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気に入ったキャラクターの使用は慎重に! ~ 木枯し紋次郎事件(知財高裁令和6年(ワ)第10007号) ~

弁理士の著作権情報室

はじめに


気に入ったキャラクターを使用したいときがあると思います。他人が創作したキャラクターをそのまま使用したら「パクリ!」になるので、使用しないでしょう。
一方、そのキャラクターを変更したら、使用しても大丈夫と思われるかもしれません。
しかし、そのキャラクターの変更使用が、大問題となる場合があります。
本事件「木枯し紋次郎事件」は、人気キャラクターを変更使用した図柄について、原作品のキャラクターの著作物性と、Yの図柄が複製又は翻案に当たるか否かが問われた事案です。

事件の概要


先ず、事件の概要を説明します。
(1)小説家であった亡Bは、「紋次郎」という名の渡世人を主人公とする「木枯し紋次郎」シリーズの小説を執筆し、この小説を原作とする漫画、テレビドラマ及び映画が制作されました。
(2)亡Bの死亡後、亡Bの妻である亡Aが小説の著作権を相続により取得し、管理会社Xは亡Aから亡Bの著作物の独占的利用の許諾を受けました。
(3)以下図1のように、ラベルや外袋に特定の図柄を用いた商品をY会社が製造し、この商品の画像をウェブサイトに掲載していました。このYは、食品の製造販売等を業とする会社です。
(4)これらのYの行為が、小説を原作としたテレビドラマに係る著作権(翻案権、公衆送信権)の侵害に当たるとして、亡B及びXが差止請求及び損害賠償請求などをYに対して請求し、東京地方裁判所へ提訴しました。
(5)しかし、第一審の東京地方裁判所はXらの請求を棄却し、Xらは不服として知的財産高等裁判所(以下、知財高裁)に控訴しました。これに対して第二審の知財高裁はXの控訴を一部認めました。
なお、第二審の知財高裁の審理の途中で、亡Aが死亡したので、X会社、亡Aと亡Bの子(X1、X2)及び、亡Bの養子(X3、X4)が、亡Aの訴訟承継人になっています。

気に入ったキャラクターの使用は慎重に! ~ 木枯し紋次郎事件(知財高裁令和6年(ワ)第10007号) ~



図1 Yの商品「紋次郎いか」

(令和6年(ネ)第10007号別紙1)


図2 テレビ作品「紋次郎」

(令和6年(ネ)第10007号別紙4)


図3 Yの図柄

(令和6年(ネ)第10007号別紙2)




裁判所の判断


各争点について知財高裁がどのような判断をしたのか見ていきましょう。

(1)「キャラクターの著作物性」について
キャラクターの著作物は第1審でも争点になりました。
Yは、Yのウェブサイト中のウェブページに、「紋次郎いかの由来」として、昭和47年(1972年)当時テレビで流行っていた木枯し紋次郎がくわえていた長い楊枝(ようじ)を串に見立てたことによるものと記載していました。
この事実によれば、「紋次郎いか」の名称がテレビ作品の主人公である紋次郎(木枯し紋次郎)に由来することが認められるとともに、Yの図柄がテレビ作品に依拠して作成されたものであると推認しました。
図2では、テレビドラマの紋次郎として、以下の(a)ないし(d)の外観上の特徴を有することが示されました。
(a)通常より大きい三度笠を目深にかぶっている
(b)通常よりも長い引き回しの道中合羽で身を包んでいる
(c)口に長い竹の楊枝をくわえている
(d)長脇差を携えた渡世人である
 
一方、図3のYの画像はテレビ作品の「紋次郎」の画像を具体的に示しているので、Yの図柄は、テレビ作品の「紋次郎」の画像の創作的な表現をなす部分であり、表現上の本質な特徴をなす上記(a)~(d)の表現上の特徴を全て感得し得るものと認定しました。

