ベンチャーのための資金調達(IPO編)

第3回

IPO「主幹事証券」

 

2回目ではIPOに関わるプレーヤーについて触れました。その中で、公開準備から公開後も密な関わりをもつのが主幹事証券です。

歴史的にみて、元々、主幹事証券業務は大手証券の独占業務でした。2000年辺りから、「ベンチャー企業にも資本市場から資金調達の道を」との掛け声のもと、新興市場も立ちあがり、これをビジネス機会と捉え主幹事証券会社の裾野も広がりました。その結果、一時、20社以上もの証券会社が主幹事業務に参入しました。それが、現在では、また、大手証券中心となっています。

冒頭記載しましたとおり、主幹事証券は、公開準備のみならず、公開後においてもIRであったり、アナリストによるフォローであったり、また、新たな資金調達の提案であったり等、密な関わりをもちます。まず、公開準備における役割の具体的な内容は以下のとおりです。

1.株式公開候補企業を発掘 X(株式公開年度)-3年程度以前
(以下、スケジュールは目安) 
・情報網を駆使し株式公開候補企業を発掘していきます。
・有望な企業に対して、リサーチ部門が将来性等について分析評価を行います。
・株式公開に関する情報提供、株式公開に向けた青写真(大まかな資本政策等)を提供し、 経営者に公開意思の決定を促進します。
・主幹事依頼書と、主幹事請書を交わし、正式に公開準備作業のスタートを切ります。
・資本政策案を具体的に実行に移していきます(増資、株移動等)。その際、手続きの
 助言、引受先の斡旋等を行います。
・関係会社等の整備・特別利害関係者との取引の整備を開始していきます。どう整備を
 行うのか助言を行います。

2.公開準備作業開始 X-3年~X-2年
・引受部門が中心となり、まず、公開に向けて要件を充足していない事項の
 洗い出しを行います。
・要件を充足していない事項について、具体的にいつまで、どのような対処をするか
 提案します。
・月に数回のペースでミーティングを行い、課題の改善・改善状況の確認を
 行っていきます。
・主幹事証券会社・取引所の審査のための書類作りを開始していきます。
 書類作成の助言を行います。
・整備が必要な事項の大部分はX-2年のうちに終えておきます。

3.各種制度の運用の確認 X-1年
・X-2年までに整備した社内規程等のルールに従って運用に関する助言を行います。
・トライアンドエラーを繰り返し、より適切な制度作りを行います。
・ルール等の運用状況、改善状況の確認と改善策の提案を行っていきます。

4.主幹事証券会社による審査の開始 X-1年後半以降
・引受審査部が上場会社として相応しいか、調達資金の妥当性等について
 審査を開始します。
・詳細な事項に関してまで、大量の質問を問いかけます。
・公開準備会社においては、質問の回答を作成することに相当の労力を費やします。
・書面でのやり取りの後、確認のヒアリングを数日かけて行います。
・上記やりとりを、数回繰り返します。
・審査と同時並行で、取引所への申請書類の作成を行います。
 その際、申請書類作成の助言を行います。
・主幹事証券社内で取引所への推薦について最終の意思決定を行います。

6.上場前の公募・売出に関して 申請期
・上場前の公募・売出に際して、公開価格を決めるために、機関投資家回り
 (ロードショー)をコーディネートし、リテールが一般投資家に対して
 需要調査を行います。
・リテール、ホール共に積極的に販売に努めます。特に主幹事証券会社は高い
 シェアの販売を行います。
・公募・売出株の全株を引受け、証券会社より資金をお支払します。

7.上場日
・随時、初値の動向等について情報提供をします。
・取引所でのセレモニーの後、主幹事証券会社主催で祝賀会の運びとなります。

公開準備に関しては、多岐にわたり、また、相当な時間をかけて行うことがお解かりいただくために、文面を多く割きましたが、もうひとつ、主幹事証券としての役割として、公開後の対応があります。

ここで、今回の「べき論」ですが、実は、主幹事証券業務は、公開準備と併せて公開後の対応についても大切にすべきということです。前述のとおり、公開ブームの際には、20社以上が主幹事業務に参入しました。新規参入組みは、より多くの実績作りに走りました。このこと自体は、一時的であれ、IPOマーケットが活発化したのも事実であり、多くのベンチャー企業が株式公開を果たし一定の目的は達したと思います。しかしながら、その後、ベンチャー企業等に不祥事等もあり、IPO市場がシュリンクし、また、主幹事証券会社は、元のとおり、大手証券中心の体制に戻ってしまいました。この背後には、主幹事証券会社が公開準備にはもちろん力をいれましたが、公開後の対応について、多くの新規参入組みは真剣に取り組んでいなかったことがひとつの要因に挙げられるかと思います。企業の成長を、資本市場を通じ支援するという、資本市場、そこでのプレイヤーである証券会社に求められている本来の役割を、当時は忘れてしまった結果、企業側にも、株式公開が最終目的であるかのうような意識が生まれてきたのかと思います。

株式公開を目指される企業で、主幹事証券を選定する際には、株式公開準備についてだけでなく、公開後についてもどのような対応をしてくれるのかということも重要なポイントであるということです。

 
 

プロフィール

藍澤證券株式会社
引受部 部長 右島 学

大学卒業後、平成7年4月に証券会社に入社。
リテール営業ののち、大阪引受部、引受審査部に配属。
主に店頭登録案件の主幹事審査に携わる。平成15年9月に他の証券会社に入社し、主に新興市場案件の主幹事審査に携わる。
平成17年5月に日本アジア証券㈱に入社。
現在に至る。

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