知らなかったでは済まされない著作権の話 vol.5

第3回

業者さんにレーザーディスクをDVDにダビングしてもらうだけで著作権侵害になるの??~私的使用のための複製の主体にまつわる話

堀越 総明 2018年8月8日
 

バブル育ちの部長の十八番は“バービーボーイズ”!


自動車部品メーカーで経理部長を務めるA部長は、バブル入社組ながら浮かれたところがなく、入社以来ずっと経理畑を歩んできました。今年の新入社員で、経理部に配属されたB山さんは、そんなA部長に取っつきにくさを感じて、普段はなかなか話し掛けることができません。

さて、経理部では1年に1度の大仕事である決算が無事に終わり、部の社員全員で打ち上げを行うこととなりました。会場は、カラオケボックスのパーティールームです。
B山さんは、新入社員のつとめで、酔っぱらった先輩たちをさらに盛り上げるため、マイクを握りしめ熱唱します。しかし、その努力もむなしく、年配の先輩たちからは野次が飛んできます。
C先輩  「おい、B山!盛り下がってるぞ!もっとみんなが知ってる曲を歌えー!」
B山さん 「“セカオワ”有名なんですけど・・・。」
C先輩  「ここはやっぱり部長にお手本を見せてもらわないと!」


C先輩から指名されて、A部長は徐にマイクを手にしました。すると、イントロが流れ出しただけで、パーティールームは興奮に包まれます。
部員一同 「さすが!A部長!」
D子先輩 「わたし、杏子のパート歌います!」
B山さん 「・・・この曲は何ですか??」
C先輩  「B山、知らないのか?“バービーボーイズ”の『目を閉じておいでよ』だよ!バブルの頃に大ヒットしたんだ。部長はバービーボーイズの大ファンなんだよ。あの華やかし頃を思い出して、俺たちも興奮せずにはいられないぜ!」

部長の映像ソフトのコレクションは、なんと「レーザーディスク」!


翌朝、出社したB山さんは、部長席にお礼の挨拶に行きました。社会人の心得として、お世辞を言うことも忘れてはいません。
B山さん 「昨日はお疲れ様でした。部長のすてきな歌も聴けて楽しかったです。バービーボーイズというバンドの曲も初めて聴いたんですが、格好良かったです。」
A部長  「そうか、バービーボーイズを気に入ったんだったら、今度、ライブの映像ソフトを貸してあげるよ。君んちには、レーザーディスクのプレイヤーはあるかね?」
B山さん 「レ、レ、レ、レーザーディスクですか!?すみません・・・、持っていません。」
A部長  「そうか・・・。いやね、うちのレーザーディスクプレーヤーも最近ついに壊れちゃってね。ちょうど私も見たいと思っていたから、今度DVDにダビングしたら貸してあげるよ。」

私的使用のための複製なのに業者さんにDVDへのダビングを断わられることに!


そして、週末がやってくると、A部長は、いそいそと池袋のダビング業者さんを訪ねました。受付カウンターで、自慢のレーザーディスクコレクションを差し出して、DVDにダビングするようにお願いすると、店員さんから意外な答えが返ってきました。

店員さん 「あのー、申し訳ございませんが、こちらのソフトはお客様に著作権がないので、ダビングできません。」
A部長  「そりゃボクに著作権はないんだけど、ボクがプライベートで楽しむだけなので、ダビングしていただいても問題ないですよ。」
店員さん 「いくらお客さんが個人的に楽しむだけでも、他人に著作権がある映像はダビングしてはいけないことになってるんです。」
A部長  「そんなわけないだろ。以前に知り合いの弁理士からきいたんだが、個人的に楽しむだけだったら、“私的使用のための複製”に該当するんで自由にコピーできることになってるんだ。キミだって、自分で楽しむために、映像ソフトや音楽CDをコピーしたりすることがあるだろ!」
店員さん 「それはそうですが、お店のルールですし、法律でも禁じられているそうなんです。」
A部長  「そんな話は納得できん!すぐにダビングするんだ!B山くんが、KONTAと杏子の掛け合いを見たいって待ってるんだぞ!」




