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マネジメントを再考してみる 前編<現場マネジメント>

第2回

徳川家康とマックス・ウエーバーの亡霊に操られている?

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
翌週、中川課長は組織戦略室の応接に三上部長を招いた。昔話に花を咲かせた後、自然と話しはマネジメント改革に向かう。


「三上部長は、あの頃、マネジメントに関する考え方を変えなければならないと言っておられましたね。今でも、そうお考えですか?」

「もちろん、そう思っている。」

「徳川家康とマックス・ウエーバーの亡霊に操られている、そう仰っていた言葉を思い出しました。そんなに彼らは、悪い人たちなのですか?」

「いやいや、彼らは偉大な人たちだよ。間違っているのは、我々の方だ。」

「というと?」

「彼らは、服従や統率のために組織を作った。創意工夫を促したり、協力してものごとを成し遂げるためじゃ、ない。なのに私たちは、創意工夫や協力を目指して徳川家康やマックス・ウエーバーが作った仕組みを利用しようとしている。それじゃあ、うまく機能するはずがない。」

「まったく、分かりません。」



「徳川家康は、何を作った人だ?」

「江戸幕府です。」

「子供じゃないんだから、文脈を読めよ。今、マネジメントのことを話しているんだろ。」

「士農工商ですか?」

「そうだ。人間を階層化して、ある階層の人間は上位の階層の言うことを聞かなければならないとした。そういうマネジメント法を作ったと言える。」

「そうですね。同じ武士階級の中でも、細かい階層を設けて、上下関係で指揮命令がなされるようにしました。」

「そうだ。そういう環境で、人が創意工夫を発揮すると思うか?」

「皆無ではないでしょうけれど、あまり発揮しないと思います。」

「俺も、そう思う。」

「こうやってみると、徳川家康というのは悪い奴ですね。」

「それは今だからこその感想だ。その当時では、それが一番大切なことだったんだ。それまでは戦国時代で下克上の時代だった。市民が平穏な暮らしをすることなんか、全くもって、不可能だった時代だ。それが身分制度のおかげで安定化したんだよ。」

「というと?」

「徳川家康をトップとする厳格なヒエラルキーを形成して、それを崩すことはまかりならんと命令し、実際に破るものがいたら厳罰に処す。そうすれば、それを破ろうとするものはいなくなるじゃ、ないか。」

「そうですね。」

「そうやって徳川幕府300年の安定の時代が実現した。その代わり、創意工夫はなくなった。協力して大きな物事をやり遂げようという意識も、かなり薄れてきただろう。創意工夫や協力は、平和の代償だったのかもしれないな。」



「ところでもう一人、マックス・ウエーバーは、なぜ、そんなに悪い奴なんですか?」

「いやいや、悪い奴ではないよ。マックス・ウエーバーは、徳川家康が作った身分制度ではない仕組みで、組織の基本原則を正当化した人だ。」

「というと?」

「マネジャーは部下に、自分の命令に従わせることできる。それはなぜ?」

「なぜって言われても・・・」

「権限があるから、と言うよな。」

「そうそう。それです。」

「組織のトップが全権を握り、そのうち限られた権能を部下に与えて行使させる。それが権限の考え方だ。」

「そうですね。」

「そういう考え方のもと、組織が形成されると主張したのがマックス・ウエーバーだ。」

「そうなんですか。」



「ところで、マックス・ウエーバーの考え方と徳川家康の考え方には、似ているところがあると思わないか。」

「ちょっと無茶な感じがします。だって、組織には身分制度はないですよ。」

「まさにそうだ。他人に自分の命令を聞かせるために、徳川家康は身分制度を利用した。しかし身分制度は近代社会には通用しない。」

「そうですね。それで良いじゃ、ありませんか。」

「それだと、誰もが自分の考えを押し通そうとするじゃないか。組織として統一的に機能することなど、できなくなるぞ。」

「そうですね。それは困ったことです。」

「それをマックス・ウエーバーは、身分制度ではなく権限という考え方でもって可能にしたんだ。トップが全権を持ち、部下が移譲された権限を行使する。上司は、部下の決定を変えることができるが、部下は、上司の決定を変えることはできない。そうやって、安定的な組織を実現したんだ。」

「めでたしめでたしですね。だからこそ今でも、マックス・ウエーバーの考え方で組織が形作られているのでしょうね。」

「確かにそう言える。でも、忘れてはいけないことがあると思う。それで実現した安定性は、やはり、創意工夫や協力が生まれる下地を犠牲にしてのことなんだ。」

「確かにそう言えるかもしれませんが、でも仕方ないじゃないですか。それが今の組織というものなのですから。」

「俺は、そうは思わないな。」

 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

「世界の先進国では日本だけが一人負け」という話を聞くことがあります。世界が日本を羨んだ “Japan as No.1” からまだ40年ほどしか経っていないのに、当時、途上国といわれていた幾つかの国々の後塵を拝している現状です。

それを打開する方法の一つに、マネジメントを高度化していくことがあると思われます。日本のホワイトカラーの生産性は先進国では最低だといわれていますが、逆に言えば、マネジメントを改善すれば成果を飛躍的に伸ばすことができる可能性があります。

筆者は Bond-BBT MBA でMCS(マネジメント・コントロール・システム)論を学んで以来、マネジメントでもって企業の業績をあげる方法について研究してきました。マネジメントを合理的に考え直し、システムとして組み直すのです。StrateCutionsで行うマネジメント支援の理論的背景や方法論を、お知り頂ければと考えています。


Webサイト:StrateCutions

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