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NY発:文化と言葉の壁を越えて” 伝わる”ロジカルスピーチ術

第13回

あなたは丸暗記派?フリートーク派?

  リップシャッツ信元夏代

 

よく受講生からも聞かれるのが、「スピーチをするとき、原稿を丸覚えすべきだろうか?」、という悩みです。


皆さんはスピーチのとき、どう準備していますか?


だいたいの場合、大きく次の三つのパターンに分けられます。

1つ目は、一字一句原稿を暗記してしまう方法。

2つ目は、プレゼン資料は予め作成するが、あとはフリートークで行く、という方法。

3つ目は、原稿をそのまま読む、という方法。


皆さんはどのパターンでしょうか?


実はいづれの方法も、理想的な方法ではありません。(3つ目はもってのほかです!!!)


では、おススメの準備方法をお話しましょう。

それは、オープニング&クロージング、そして全体の流れとメインポイントのみを頭に叩き込んで暗記し、あとは適宜フレキシブル進めていく。。。と言う、1つ目と2つ目を掛け合わせた、「ハイブリッド方式」です。


ただし!


仕事でのワークショップやセミナー時はこの「ハイブリッド方式」を行っていますが、私はスピーチコンテストにも毎年出場しています。スピーチコンテストでは、1秒でもタイムオーバーすると失格になってしまいますので、まるで芝居かのように全てを綿密に準備しなければなりません。ですから、スピーチコンテストのとき、そしてTED登壇した際にも行ったのは、1つ目(丸暗記)の方法、でした。


それぞれの方法に、良し悪しがあります。


1つ目の方法だと、段取りが全て分かっているので安心ではありますが、どうしても、「覚えてきました」感満載になってしまい、聞き手にもそれは伝わってしまいます。また、万が一、次のせりふを忘れて頭が空白になってしまったら、焦ってしまい、あわてている様子が観客にも見えてしまうことでしょう。


一方で、2つ目の方法だと、内容をしっかり熟知していれば問題なく、自然な口調でスピーチできるのですが、完全フリートークだと、体系だてたフレームが無いために、話が脱線してしまったり、重要なポイントを忘れてしまったり、気分がたまたま乗ってきたところで重要ではないポイントなのに長々としゃべってしまったり…と、支離滅裂な印象を与えがちです。


3つ目の原稿を読む、はもってのほかです。聞き手は、あなたの話を聞きに来ています。学校の作文発表に来ているわけではありません。折角足を運んで来て時間を割いているのに、目の前のスピーカーが原稿をただ読んでいるだけ、だったとしたら、「時間の無駄になった」と感じてしまうでしょう。テクノロジーが発展しているこの時代ですから、原稿を読むだけならば、いっそ皆さんにE-mailしたりネットでシェアすればいいことです。くれぐれも、「原稿を丸読みするスピーチ」、は避けるようにしましょう。


口が勝手に動くほど…


ふと、役者さんたちがどうやっているのだろう、と気になりました。


役者さんたちはセリフが決められています。動きもある程度の想定があることでしょう。彼らはセリフを徹底的に暗記しているはずです。しかし「覚えてきました」感なんて微塵も見えません。何をどう練習したらそのようにできるのでしょうか?

それが知りたくて、私はアクティング・コーチもつけて練習しているのですが、ある時、アクティングコーチに質問してみました。すると返ってきた答えは単純でした。


「想像を絶するほどの練習量だよ」


いやいや、練習なら私も沢山しているつもりです。それでも、役者のような自然さを出すのはなかなか困難です。
どれ位練習してるの?と聞かれ、堂々とこう答えました。


「昨年のスピーチコンテストでは、私は毎晩2~3回は練習する日々を1ヶ月間続けました!」


するとなんと、「そんな少ないのはお話にならない」と言わんばかりに、フッと笑われてしまいました。


役者さんたちは、とにかく信じられないくらいの練習量でセリフを叩き込むのだそうです。1日のうちに何回も何回も。ベッドの中でも電車の中でも、レストランの中でも。
セリフを暗記する際、まずは台本をある程度読み進め、今度は台本を見ずに1フレーズ言い、また台本に戻って最初からその次のフレーズまで言い、台本から目を離してそこまでを口に出して練習し、また台本に目を戻してその先のフレーズを確認し…というをひたすら続けるのだそうです。


口の筋肉が勝手に動いてセリフをしゃべってくれるようになるほど叩き込んだからこそ、その時々の状況で、言い方を変えたり、アドリブを効かせたりできるのだそうです。つまり、何を言うか、WHATは完璧に覚えておくが、どう言うか、HOWはやる度ごとに違う、とのこと。


1000回の練習が出来るか?


そういえば役者さんだけではありません。優れたプレゼンターと言われる各界の人々も同様なのです。

例えばTEDスピーカーのひとりで、350万View数以上の人気スピーチを行った、ドクター・ジル・ボルトテイラーも、18分のスピーチに向けて200回ものリハーサルを行ったそうです。


18分で200回。
あえて単純計算するならば、1分につき、約11回の練習をする計算になります。

もしみなさんが、3分間のスピーチをするならば、33回の練習です。1時間のスピーチなら、660回です。


かの有名なSteve Jobsも同様です、プレゼン前に信じられないほどの数のリハーサルを重ねたそうです。自然にその場で思いついたような語り口は、実は緻密に設計され、何百回と繰り返された練習の賜物なのですね。


現在、グローバル日系企業のトップの方々にスピーチのアドバイスをさせていただく機会も多いのですが、何千人もの観客を前にした年間最大のプレゼンの場でさえ、原稿があがるのが(しかも他部署が書いた原稿)1~2週間前、練習は、片手で数えられる程度にすぎない、というのを伺って愕然としました。およそ1時間半のプレゼンです。上記の計算ならば、約1000回の練習をしていなければならないはずです。


スピーチに限らず、何かに卓越するには、想像を絶するような地道な努力、そしてそれを絶対にやる!という覚悟が必要なのだと思います。みなさんの覚悟はいかほどでしょうか。。。?

 

リップシャッツ信元夏代
アスパイア・インテリジェンス 代表
ブレイクスルー・スピーキング 代表


早稲田大学商学部卒。ゼミ専攻は「異文化コミュニケーションとビジネス」。NYUにてMBA取得。1995年に渡米後、伊藤忠インターナショナルに鉄鋼・紙パルプ業界の営業・事業開発に携わる。その後マッキンゼーを経て、2004年に、戦略コンサルティング会社のアスパイア・インテリジェンス社をNYに設立。2015年にはブレイクスルー・スピーキングを設立し、グローバルに活躍したい日本人のためのパブリックスピーキングのE-learningプログラムや企業内研修を中心に、個人コーチングなどを行っている。


トーストマスターズインターナショナルの国際スピーチコンテストでは、日本人初のNY大会優勝3連覇を果たしたほか、世界で100名強しかいない、World Class Speakingコーチに唯一の日本人として認定される。世界的権威者、ブライアン・トレーシーらと共に共著した「The Success Blueprint」は、アマゾンの2016年ベストセラーに。2015年にはTEDxTalkに登壇している。


BREAKTHROUGH Speaking:http://www.btspeaking.com

ASPIRE Intelligence:http://www.aspireintelligence.com

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