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知らなかったでは済まされない著作権の話 vol.5

第2回

イラストや写真には著作者のクレジット表記は必ずしてもらえるの??~著作者人格権(氏名表示権)にまつわる話

ボングゥー特許商標事務所/ボングゥー著作権法務行政書士事務所  堀越 総明

 

新聞社のカメラマンが独立して写真スタジオを開業!


大手新聞社の写真部で勤務するAさんは、入社10年目の中堅社員です。カメラの腕前は一流で、彼が撮影した秀逸な報道写真は、これまで多くのニュース記事を彩ってきました。しかし、会社からは高い評価を受けているものの、Aさんは、会社の方針に従った写真ばかりを撮影することに不満を覚えるようになりました。ある晩、このことを妻のB子さんに打ち明け、独立の相談をしました。
B子さん 「たった一度の人生よ!やりたいことをやらなきゃダメよ!私は独立に賛成よ。最初はどうせアシスタントは雇えないでしょうから、私がレフ板を持つわよ!!」

B子さんからの力強い応援の言葉をもらって、Aさんは間もなく会社に辞表を出し、念願の写真スタジオを開業しました。
ただ、現実は少々厳しいもので、開業から3ヶ月間はまったく仕事の依頼はなく、Aさんは不安な日々を過ごしていました。そんなある日、Aさんのもとに初めての撮影依頼のメールが届きました。
Aさん  「やったー!B子、仕事が来たぞ!」
B子さん 「あなた、おめでとう!私がレフ板を持つわよ!!」

Aさんの写真スタジオの初仕事は、外国人旅行者向けの東京の名所を紹介するパンフレットに掲載する写真を撮影するというものです。ただし、業務委託契約書を見てみると、撮影した写真の著作権は、クライアントの会社に譲渡することになっています。
Aさん  「撮影料はしっかりもらえるから、著作権の譲渡は仕方がないか・・・。」

納品した写真が掲載されたパンフレットには撮影者のクレジット表記がありません


浅草、銀座、新宿、渋谷と、AさんはB子さんと、東京の名所を巡って何枚もの写真を撮影しました。B子さんのレフ板のあて方も良く、どれもなかなかの写真に仕上がりました。
クライアントの会社の担当者Cさんも写真の出来映えに大満足で、Aさんは無事にデータファイルで写真を納品しました。
B子さん 「あなた、初仕事おつかれさま!」
Aさん  「B子のレフ板のおかげだよ。」
B子さん 「写真の横には、フォトグラファーとして、あなたの名前も載るはずよ。パンフレットが出来上がるのが楽しみね!」

しかし、3ヶ月後、完成したパンフレットを見て、AさんとB子さんは、がっくりと肩を落とします。パンフレットの誌面を彩る数々の写真の横には、Aさんのクレジット表記(氏名表示)はまったくなされていませんでした。
Aさん  「写真の著作権はクライアントの会社に譲渡しちゃったからクレジット表記は無理なのかな・・・。」
B子さん 「そんなことないわよ!Cさんに電話で確認してみましょうよ。」

B子さんに促されて、AさんはCさんに電話をしました。
Aさん  「あの~、パンフレットにはボクのクレジット表記はしてもらえないんでしょうか?」
Cさん  「この写真の著作権はAさんから譲渡を受けていますので、うちの会社に著作権がありますから。」
Aさん  「やっぱり、だめですか・・・。」



著作権を譲渡した後でも氏名表示を求めることができます!


Aさんは、心をこめて撮影した写真に、自分のクレジット表記をしてもらえず、すっかり落ち込んでいます。

それでは、本当にCさんが言うとおり、著作権を譲渡してしまった著作物には、著作者の氏名を表示してもらうことはできないのでしょうか?