(2)「二次的著作物の原権利者の権利」について
テレビ作品は、亡Bの小説を原作として制作されたものであり、小説を原著作物とする二次的著作物です。
原作の著作物を基にして翻案した場合、原作の著作者は、二次的著作物の原作の著作権者として、二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有することになります。例えば、原著作物の小説の著作者である作家は、二次的著作物である映画の利用に関し、映画作品の著作者が有するものと同一の種類の権利の複製権等を有しています。
本件では、テレビ作品について、亡Bの権利と、二次的著作者であるテレビ作品の著作者の権利とが併存することになり(最高裁平成12年(受)第798号同13年10月25日第一小法廷判決)、亡Bはテレビ作品についての著作権(複製権又は翻案権、譲渡権、公衆送信権)を専有していたと認定しました。
また、亡B死亡後は亡Aが遺産分割によりこれを取得し、亡A死亡後は控訴人X1からX4が遺産分割によりこれを取得したと認定しました。

(3)「複製・翻案」について
本件では、Yの図柄が、既存の著作物に依拠していて複製に当たるか否か、翻案に当たるか否かが問題になりました。
先ず、複製と翻案について説明します。
・「複製」とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいいます(最高裁昭和50年(オ)第324号同53年9月7日第一小法廷判決・民集32巻6号1145頁)。例えば、小説、絵画、音楽などの著作物をそのままコピーすることです。
・「翻案」とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的な表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいいます(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。例えば、小説を原作にして映画を制作することです。

本件について、上記図3のYの図柄は、上記図2のテレビ作品「紋次郎」の画像に依拠し、その画像の表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的な表現に変更を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現したものであるから、図3のYの図柄はテレビ作品の「紋次郎」の画像の「翻案」であると認定しました。

次に、「著作権侵害」について説明します。
上記(1)「キャラクター性」で示した4つの特徴のうちの(a)通常より大きい三度笠、(b)通常よりも長い引き回しの道中合羽の特徴の部分は、原作品の小説ではなく、テレビ作品の特徴です。
しかし、上記(2)「二次的著作物の原権利者の権利」で示したように、二次的著作物のテレビ作品部分にも小説家の権利が及ぶことが前提として、著作権侵害の判断がなされています。

(ⅰ)二次的著作物としての使用については、侵害を認めました。
・Yは、容器のラベル又は外袋に図柄を付した商品を製造することにより、テレビ作品についての翻案権を侵害した。
・Yの図柄を付した商品の写真をYのウェブサイトに掲載したことにより、テレビ作品についての公衆送信権を侵害した。
なお、公衆送信権とは、放送、有線放送、インターネットなどを通じて著作物を公衆に伝達する行為を著作者が専有する権利です。

(ⅱ)一方、図2の原作品の同一の著作物の使用については、侵害を認めませんでした。
・著作物を原作品又は複製物の譲渡により公衆に提供する権利であるから、著作物を翻案したものの譲渡による譲渡権を侵害していない。
・Yの図柄は、テレビ作品の紋次郎の画像の複製権を侵害していない。

最後に


気に入ったキャラクターを変更した場合でも、安易に使用してはいけません。
知財高裁が「被控訴人図柄に接する者が本件テレビ作品の紋次郎の画像に係る表現上の本質的な特徴を直接感得することができるから、被控訴人図柄はテレビ作品の紋次郎の画像の翻案である」と判断した通り、原作品と特徴が大きく異なると思っても、変更後の作品に本質的な特徴が直接感得されれば、翻案になり、原作品者の承諾なく、使用しない方がよいでしょう。
本事案のように他人が創作した有名なキャラクターの著作物を使用して二次的に創作した場合、元の作品の特徴を具体的に表現していれば、翻案になる可能性が高く、著作権侵害のリスクが高くなることに留意して下さい。
原作品の変更使用を検討している方は、安易に判断せず、事前に専門家である弁理士に相談することをお勧めします。

令和7年度 日本弁理士会著作権委員会委員

弁理士 横川 憲広

※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。

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