ベンチャーのための資金調達(IPO編)

第1回

IPO「歴史は繰り返してはいけない。」

 

本コラムでは、IPOについて、そもそもの話し(機能等)と、IPO全体のこれまでの経緯、実際に現場で起こってきた事等を紹介することで、IPOを目指されている企業や、IPOを漠然と考えていらっしゃる経営者に、少しでも、IPOが身近に感じてもらうことを目的に執筆させていただきます。

また、本タイル「IPO「歴史は繰り返してはいけない。」」は、IPOマーケットの歴史はまだそれほど長くはなく、これまで、紆余曲折しながら今日に至っているわけですが、そこでの出来事を踏まえ、こうあるべきではという、「べき論」を書かせていただこうと思いタイトルにしました。

そもそもIPOとは、「イニシャル パブリック オファリング」の略で、日本語では「株式公開」と言います。通常、経営者は事業を行うに際し、身近なところから事業資金を集め企業を立ち上げます。その後も、必要に応じ、事業資金を調達するわけですが、その際の資金調達手段のひとつとして、新たな株式を不特定多数の投資家に対して発行し資金を調達すること、併せて、不特定多数の投資家が売買できるように金融商品取引所(東京証券取引所等)に上場する行為を一言でIPOと呼んでいます。

IPOのメリットは、これまで、近親者や銀行からの借入に頼ってきた資金調達手段に加え、資本市場というマーケットから多様な手段、適切なタイミングで資金調達を行えること、これは、大量かつ長期の資金を得ることで財務体質の強化にも繋がります。また、金融商品取引所への上場という高いハードル(形式的な基準、実質的な基準)をクリアしたことによる対外的な信用力の増大、マーケットで日々株式が売買されることから、一般の人々の関心も高まることから知名度の向上が見込めます。知名度の向上は、優秀な人材の獲得にも繋がっていくことが挙げられます。その他にも創業者が株式を市場で売り出すことにより創業者利潤が得られます。
信用力の増大という面では、金融機関から有利な条件で借入ができるほか、働いている従業員にとっても、会社が上場会社か未上場かで信用力の差があるかと思います。IPOした企業からは、上場準備の過程において、上場に相応しい組織だった体制に社内整備を行ったことが、会社を一段と大きくするために役に立ったということや、以外にも、ベンチャー企業からは、応募者数が増加した等、優秀な人材獲得に繋がったという感想を多く聞きます。

一方で、メリットがあれば当然デメリットもあるわけで、デメリットを最初からある程度把握(覚悟)していないと、上場準備の段階でつまずく原因となってしまいます。まず、株式を不特定多数の投資家が売買するこことから、会社の成長を評価する目的のみならず、経営権の乗っ取り目的や、悪質な株主が株主権を乱用する可能性がないとは限りません。次に、上場のためには、プロジェクトチームを立ち上げ、膨大な量の資料の作成を行わなければならず、上場後は、株主総会関係事務、株式事務、有価証券報告書等の開示書類の作成など、未上場の時には発生しなかった事務負担が発生します。また、これらの事務を滞りなく行うためには、新たに人材を投入しなければならない場合もあり、コストの増大も見込まれます。最後に、これまで、プライベートな企業として比較的自由度の高い経営が許されていましたが、上場準備の過程において、上場会社に相応しい組織だった体制に社内整備を行うことや、上場後には投資家が経営に目をひからしていることから、経営の自由度を阻害する可能性があります。

これらのデメリットについては、不可避なものばかりではありません。外部株主の経営参画によるデメリットについては、上場準備の段階で、上場後の安定的な株主を考慮した資本政策(株主構成等の調整)を行うこと、上場後は、IR(インベスターズ・リレーションズ)活動を積極的に行い、経営を支援してくれ投資家づくりを行うこと、そもそも、正しい経営、法令順守を行い毅然とした態度で臨むことで対応できるものです。また、経営の自由度が阻害されることは、経営者にとってデメリットにも思えますが、企業が成長していくために、経営者一人では全権掌握できなくなるステージに向けての体制作りと考えれば、必要不可欠なことを行っているにすぎません。このことは、前述のとおり、逆に上場後のメリットとしてあげる経営者も多く見受けられます。

ここまで、イントロとして、そもそもIPOとは、メリット、デメリットを挙げさせていただきましたが、今回の「べき論」は、そもそも経営の最終目標としてIPOを目指すべきではなく、あくまでも成長戦略の一環としてIPOを目指すべきであるとういことです。
1999年に新興企業向けの市場が本格的に立ち上がり、ベンチャー支援の機運も高まり、2000年には新興企業向市場に161社もの企業が上場しました。また、株式市場全体が好転しはじめた2003年ごろからは、IPO果たし初めての市場での値段が、上場する前に行った増資での株価を軒並み上回る状況が続いたため、投資家もこぞってIPOマーケットに参加してきました。いわゆるIPOバブルです。上場を果たした若い経営者が資産家となり一気に脚光を浴びることとなりました。こうした状況は当然長く続くものではありません。新興企業向け市場に上場した企業には当初の成長期待を裏切る企業も沢山ではじめ、不祥事も多々発生する状況にまでなり市場は冷え込んでしまいました。そして、現在に至っても、その尾を引っ張っている状況にあります。

その要因のひとつとして考えられるのが、今回の「べき論」があります。上場をすれば、創業者利潤を得られ、潤沢な資金調達もでき、企業、経営者ともに脚光を浴びることから、上場そのものを経営の最終目的のように捕らえる機運が高まりました。その結果、上場は成功したが、上場後は成長をえがけず、企業にとっても、投資家にとっても不幸な運命となってしまいました。その反省の上に、現在、慎重な取扱が行われている状況にあります。

上場を漠然と考えている経営者の方々には、IPOを積極的に活用して欲しいものです。なぜなら、日本経済を立て直すにも、将来を担う夢のある企業に資金を提供する機能がIPOだからです。IPOを果たし、上場後もどんどんと成長し、日本経済に活力を取り戻して欲しいです。

 
 

プロフィール

日本アジア証券株式会社
キャピタルマーケッツ部長 右島 学

大学卒業後、平成7年4月に証券会社に入社。
リテール営業ののち、大阪引受部、引受審査部に配属。
主に店頭登録案件の主幹事審査に携わる。平成15年9月に他の証券会社に入社し、主に新興市場案件の主幹事審査に携わる。
平成17年5月に日本アジア証券㈱に入社。
現在に至る。

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