著作物利用に関する裁定制度について(2)(未管理公表著作物等についての裁定)
はじめに
令和5年著作権法改正により、著作物利用に関する新しい裁定制度が設けられ、去る令和8年4月1日に新制度がスタートしました。前回の記事は以下の通りです。
<著作物利用に関する裁定制度について(1)(いわゆる67条裁定)>
今回は、従来からある「著作権者不明等の場合における裁定制度」(著作権法67条。以下「67条裁定」といいます。)と新たに始まった「未管理公表著作物等の裁定制度」(著作権法67条の3。以下「新裁定」といいます。)とを対比して、気をつけるべきポイントを整理します。

原則「許諾を得る」というのは変わらない
前回の記事でも、他人の著作物を利用したい場合に、著作権者の許諾を得るというのが基本的なアプローチであることをお伝えをしましたが、このことは、新制度がスタートした現在も変わりありません。著作権者を探索し、連絡を取ることができるようであれば許諾を得て著作物の利用をするようにしましょう。
利用可否についての意思表示がある場合
67条裁定を受けるに当たっては、著作権者と「連絡することができなかった」ことが要件となっており、例えば書籍中に「無断複製禁止」といった表示があったとしても、裁定申請を行うことは可能です。
一方、新裁定を受けるためには、「著作権者の意思の確認ができなかったこと」が要件となっています。このため、書籍等に前記したような表示がある場合には、著作権者の意思が確認できるものとなりますので、新裁定を受けることはできません。
連絡を試みても返事がない場合
67条裁定では、連絡先が判明しており、かつ連絡が相手方に届いている状況(返信がないだけの状況)は「連絡することができなかった」場合には該当しないとされており、裁定申請を行うことができません。また、著作権者が海外に住んでいるために連絡が取りづらいというのは「連絡することができなかった」場合には該当しませんので注意が必要です。
一方、新裁定では、連絡先にコンタクトを試みて書面等が到達したにも関わらず一定期間(14日間)返答がなければ、意思が確認できないものとして裁定申請を行うことができます。
なお、新裁定を利用しようとする場合において、14日以内に著作権者から利用の可否についての回答があったり、検討のために時間が欲しい旨の返事があったりした場合には裁定申請を行うことはできませんので注意が必要です。
連絡先が海外の場合
67条裁定においては、判明した連絡先が日本国内・海外のいずれでも連絡を試み、それでも連絡が取れなかった場合には、他の条件を満たせば裁定申請を行うことができますが、新裁定においては、取るべき連絡先は国内のものに限られていますので、海外の連絡先のみが判明している場合には、そもそも意思確認を取る以前に対象外となってしまうため、新裁定の申請を行うことができません。
中長期にわたって利用したい場合
67条裁定を受けた場合には、利用期間の上限はありませんが、新裁定の場合には利用期間が3年間という制限があります。3年経過のタイミングで新裁定を再度受けることで、事実上期間を延長・更新をしたような状態を作ることはできるのでしょうが、3年ごとにタイミングを合わせて手続を行う必要があり、再度の裁定が認められるかは改めて判断がされ、かつ、その都度補償金の支払いが必要となります。
このため、短期間での利用を想定している場合には新裁定でも十分かとは思われますが、中長期で利用をしたい場合には、新裁定ではなく67条裁定を受けた方が良いという場合も少なくないかと思われます。
著作権者が後に出現した場合
どちらの裁定を受けるかにより、裁定を受けた後に著作権者が現れた場合の扱いも変わってきます。67条裁定を受けた場合には、その後に著作権者が現れた場合でも、その裁定は取り消されず、裁定を受けた範囲での利用を継続することができます。一方、新裁定を受けた場合、裁定の取消を受ける場合があり、その後の利用については著作権者との協議によります。裁定が取り消された後に著作権者との協議が整わない場合、利用を継続することができなくなるという可能性もあります。
まとめ
このように、新裁定はスピーディに裁定を受けることができる点でメリットがありますが、期間の定めがあったり裁定が取り消される可能性があるなど、中長期にわたって安定的に利用を継続したいというニーズには必ずしも合致しないこともあります。
一方、67条裁定ですと、裁定を受けるには高いハードルを越えなければなりませんが、期間の定めもなく安定して利用することが可能になるという点では新裁定に勝るところがあります。
元々67条裁定の利用が進んでいなかったという課題意識から生まれた新裁定ですが、具体的な状況やニーズに合わせて新裁定を活用しつつ、67条裁定の併用も検討すると良いと言えます。
令和8年度 日本弁理士会著作権委員会委員
弁理士 伊藤 大地
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