実は、著作物を創作すると、その著作者は、「著作権」と「著作者人格権」というこの2つの権利を手に入れることができます。

「著作権」は、著作物をコピーできたり、著作物をインターネットで公開できたりする権利のことです。写真やイラストに限らず、音楽、小説、映画など様々な著作物は、財産的な価値を有するので、「著作権」は他人に譲渡することができます。著作権の譲渡が行われると、著作権を譲り受けた人が新たに「著作権者」となります。

一方、著作権とは別に、著作者に与えられる「著作者人格権」という権利は、財産権のような性格とは異なり、その名のとおり、著作者の人格的利益を保護する権利なので、他人に譲渡することができない権利とされています。
つまり、著作権を他人に譲渡してしまい、著作者が著作権者でなくなった後でも、著作者人格権は著作者に留まることになるのです。そして、著作物に自分の氏名を表示してもらえる権利、つまり「氏名表示権」も、この著作者人格権のうちの一つの権利となっています。

今回の場合、Aさんは、この写真の「著作権」をクライアントの会社に譲渡してしまっているので、すでに「著作権者」ではありません。
しかし、その写真の「著作者人格権」は撮影者であるAさんに留まっています。つまり、Aさんは、その写真の著作権を譲渡した後でも、クライアントの会社に対して、パンフレットの写真に自分の氏名を表示するように求めることができるのです。

氏名表示をしなくてもよい例外もあります


ただし、氏名表示は、どんな場合でも求めることができるわけではありません。①著作者の利益を害するおそれがない場合で、②公正な慣行に反しない場合は、著作者の氏名表示は省略することができます。

例えば、ファミリーレストランのメニューを広げたときに、ハンバーグやオムライスなどの料理の写真のすべてに、「写真:A氏」とクレジットされていたら、これはかえって違和感を覚えます。また、音楽の場合では、カフェなどのBGMで有線放送を流しているときに、1曲ごとに、「次の曲は、作曲はB氏、作詞はC氏、編曲はD氏です。」とアナウンスが入ったら、これはもはやBGMとして成り立ちません。このような場合には、著作者の氏名は表示しなくてもよいとされています。

さて、知り合いの弁理士Hさんに相談したAさんとB子さんは、著作権を譲渡した後でも、著作物には著作者の氏名表示をしてもらえるということを知り、あらためてCさんに電話でお願いをしてみました。それから半年後に発行されたパンフレットの第2版には、掲載写真の横に、しっかりとAさんのクレジット表記がなされたということです。


※コラムは執筆時の法令等に則って書いています。

※法令等の適用は個別の事情により異なる場合があります。本コラム記事を、当事務所に相談なく判断材料として使用し、損害を受けられたとしても一切責任は負いかねますので、あらかじめご了承ください。

 

ボングゥー特許商標事務所/ボングゥー著作権法務行政書士事務所
所長・弁理士 堀越 総明 (ほりこし そうめい)

日本弁理士会会員
日本弁理士会著作権委員会委員
(2020年度は委員長、2019年度は副委員長を務める。)
東京都行政書士会会員 東京都行政書士会著作権相談員
東京都行政書士会任意団体著作権ビジネス研究会会員
株式会社ボングゥー代表取締役


「ボングゥー特許商標事務所」の所長弁理士として、中小企業や個人事業の方々に寄り添い、特許権、意匠権、商標権をはじめとした知的財産権の取得・保護をサポートしている。

特に、著作権のコンサルタントは高い評価を受けており、広告、WEB制作、音楽、映画、芸能、アニメ、ゲーム、美術、文芸など、ビジネスで著作物を利用する業界の企業やアーティスト・クリエイターを対象に、法務コンサルタントを行っている。

現在、イノベーションズアイにて、コラム「これだけは知っておきたい商標の話」、「知らなかったでは済まされない著作権の話」の2シリーズを連載し、また「ビジネス著作権検定合格講座」の講師を務める。

また、アート・マネジメント会社「株式会社ボングゥー」の代表取締役も務め、地方公共団体や大手百貨店主催の現代アートの展覧会をプロデュースし、国立科学博物館、NTTドコモなどのキャラクター開発の企画を手掛けた。


○ボングゥー特許商標事務所
https://www.bon-gout-pat.jp/
○ボングゥー著作権法務行政書士事務所
https://www.bon-gout-office.jp/
 
【著書】

「知らなかったでは済まされない著作権の話」(上)・(下)
上巻:https://amzn.to/2KB8Ks5
下巻:https://amzn.to/2rV7qcG
 
弁理士が、“ありがちな著作権トラブル”をストーリー形式で紹介し、分かりやすく解説していく1冊です。
法律になじみのない人でも読みやすく、“ここだけは注意してほしい点”が分かる内容となっています。

知らなかったでは済まされない著作権の話 vol.5

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