ベンチャーのための資金調達(IPO編)

第5回

IPO「審査1」

 

株式を公開するためには、証券会社の審査と、取引所の審査をパスしなければなりません。
今回、次回と株式公開のための審査について書きます。

 企業が株式を公開するために取引所に上場申請を行う際には、主幹事証券会社の推薦が必要になります。また、取引所の形式要件を満たすために公開前の公募・売出しを行いますが、証券会社はその企業の株式を引受けて投資家に販売する必要があります。上場申請の推薦のために、また、株式の引受け責任(投資者保護)の目的で証券会社は審査を行います。

 取引所の審査には、形式基準といわゆる実質基準があります。形式基準とは、株式公開するために最低限充足すべき基準であり、利益の額、発行済株式数、株主数等、各取引所が市場ごとに基準を定めています。
 実質基準とは、どの取引所でも概ね同じ内容となっており、①企業の継続性および収益性、②企業経営の健全性、③企業内容等の開示の適正性、④その他公益または投資者保護の観点から取引所が必要と認める事項について、公開会社として適格であるかを実質的に審査する基準です。

 このように、日本の場合、証券会社の審査と、取引所の審査と重複して審査を行う制度になっております。それぞれ、取引所に推薦するからには、取引所審査をパスすべく証券会社は指導、審査を行い、取引所は公開適格性について証券会社が指導、審査したことを前提に申請を受理します。
 証券会社の審査は、独立した審査部門が通常行います。公開会社として概ね相応しい体制が整ったと判断した引受部門が審査部門に審査を依頼します。審査依頼の際には、主に以下の資料を審査部門に提出します。

 会社案内、登記事項全部証明書、定款、事業内容説明資料、上場申請のための有価証券報告書、社内規程、業務フロー、事業報告、計算書類、法人税申告書、株主総会議事録、取締役会議事録、監査役会議事録、監査調書、内部監査資料、ショートレビュー、長文式監査報告書、中期事業計画、月次予算実績対比表、役員の状況、組織図、株主の状況、特別利害関係者・関連当事者リスト、販売先・仕入先・外注先一覧、受注実績の推移、生産実績の推移、事業活動に対する法的規制、重要な契約、特許等工業所有権の内容、紛争係争、法令違反等の状況等。これらの資料で年度ごとにあるものは、3期間から5期間分を提出します。段ボール箱3箱分ぐらいの分量になります。これら、審査資料を精査して審査を行うため、細心の注意を払い整備したものを審査部門に提出します。

 審査はよく性悪説にたって行われていると言われています。企業経営においても、性善説か性悪説のどちらを取り入れているのか、または、アメと鞭を上手く使うかなどと言われています。企業は人なりと言われ、確かに、大企業の経営に至っても、優秀な人材に拠るところが多い場面があります。ましては、ベンチャー企業は少数精鋭のところが多く、ほとんどの場合、経営は人に拠るところが多いと思います。しかしながら、公開を目指す以上は、人に拠らず、組織での対応が必要というのが、審査の基本となっています。例えば、経理と財務は部門も分け、担当者は違う人で、内部牽制が働かないとダメという例があります。帳簿を記帳する人と実際に現金を扱う人が同じであれば不正が起こる可能性があるため、未然に不祥事を防ぐ組織的な仕組みが必要な例です。この例は極めてわかりやすい例なので、公開を目指す企業にとっても既に構築している場合も多いかと思います。中には、少数精鋭や、会社規模の観点から、そのような組織を構築することに難色を示し(コスト増が要因であることが多い)、その担当者が信頼における人であるから問題はないとの考えに立つ経営者もいらっしゃいます。審査に入る前には、この例は、当然、解消してから入りますから、審査の段階で問題になることはないですが、他にも色々な場面で人に拠った経営に対して、審査では、このような場合、不正が起こりえないかどうかをチェックしていきます。万が一でも何かあった場合は、ほとんど机上の世界だけのチェックも中にはあります。公開するための、審査が難しい理由のひとつに、このようなストレスチェックにも耐えなければならないこともあるかと思います。

 第2回のコラムに書きましたが、証券会社は、公開を協力・支援し推進して行く一方で、公開適格性についての審査する機能があります。したがって、証券会社には、公開支援においてアクセルとブレーキの両方の側面があります。よく、証券会社の公開部門(審査も含む)は誰がお客さまかという議論があります。企業が株式公開をする際、証券会社は株式公開に伴うフィーが入ってきます。一方、株式公開に際しては投資家にその企業の株式を販売する必要があります。公開後に、万が一、その企業が不祥事を起こした場合は、その企業の株式を引受けた証券会社は世間から批判を浴びます。これらをもって、一概にどちらがお客さまかとは言えず、株式公開をする企業、それから投資者の両方がお客さまであると考えに基づき、公開準備指導、審査を行っていかなければならないと思います。

 ここで、今回の「べき論」ですが、公開準備指導、審査においては、証券会社は、企業は生き物であることを前提に行うべきであり、また、公開を目指す企業は、公開準備指導、審査においては、公開後、企業規模を拡大するために必要な事項を指摘され、改善する必要があるとの発想をもつべきではないかと思います。

 我々、証券会社サイドとしては、資本市場を活用し、より一層、企業の発展を願っているわけですから、そのためには、企業は生き物であり、ひとつとして同じ会社はないとの前提に立ち、これからも、活用しやすい(決して安易とういことではない)IPO市場を築く必要があります。また、公開を目指す企業経営者の方には、証券会社の公開準備指導、審査が、何も困らせようと、難題を課している訳ではなく、将来において、指摘された事項等が、必ず役に立つとの発想で、証券会社と上手く付き合う(会社の特色など主張すべき点は主張し、しかしながら、公開を前提に考えた場合、一計を案じることが必要な場合もある)ことが大切かと思います。
 このような前提に立てば、株式公開は、証券会社、公開を目指す企業、両方にとってWin-Winの関係になると思います。

 
 

プロフィール

日本アジア証券株式会社
キャピタルマーケッツ部長 右島 学

大学卒業後、平成7年4月に証券会社に入社。
リテール営業ののち、大阪引受部、引受審査部に配属。
主に店頭登録案件の主幹事審査に携わる。平成15年9月に他の証券会社に入社し、主に新興市場案件の主幹事審査に携わる。
平成17年5月に日本アジア証券㈱に入社。
現在に至る。

同じカテゴリのコラム

キーワードからコラムを検索する