書籍などの著作物を点字化や音声化するためであっても著作権者の承諾が必要?
点字化の場合
タイトルに対する回答を知るために、条文をあらためて見直してみると、著作権者の権利に制限をかけている規定(権利制限規定)としては、シンプルな規定が見つかります。すなわち、
公表された著作物は、点字により複製することができる。
公開されていないものは対象外ですが、この規定があることにより、著作権者により(あるいは許諾を受けて)公開された著作物であれば、営利目的でも非営利目的でも、点字化(点訳)する場合は、著作権者の承諾は必要ありません。点訳する主体についても特段、制限がありません。ただ、どなたのどんな著作物かは上記の規定に関係なく明らかにする必要があり(「出所の明示」といわれます)、かつ、同一性保持権などの著作者人格権を害さないようにすることが基本的に求められます。なお、「点訳」は、活字、墨字等を点字に翻訳することとされています。「点字訳」と呼ばれることもあります。
点字化以外では?
世の中に存在する情報のうち、目から得られる情報はかなり多いと言われています。点字は、目の不自由な方の視覚情報を補ってくれるわけですが、晴眼者から見る限りでは覚えるのが難しそうであり、点字化するのに時間がかかりそうです。点字のほかに視覚障害者をサポートするツールとして音訳(音声化)、拡大写本、大活字本(文字の拡大化)、布でできた絵本、さらにはデイジー(DAISY)というシステム(Digital Accessible Information System)もあるようです。DAISY録音図書は、音声化された図書で、目次から読みたいページに飛ぶことが可能とのことです。
なお、文字の拡大化は、弱視の方(かた)に有効な場合があります。「弱視」は眼鏡やコンタクトレンズなどを使って矯正してもよく見えない状態のこととされています。
音訳などは、冒頭部分で述べた条文の適用外ですので、一見すると著作権者の承諾が必要なように見えます。私的使用の範囲で認めれば足りるかというと、そもそも、視覚障害者等は、ご自身で読めないために音訳等できず困っているので、そういうわけにもいかないわけです。そこで、音訳などについても著作権者の承諾を不要とする場合が用意されています。もっとも、音声化等されたデータ等が健常者に自由に利用されてしまっては、著作権者の創作の気持ちを削ぐことにもなりかねず、点訳に比べて詳細な要件が課せられています。
音声化等の条件
すなわち、主な要件は下記のとおりです(読みにくさを軽減するために条文上の文言そのままではない点、ご了承ください)。
(1)視覚障害その他の障害により視覚による表現の認識が困難な者(以下、「視覚障害者等」)の福祉に関する事業を行う者で政令で定めるものは、
(2)公表された著作物であつて
(3)視覚、触覚、嗅覚等の知覚によりその表現が認識される方式により公衆に提供され、又は提示されているものについて
(4)専ら視覚障害者等で当該方式によっては著作物を利用することが困難な者の用に供するために
(5)必要と認められる限度において
(6)著作物に係る文字を音声にすることその他当該視覚障害者等が利用するために必要な方式による場合に、
複製をおこなうことができるとされています。
点字による複製と異なる要件としては、まず、もっぱら視覚障害者等が利用できるようにするためという目的が求められます。
この「視覚障害者等」には視覚障害者に加え、発達障害や知的障害、学習障害などの人たちがその対象に含まれるとされています。一方、目で見ることができるけれども、手でページをめくるのが難しい肢体に不自由のある方や寝たきりの方がこの「視覚障害者等」に含まれるかどうかは、「視覚による表現の認識が困難」ではない場合があることから、議論があります。
そして、著作権者の許諾なく音訳等を行うことができるのは、上述の「政令」で定められた者であることが求められます。
「政令」は著作権法施行令のことであり、2条に具体的に記載されています。
たとえば、学校の図書館、障害児入所施設、児童発達支援センター、視聴覚障害者情報提供施設、養護老人ホーム、適切な組織体制を有しているボランティア団体などが該当します。従前は、ボランティア団体であっても文化庁長官により指定されることが必要とされていましたが、現在では、この指定要件は外されています。
個人のボランティアが行う場合は「政令」で定められた者に含まれず、著作権者の承諾が必要です。
その他
文字以外にも漫画などいろいろな表現方法が存在します。視覚障害者の方々のためにどのように表現されているのか、とくに漫画では絵の部分の表現方法が気になり、少しだけ調べました。どうも、点字で絵を表す場合があるようです。音訳する場合もあるかもと思い、こちらも簡単ではありますが調べたところ、生来的に失明している人と途中で失明している人とで、色の認識なども異なったりするので、状況に応じてどこまで伝えるか変えて種々工夫がなされているようです。
令和6年度 日本弁理士会著作権委員会委員
弁理士 川添 昭雄
※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。
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