聞けそうで聞けないM&Aの話

第6回

M&A仲介の利益相反問題について

株式会社M&Aコンサルティング  髙野 健二

 

昨年の12月に河野大臣がブログにてM&A仲介の利益相反問題について取り上げていました。

https://www.taro.org/2020/12/中小企業のm&a.php


●M&Aにまつわる利益相反の構造

もともとM&Aの買い手は「良い会社(事業)を少しでも安く買いたい」という願望を本質的に持っており、売り手は「少しでも高く売りたい」という願望を持っていることから、利害が180度対立している部分があります。


そのため、利害が180度対立している売り手と買い手の双方の代理になるということは、依頼していただいた相手の利益を最大限に図るという点において、構造的に矛盾しているとして以前より批判されてきました。実際に海外ではM&Aのコンサルティングについて、双方の代理となることは一般的ではなく、売り手か買い手か一方のアドバイザーとして契約を結ぶことが一般的です。


●我が国の現状

しかしながら我が国では、上場しているM&Aコンサルティング会社を中心として、買い手と売り手の双方と仲介契約を結ぶことが一般化していました。

批判に対する反論としては、以下の点がよくあげられています。


A  不動産売買の仲介取引も同じ構造であるが、幅広く認められている。


B 譲渡金額が高くなればなるほど、成功報酬金額も上がる報酬体系になっていることが一般的であるため売り手との利害の対立はない。一方で買い手にとってみても許容範囲を超える金額になった場合には売買が成立しないため、過度に利害対立を心配する必要はない。


C むしろ売り手と買い手の中間にたったものが、双方の落としどころをさぐりながら話をまとめるほうが売買を成立させやすい。


Bについては昨年経産省から公表された中小M&Aガイドラインにおいて「片方当事者(特に、リピーターとなり得る譲り受け側)の利益を優先して取引をまとめるように動く動機があるという構造的な問題が指摘されている。」と記載されているように、言葉通り受け止めることは出来ません。

https://www.meti.go.jp/press/2019/03/20200331001/20200331001-2.pdf


また成功報酬には、譲渡金額に連動して高くなるだけではなく、最低金額というものが定められており、最低金額には到底届かないと判断した仲介業者には、売り手にとって最善といえない相手であったとしても取引をまとめるように動く動機が働きやすいともいえます。

Cについては、いたずらに互いの主張を押し通そうとする経験値の少ないアドバイザーが双方につくよりも、取引をまとめやすくなる点については一理あります。しかしその点を持って、②の利益相反について解決する答えとなるわけではありません。(その点は、まっとうなアドバイザーを増やしていくしかないと思われます。)


●結論

最終的にはAが一番の理由として、日本では利益相反という問題がありつつも仲介が一般化してしまったのではないかと考えております。

とはいえ、あるべき形なのかどうかと考えれば、河野大臣のおっしゃるように変えていくべきでしょう。


弊社では従来から売り手ないし買い手どちらか片側のアドバイザーというスタンスで行っております。健全なM&Aマーケットの担い手としてこれからも貢献していきたいと思います!


 

プロフィール

株式会社M&Aコンサルティング
代表取締役/公認会計士 髙野 健二


BIG4メンバーファーム(現・新日本有限責任監査法人)で上場企業グループ等の会計監査、株式公開準備、買収監査(デューデリジェンス)、株価評価等のプロジェクトに参画。


その後、東証一部上場の専門商社やJASDAQ上場流通企業などのM&A担当・役員・顧問として、企業戦略立案・遂行の最前線で活躍した経験を持つ。


【主な役職】
ゲンダイエージェンシー株式会社(JASDAQ上場) 監査役(現任)、日本公認会計士協会東京会経営委員会委員長(2009年度、同委員会副委員長(2010年度)および同会M&A業務支援プロジェクトチーム構成員長、株式会社ノジマ執行役経営戦略グループ長(2007.6~2008.6)、東京都事業引継ぎ支援センター登録民間支援機関(現任)


Webサイト:株式会社M&Aコンサルティング

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