マネジメントを再考してみる 前編<現場マネジメント>
第14回
ベンチャー企業の経営危機に対処する(前編)
「何だ、急に呼び出したりして。」
「ちょっと困ったことになったので、相談に乗ってもらえたらと思ったのです。」
「そうか。何があったんだ?」
「モバイルクラフト社(仮称)を、ご存じですか?」
「評判だけはな。我が社にとっては新境地のIT分野に進出するためのベンチャー企業だろう。技術力はあるけれど経営面では経験のない技術者が興した企業を買収した会社だと聞いてる。そこが、どうかしたのか?」
「旧経営陣の問題は、我が社が経営に関与することで、なんとか解決することができたようです。しかしここにきて、新たな問題が発生したようで。」
成長段階に応じた問題の発生
「新しい成長段階での問題が発生したわけだな。」
「何ですか、新しい成長段階での問題って?まるで問題が生じるのをお見通しだったような言い方ではないですか。」
「いや、モバイルクラフト社の問題について知っていたわけではない。ただ、ベンチャー企業は、というより成長する企業は全て、新たな成長段階に入ることで、今までに経験したことのないような経営課題、もう少し詳しく言えばマネジメント上の問題を抱える傾向があるんだ。」
「成長段階に応じて問題が発生するってことですか?それってやはり、部長お得意のMCS理論で言われているのですか?」
「いや、問題の指摘そのものはMCSではない。南カリフォルニア大学のグレイナーという教授が明らかにしたことだ。但し俺は、グレイナー教授の説をMCSと組み合わせることで、いろいろ示唆があると思っている。」
「本当ですか?モバイルクラフト社についても、何か分かることがあるでしょうか?」
「それは、モバイルクラフト社についてきちんと説明を受けないと答えられないな。」
「了解です。実は、モバイルクラフト社の資料を部長にお見せする許可を、我が部の部長からもらっているんです。」
「山田部長の許可をか?あの石頭から、よくそんな許可をもらえたな。」
「お言葉ですが、山田部長はそんな、石頭ではないですよ。本質をきちんと捉えておられると思います。」
「知っているよ、そんなこと。山田部長はもともと、俺の同期だからな。」
「だったら話は早いです。ちょっと、この資料をごらんになってください。」
ベンチャー企業に発生した問題
「どうですか?何か分かりましたか?」
「ここにきて突然、モバイルクラフト社の開発ペースが落ちてきているということが、問題の根幹のようだな。」
「そうです。問題を抱えているという域を越えて、危機的状況にあると言えるようです。」
「なんでこんな風になるまで、放置しておいたんだ?」
「もちろん放置していた訳ではありません。本社でもきちんと状況把握していました。」
「へえ、どんな?」
「経営陣からの報告と方針を確認していたんです。M&A時のシリアスな状況を解決してきた優秀な経営陣の言うことですし、こちらが精査しても状況把握や方針に問題はない。そう判断して任せてきました。」
「にも関わらず、今回の問題には対処できなかったということだな。」
「残念ながら、そうです。」
「その理由は何だと思う?」
「それが分かったら、苦労はありませんよ。」
新しい問題に古い手法で対処する弊害
「モバイルクラフト社は、新しい成長段階に突入したので、それに応じた新しい問題に遭遇したんだ。」
「部長の説によると、そのようですね。」
「いや、俺の説ではなく、グレイナー教授の説だがな。」
「それに何の問題があるのですか?」
「『新しい葡萄酒には新しい革袋』という言葉を知っているか?」
「なんですか?それもマネジメント用語なのですか?」
「いや、聖書に書いてある古くからの言葉みたいだが、今回のモバイルクラフト社の問題は、それにピッタリと当てはまると思う。」
「そうなんですか?どんな風に?」
「M&Aの時と今とでは、問題の性質が全く違うということだ。M&A時の問題が解決されて企業として成長したので、別の問題に遭遇した。しかし経営陣も、当社も、まるでM&Aの時と同種の問題が生じたかのように対処してしまった。それが問題なんだ。新しい対処法が必要だったんだよ。」
「いや、M&A時と同じ問題とは考えてはいなかったと思いますよ。」
「でも、その対処法としては、同じアプローチを取ったんだろう?M&Aの時と。」
「そう言われてみれば、そうなのかも知れません。」
「そこなんだ。そこに、今回の問題を大きくしてしまい、対処できなくなった原因があると思われる。」
「それは何ですか?」
「ベンチャー企業の経営危機に対処する(中編)」に続く
<セミナー告知>
本日お届けした記事に関連して、企業の成長段階に応じた危機をMCSの観点から分析し、対処法を考えるセミナーを実施します。
「ベンチャー企業の経営危機に対処する」
<セミナー概要>
日 時:7月23日(土)13:30〜16:30(開場:13:00〜)
会 場:イオンコンパス東京八重洲会議室 Room B
講 師:落藤伸夫(StrateCutions)
詳しくはStratecusitons のサイトからご確認下さい。
なお、InnovationS-i 会員・支援機関の皆さんは、InnovationS-iホームページ内のご案内ページからご確認下さい。
(ご案内ページへのアクセス方法)
・ InnovationS-iホームページにアクセスして下さい。
・ 上部「セミナー交流会」タブをクリックして下さい。
・ 「開催月で探す」で「7月」をクリックして下さい。
・ 「2016年7月のセミナー開催スケジュール」一覧表にある「7月23日(土)13:30~16:30『ベンチャー企業の経営危機に対処する』支援機関StrateCusitons 」をクリックして下さい。
→ ご案内ページ
コラムマネジメントを再考してみる 前編<現場マネジメント>
- 第1回 マネジメント改革を指示された
- 第2回 徳川家康とマックス・ウエーバーの亡霊に操られている?