私的使用のための複製ができるのは、原則として使用する本人に限られているのです


B山さんがどれだけバービーボーイズのDVDを心待ちにしているかはさておき、確かにA部長は、プライベートで楽しむ目的でレーザーディスクをDVDにダビングしようとしているだけです。著作権法では、「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」において使用する目的でしたら、他人の著作物を自由にコピーできると規定されています。A部長がそのダビングしたDVDを個人的に楽しんだり、たった1人の部下に趣味のつながりで貸したりする程度であれば、問題にならないはずです。それなのに、なぜ店員さんはA部長からのダビングの依頼を拒否したのでしょうか?

それは、著作権法では、「私的使用のための複製」は、「その使用する者」に限って行うことができると規定されているからです。この「使用する者」には、その複製物を使用する本人だけではなく、本人に代わって複製を頼まれた家族や友人も含まれるとされています。しかし、ダビング業者さんは、A部長の代わりに複製するとはいえ、A部長からお金を受け取って営業目的で複製するため、家族や友人が複製する場合とは事情は異なります。
そもそも私的使用のためだったら自由に複製しても良いと認めたのは、家庭内などの極めて閉鎖的な環境のなかで行われる、ごく少量の複製は許容しようという理由からです。そのため、いくら本人の代わりといえども、外部の業者さんが営業目的で複製するような場合は、「私的使用のための複製」からは除外すべきと考えられているのです。

さて、A部長ですが、知り合いの弁理士に相談して、自慢のレーザーディスクコレクションを業者さんにはダビングしてもらえないことを知ると、自宅でダビングすべく、インターネットオークションで、中古のレーザーディスクプレーヤーを探し始めました。B山さんはA部長に「それまでは私のカラオケで我慢してくれ」と言われてしまい、すっかり困ってしまっています。


※コラムは執筆時の法令等に則って書いています。

※法令等の適用は個別の事情により異なる場合があります。本コラム記事を、当事務所に相談なく判断材料として使用し、損害を受けられたとしても一切責任は負いかねますので、あらかじめご了承ください。

 
 
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ボングゥー特許商標事務所/ボングゥー著作権法務行政書士事務所
所長・弁理士 堀越 総明 (ほりこし そうめい)

日本弁理士会会員 日本弁理士会著作権委員会委員 東京都行政書士会会員 東京都行政書士会著作権相談員
東京都行政書士会任意団体著作権ビジネス研究会会員 株式会社ボングゥー代表取締役


「ボングゥー特許商標事務所」の所長弁理士として、中小企業や個人事業の方々に寄り添い、特許権、意匠権、商標権をはじめとした知的財産権の取得・保護をサポートしている。

特に、著作権のコンサルタントは高い評価を受けており、広告、WEB制作、音楽、映画、芸能、アニメ、ゲーム、美術、文芸など、ビジネスで著作物を利用する業界の企業やアーティスト・クリエイターを対象に、法務コンサルタントを行っている。

現在、イノベーションズアイにて、コラム「これだけは知っておきたい商標の話」、「知らなかったでは済まされない著作権の話」の2シリーズを連載し、また「ビジネス著作権検定合格講座」の講師を務める。

また、アート・マネジメント会社「株式会社ボングゥー」の代表取締役も務め、地方公共団体や大手百貨店主催の現代アートの展覧会をプロデュースし、国立科学博物館、NTTドコモなどのキャラクター開発の企画を手掛けた。


○ボングゥー特許商標事務所
http://www.bon-gout-pat.jp/
○ボングゥー著作権法務行政書士事務所
http://www.bon-gout-office.jp/
 
【著書】

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弁理士が、“ありがちな著作権トラブル”をストーリー形式で紹介し、分かりやすく解説していく1冊です。
法律になじみのない人でも読みやすく、“ここだけは注意してほしい点”が分かる内容となっています。

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