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知らなかったでは済まされない著作権の話

第8回

入社試験の問題に著名人の随筆を勝手に掲載できる!?
~試験のための利用にまつわる話

 

入社試験の問題に掲載する著作物も事前に著作権者の許諾が必要!?

○×商事の社内で真面目ナンバー1の呼び声が高い人事課長のAさん。入社以来、一度も遅刻したことがなく、ランチも社則を忠実に守り、毎日社員食堂で食べています。プライベートでの規範意識も半端ではなく、ごみに出すペットボトルは中をきれいに洗い流し、ラベルをきっちりはがずという徹底ぶりです。

人事部の会議で、来春の新卒採用の入社試験問題が決定したある日、その試験問題に著名人の随筆が掲載されていることに気づいたA課長は、ふと思いました。
「この随筆は著作物だから、勝手に試験問題に掲載したら著作権侵害になってしまうじゃないか。違法行為をしたとなったら、我が社の社会的信頼は失墜してしまうぞ。これは大変だ!いますぐ著作権者のX先生に許諾をもらわないと!」
早速、A課長は、X先生に電話をして、無事掲載の許諾をもらうことができました。

試験問題がツイッターで流出!?

入社試験から数日経ったある日、A課長は、採点を担当している部下のB係長から何気ない報告を受けました。
B係長 「今年の学生さんは試験の出来がいいですよ。特にX先生の随筆の問題は高得点の人が多いですね。」
A課長 「今年は例年以上に優秀な人材を採用できそうだな!」

そんな喜んでいるA課長のもとに、ツイッター好きで知られる人事部長のCさんが血相を変えてやってきました。
C部長 「おい、A課長!X先生の少し前のツイートで、我が社の入社試験にX先生の随筆が出題されることが書いてあるぞ!」
A課長 「えっ、本当ですか!?」
C部長 「X先生のツイッターはフォロワーの数がとても多いんだ。その上リツイートされまくってて・・・。いったい誰がX先生にばらしたんだ・・・。」
A課長 「実は・・・著作権侵害になるかと思いまして、私が事前にX先生に電話で随筆の利用許諾をもらいました・・・。」
C部長 「バ、バ、バカモン!!!!!」

試験問題の漏洩防止のため、事前の著作権者の許諾は不要なのです

他人が著作権を有している著作物を無断で利用すると、著作権侵害になります。これが大原則です。ただすべての場合で著作権者の許諾をもらわなければならないとすると、社会生活上、色々な不都合が起こってしまいます。そのひとつが試験問題に著作物を利用する場合です。

今回、A課長は、その持前の順法精神で、入社試験への随筆の掲載について、はりきってX先生の事前の許諾をもらいました。X先生は悪意なく、そのことをツイッターでつぶやき、その結果、フォロワーの間で話題となって、あっという間に多くの学生の知るところとなってしまったのです。

試験は公明正大に実施しなくてはなりませんので、事前に試験問題が漏洩することは絶対にあってはなりません。しかし、試験問題に掲載する著作物について、原則通りに事前に著作権者の許諾をもらわなくてはならないとなると、どうなるでしょうか?いくら著作権者に「このことはご内密に!」と念を押したところで、漏洩のリスクはどうしても付きまとってしまうでしょう。
「それでは著作権者が漏洩したときのための罰則規定を作ればいいじゃないか」なんて言う人もいるかも知れませんが、罰則を受けるリスクを負ってまで、自分の著作物を試験問題に掲載させてくれる人はなかなかいないものです。そこで、試験問題に著作物を利用する場合は、事前に著作権者の許諾を受けなくても良いということになったのです。

営利目的の試験の場合は事後に補償金を支払う必要があります

この「試験」というのは、入社試験、入学試験、国家試験、学校の中間試験、期末試験、予備校の模擬試験など、種類は一切問いません。問題が漏洩すると成り立たないのは、どんな試験でも同じだからです。ただし、予備校の模擬試験のように営利目的で実施される試験は、著作権者への事前の許諾は不要ですが、試験を行った後に、一定の補償金を著作権者に支払わなくてはなりません。

また入学試験や国家試験の場合は、書店でよく「過去問題集」が販売されていますが、試験問題をまったくそのまま転載した場合でも、過去問題集の出版にあたっては、原則通りに事前の著作権者の許諾をもらわなくてはなりません。試験のための利用が、著作権者に事前の許諾をもらわなくても著作権侵害とならないのは、漏洩防止を目的としたためであって、その必要のない事後の過去問題集の出版には、こうした例外規定を適用する意味はまったくないからです。

さてツイッターに出題箇所が漏洩してしまった試験を受けて入社してきた新入社員ですが、いまひとつの人材ばかりとなってしまい、A課長は入社後の教育に追われる日々を過ごしているそうです。

※コラムは執筆時の法令等に則って書いています。
※法令等の適用は個別の事情により異なる場合があります。本コラム記事を、当事務所に相談なく判断材料として使用し、損害を受けられたとしても一切責任は負いかねますので、あらかじめご了承ください。

 
 

ボングゥー特許商標事務所/ボングゥー著作権法務行政書士事務所
所長・弁理士 堀越 総明 (ほりこし そうめい)

日本弁理士会会員
日本弁理士会著作権委員会委員
(2020年度は委員長、2019年度は副委員長を務める。)
東京都行政書士会会員 東京都行政書士会著作権相談員
東京都行政書士会任意団体著作権ビジネス研究会会員
株式会社ボングゥー代表取締役


「ボングゥー特許商標事務所」の所長弁理士として、中小企業や個人事業の方々に寄り添い、特許権、意匠権、商標権をはじめとした知的財産権の取得・保護をサポートしている。

特に、著作権のコンサルタントは高い評価を受けており、広告、WEB制作、音楽、映画、芸能、アニメ、ゲーム、美術、文芸など、ビジネスで著作物を利用する業界の企業やアーティスト・クリエイターを対象に、法務コンサルタントを行っている。

現在、イノベーションズアイにて、コラム「これだけは知っておきたい商標の話」、「知らなかったでは済まされない著作権の話」の2シリーズを連載し、また「ビジネス著作権検定合格講座」の講師を務める。

また、アート・マネジメント会社「株式会社ボングゥー」の代表取締役も務め、地方公共団体や大手百貨店主催の現代アートの展覧会をプロデュースし、国立科学博物館、NTTドコモなどのキャラクター開発の企画を手掛けた。


○ボングゥー特許商標事務所
https://www.bon-gout-pat.jp/
○ボングゥー著作権法務行政書士事務所
https://www.bon-gout-office.jp/
 
【著書】

「知らなかったでは済まされない著作権の話」(上)・(下)
上巻:https://amzn.to/2KB8Ks5
下巻:https://amzn.to/2rV7qcG
 
弁理士が、“ありがちな著作権トラブル”をストーリー形式で紹介し、分かりやすく解説していく1冊です。
法律になじみのない人でも読みやすく、“ここだけは注意してほしい点”が分かる内容となっています。

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