- 第3回 上司はなぜ、部下に命令できるのか?
- 第4回 テイラーが生み出したマネジメント
- 第5回 働き手を助けることがマネジメントになるのか?
- 第6回 精神論ではないマネジメント体系を作り出していく
- 第7回 マネジメントのシステム化を考える
- 第8回 マネジメント・コントロール・システム(MCS)とは
- 第9回 普遍的ながら新たな示唆を与えてくれる
- 第10回 マネジメントをコントロールするとは
- 第11回 マネジメント・コントロールを行うシステム
- 第12回 現場マネジャーとは課長のこと?上位マネジャーとは?
- 第13回 上位マネジャーと現場マネジャーとの区切り
- 第14回 ベンチャー企業の経営危機に対処する(前編)
- 第15回 ベンチャー企業の経営危機に対処する(中編)発展段階説
- 第16回 ベンチャー企業の経営危機に対処する(後編)次の段階に対応する
- 第17回 上級マネジャーの役割(戦略機能)
- 第18回 上級マネジャーの役割(現場マネジャーのマネジメント)(前編)
- 第19回 上級マネジャーの役割(現場マネジャーのマネジメント)(中編)
- 第20回 上級マネジャーの役割(現場マネジャーのマネジメント)(後編)
- 第21回 上級マネジャーの役割(間接部門を含めた部門間の連携)
- 第22回 上級マネジャーの役割(マネジメント体制の再整備)
- 第23回 上級マネジャーの役割(財務的成果マネジメント)
- 第24回 現場マネジャーの役割(全体像)
- 第25回 現場マネジャーの役割(現場パフォーマンス向上)(前編)
- 第26回 現場マネジャーの役割(現場パフォーマンス向上)(後編)
- 第27回 現場マネジャーの役割(連携)(前編)
- 第28回 現場マネジャーの役割(連携)後編
- 第29回 現場マネジャーの役割(戦略対応)(前編)
- 第30回 現場マネジャーの役割(戦略対応)中編
- 第31回 現場マネジャーの役割(戦略対応)(下編)
- 第32回 現場マネジャーの役割(矛盾解消)(上編)
- 第33回 現場マネジャーの役割(矛盾解消)(中編)
- 第34回 現場マネジャーの役割(矛盾解消)(後編)
- 第35回 現場マネジャーの役割(環境整備)(前編)
- 第36回 現場マネジャーの役割(環境整備)(後編)
- 第37回 現場マネジャーのマネジメント方法(全体像)(前編)
- 第38回 現場マネジャーのマネジメント方法(全体像)(後編)
- 第39回 現場マネジャーへのマネジメント方法(アクション・コントロール)(前編)
- 第40回 現場マネジャーのマネジメント方法(アクション・コントロール)(中編)
- 第41回 現場マネジャーのマネジメント方法(アクション・コントロール)(後編)
- 第42回 現場マネジャーのマネジメント方法(リザルト・コントロール)(前編)
- 第43回 現場マネジャーのマネジメント方法(リザルト・コントロール)(中編)
- 第44回 現場マネジャーのマネジメント方法(リザルト・コントロール)(後編)
- 第45回 現場マネジャーのマネジメント方法(ピープル・コントロール)(前編)
- 第46回 現場マネジャーのマネジメント方法(ピープル・マネジメント)(中編)
- 第47回 現場マネジャーのマネジメント方法(ピープル・コントロール)(後編)
- 第48回 現場マネジャーのマネジメント(総括)
- 第49回 本シリーズの総括(前編)
- 第50回 本シリーズの総括(後編)
プロフィール
StrateCutions
代表 落藤 伸夫
「世界の先進国では日本だけが一人負け」という話を聞くことがあります。世界が日本を羨んだ “Japan as No.1” からまだ40年ほどしか経っていないのに、当時、途上国といわれていた幾つかの国々の後塵を拝している現状です。
それを打開する方法の一つに、マネジメントを高度化していくことがあると思われます。日本のホワイトカラーの生産性は先進国では最低だといわれていますが、逆に言えば、マネジメントを改善すれば成果を飛躍的に伸ばすことができる可能性があります。
筆者は Bond-BBT MBA でMCS(マネジメント・コントロール・システム)論を学んで以来、マネジメントでもって企業の業績をあげる方法について研究してきました。マネジメントを合理的に考え直し、システムとして組み直すのです。StrateCutionsで行うマネジメント支援の理論的背景や方法論を、お知り頂ければと考えています。