都合にならないよう、その範囲も決めておく。それ以外のことをしたら、それは規定違反として、無効ということだ。目に余るようなら罰することにする。それが社会のルールとして定着すれば安定した社会ができるということだ。」
「なるほど。」
「しかし今、企業が求めているのは創意工夫や、多くの人々が協力して大きな成果を生み出すことだろう?」
「そうです。その時には、身分制や権限の考え方ではダメなのですか?」
「ダメも何も、身分制や権限の考え方では創意工夫や協力は生まれようがないと、俺は思う。」
「どうしてですか?」
「身分制や権限の考え方は、従う者よりも命令する者の方がよく知っている、正しい判断ができるということが前提だからだ。」
「なるほど、そうでなければ、命令に従う根拠がありませんからね。」
「でも、仕方ないではないですか。他の組織も、多かれ少なかれ、そうだと思いますよ。今はそれしかないのですから。」
「我が社では新人に、どういう教育をしている?我が社の行動規範第1条だ。」
「『プロフェッショナルたれ!』ですね。」
「そうだ。それって、どういう意味だ?」
「『自分の仕事については誰よりも精通する人材になれ』という意味です。上司よりも知識があり、能力のある人材になれと。」
「そうだな。では聞くが、そういうプロフェッショナルな部下に対して、上司は、どうして命令できるんだ?」
「いや。それは。」
「上司が命令できるのは、従うべき者よりも多くを知っている、正しく知っているという前提だったよな。でも、それなら部下に『プロフェッショナルたれ!』というのは矛盾していないか?上司の言うことなんか聞かなくて良い。君が一番なんだから、と。」
「そう仰られても。」
「いやいや、中川君を攻撃するつもりはないよ。ここで言いたかったのは、我が社が行動規範で『プロフェッショナルたれ』というのなら『上司が部下に命令できるのは部下よりも多くを知っている、正しく知っている』という前提を壊さなければならないということだ。」
「イヤですよ。そういう過激なことを職場で仰っては。最近、自分の上司は大して有能ではないといって愚痴を言う者が増えているんです。そういう意見に、火に油を注ぐようなご発言は困ります。職場が混乱してしまうではないですか。」
「いやいや、俺だって、職場が混乱しても良いと言っているわけでは、ない。ただ『上司が命令できるのは、従うべき者よりも多くを知っている、正しく知っている』という考え方をベースしたマネジメントをしない方が良いのではないか、ということだ。」
「そんなこと、可能なんですか?」
「可能だと思う。少なくとも、ドラッカーはそう言っているようだ。」
「ドラッカーは何と言っているのですか?どうすれば、部下よりも多くを知っている、正しく知っているという訳ではない上司が、部下に命令できるようになるのでしょうか?」
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カテゴリ:
- マネジメント
プロフィール
StrateCutions
代表 落藤 伸夫
「世界の先進国では日本だけが一人負け」という話を聞くことがあります。世界が日本を羨んだ “Japan as No.1” からまだ40年ほどしか経っていないのに、当時、途上国といわれていた幾つかの国々の後塵を拝している現状です。
それを打開する方法の一つに、マネジメントを高度化していくことがあると思われます。日本のホワイトカラーの生産性は先進国では最低だといわれていますが、逆に言えば、マネジメントを改善すれば成果を飛躍的に伸ばすことができる可能性があります。
筆者は Bond-BBT MBA でMCS(マネジメント・コントロール・システム)論を学んで以来、マネジメントでもって企業の業績をあげる方法について研究してきました。マネジメントを合理的に考え直し、システムとして組み直すのです。StrateCutionsで行うマネジメント支援の理論的背景や方法論を、お知り頂ければと考えています。
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