著作権著作権切れの名画でも安心できない? 企業利用で注意すべき5つのポイント
はじめに
企業の広告宣伝で著名な絵画をパロディにしたものを見かけることがあります。著作権が切れた名画は、原則として自由に利用できます。しかし、企業が広告や商品に利用する場合には、著作者人格権への配慮、商標権、美術館との契約、さらには炎上リスクなどを検討すべきと考えます。著作権の切れた絵画を利用する際の実務上の注意点を整理します。

ポイント1:著作権(財産権)との関係
日本における現行の著作権法では、著作権は原則として著作者の死後70年間存続し、満了すると著作権(複製権、公衆送信権、翻案権等の財産権)は消滅します。したがって、著名な絵画であっても、保護期間満了後は、原則として自由に利用できます。著作権法上、ゴッホやモネなど著名画家の作品を利用しても著作権侵害にはなりません。ただし、海外の作品については注意が必要です。「戦時加算」といって、第二次世界大戦の戦勝国の著作物については、著作権の存続期間が加算される場合があります。加算期間は国によって異なるため、著作権が切れているか確認が必要です。
ポイント2:著作者人格権に関連する問題
もっとも、著作権が消滅した後も、著作者の名誉・声望に関する規定に注意が必要です。著作者死亡後は著作者人格権自体は消滅します。ただし、著作権法には著作者が存命であれば著作者の名誉又は声望を害するような利用を禁止する規定があります。例えば、絵画を極端に加工する、低俗な広告表現に使用する等、作者の評価を損なう形で利用した場合には、著作者の名誉又は声望を害する利用として問題となる可能性があります。特に企業利用では、「法的には可能」であっても、文化的価値を損なう利用と受け取られないよう慎重な判断が求められます。
ポイント3:商標権について
著名な作品については、絵画と識別力のある文字や図形との組み合わせや題号が商標登録されている場合があります。また、美術館名や展覧会名、著名な作品の名称等が商標登録されているケースもあるかもしれません。その場合、広告や商品表示への使用態様次第では、別途商標権侵害が成立する可能性があります。したがって、実務上は著作権調査だけでなく、商標登録の有無、商品区分との関係、商品やサービスの出所を表示する形での使用に当たるかといった点も確認する必要があります。
ポイント4:著作権が切れた絵画でも美術館・所蔵者との契約が必要な場合
著作権法では権利が満了したことで自由に利用できる場合であっても、多くの著名な絵画は、美術館や所蔵者が作品を管理しており、利用にあたって契約の締結や利用料の支払いを求められる場合があります。契約締結が求められる背景には、利用目的の確認や、作品の管理、所蔵者表記の統一などがあります。また、支払われる対価も、著作権使用料ではなく、高精細画像データの提供対価としての意味合いであると考えられます。企業が継続的に美術館、所蔵者と良好な関係を維持し、円滑に絵画を利用するためには、契約の締結と必要な対価の支払いをすることが望ましいでしょう。また、絵画自体の著作権が切れていたとしても、それを撮影した写真の著作権が生きている場合があります。この点については、平面的な絵画を忠実に撮影した写真に著作物性が認められるかにつき議論があり、実務上も見解が分かれる部分です。
ポイント5:社会的評価・レピュテーションリスク
企業活動においては、最終的に社会的評価を無視できません。絵画の利用方法によっては、「芸術を商業利用している」「作品への敬意を欠く」といった批判を招く可能性があります。必ずしも違法ではない行為でもSNS上で批判が拡散し、企業イメージが大きく損なわれることがあります。そのため、実務上は、絵画の利用目的の合理性、改変の程度、ブランドイメージとの整合性、文化的配慮を含めた総合判断が重要になります。
まとめ
以上のとおり、いわゆる「パブリックドメイン(著作権保護期間が終了した状態)」となった絵画は、著作権法上、原則として自由に利用できるといえます。しかし、「法的に利用可能」ということと、「実務上安心して利用できる」ということは必ずしも同じではありません。実際には、著作者の名誉・声望への配慮、商標権、美術館等所蔵者との契約、さらには社会的評価まで含めた多面的検討が必要となります。特に企業利用では、「著作権が切れているから自由」という単純な理解では不十分であり、法務・知財・広報の連携の下で慎重な検討が求められるでしょう。
令和8年度 日本弁理士会著作権委員会委員
弁理士 橋爪 美早子
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