注目判例・法改正・書評

他者の設計図に基づいて、製品を作成して販売しても著作権侵害にならない?

弁理士の著作権情報室

1.設計図に対する著作権法上の基本的な考え方


創作的に表現されたものであれば著作物として著作権法で保護されます。また、「設計図」は「学術的な性質を有する図面」とも言えますので、著作物とも解されています。

しかし、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したもの」ですので、全ての「設計図」が著作物として保護されるものではなく、著作権法で保護されるためには「創作的に表現されたもの」に限られます。それでは著作権法で保護される設計図とはいずれのようなものかを以下に説明いたします。

他者の設計図に基づいて、製品を作成して販売しても著作権侵害にならない?

2.設計図に基づき製品を作成し販売したことに関する裁判例


設計図に関する判決例は主に建築物に関するものが多く、それ以外の一般的な機械、器具等に関しては意匠法や特許法による保護が普通で有り、これらについての著作権侵害に関する裁判例は少なく、製品を作成して販売しても著作権侵害になるか否かを判断したものはごくわずかです。

以下に、わずかに存在する「著作物性否定した判断」と「著作物性肯定の判断」の裁判例をそれぞれ挙げます。

著作物性否定の判断の裁判例(スモーキングスタンド事件)
「工業製品の設計図は、そのための基本的訓練を受けた者であれば、だれでも理解できる共通のルールに従って表現されているのが通常であり、その表現方法そのものに独創性を見出す余地はなく、本件設計図もそのような通常の設計図であり、その表現方法に独創性、創作性は認められない。本件設計図から読み取ることのできる什器の具体的デザインは、本件設計図との関係でいえば表現の対象である思想又はアイデアであり、その具体的デザインを設計図として通常の方法で表そうとすると本件設計図上に現に表現されている直線、曲線等からなる図形、補助線、寸法、数値、材質等の注記と大同小異のものにならざるを得ない」とされました。
これに伴い、本裁判例では、表現の対象である思想やアイデアによる什器の具体的デザインと設計図は不可分であり、「本件設計図を著作物と認めることはできない」と判断されました。(東京地判平成5年(ワ)第22205号)

著作物性肯定の判断の裁判例(丸棒矯正機事件)
「原告本件設計図は、原告の設計担当の従業員らが研究開発の過程で得た技術的な知見を反映したもので、機械工学上の技術思想を表現した面を有し、かつその表現内容(描かれた形状及び寸法)には創作性があると認められる」とされ、また、「それらの構造を採用するという技術的思想そのものは、要件を満たした場合に特許法ないし実用新案法により保護されるべき性質のものであり(その意匠が意匠法により保護される場合もある)、著作物として保護されるのは、その表現(図示された形状や寸法)であると解される。」ともされました。
このため、本裁判例では、原告設計担当者らの機械工学上の技術思想を表現した面を設計図は有し、その表現内容(寸法及びその寸法に基づき図示された形状)には創作性があると認められるとされました。(大阪地判昭和61年(ワ)第4752号)

3.知財高等裁判所による参考とされる判断


以上のように著作物性の否定や肯定の裁判例は、いずれも地裁レベルの判断で有り、具体的に他者の設計図に基づいて、製品を作成して販売した場合、著作権侵害になるか否かは不確かと言えます。

これに対して、平成27年に知財高等裁判所にて、デザイン性ある実用品とされる子供用椅子(「TRIPP TRAPP」)の一部分に関して、著作物性が認められた判決が出されました。
ここでは、このようなデザイン性があり、産業上の利用を目的とする実用品は「応用美術」と呼ばれ、この「応用美術」が著作物といえるかが問題となりました。そして、本件の地裁判決でも示されていますが、椅子のような工業製品は「美的鑑賞の対象」となるか否かや「創作性」があるかどうかにより、これまで一般的に判断されていました。
これに対して、知財高裁では、「美的という観点からの高い創作性の判断基準を設定することは相当とはいえない」と、従来の判断手法を否定し、「個別具体的に、作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべき」と、これまでとは異なる判断手法が示されました。

4.設計図に基づき製品を作成し販売したことについての考え方


地裁レベルのみの判断では著作物性の有無について確定的なことは必ずしも言えませんでした。しかし、知財高等裁判所にて提起された上記判断手法による「応用美術」に関する判決から、デザイン性ある実用品の設計図に関しては、作成者の個性が発揮されているか否かを個別具体的に検討する必要が生じるようになったとも言えます。

これに伴い設計図に表された表現に作成者の個性が発揮されていると判断されるときには、「創作的に表現されたもの」と言えることから設計図に著作物性があり、このような設計図に基づき他者が模倣品を作成し販売した時には著作権侵害のおそれがあると解されます。

令和3年度 日本弁理士会著作権委員会委員

弁理士 飯塚 道夫

※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。

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