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日常生活の著作権

地図と著作権

弁理士の著作権情報室

1.はじめに


たとえば日本のどこかでカフェやパン屋さんを開業しようと思って、ホームページを作り、さあお店の場所を知ってもらおうと地図を準備しようとすることがあると思います。

このような場合に地図をどうするか。GoogleマップやYahoo! JAPAN地図をトレースすることが手っ取り早いように思えますが、著作権法上問題ないでしょうか。

地図と著作権

2.地図の著作物性


著作権法上、思想又は感情を、創作的に、表現したもので、文芸・学術・美術又は音楽の範囲にあるものが「著作物」とされています。

地図は、平面上に実在している建物と道路・線路等を配置したにすぎないもので、一見、「創作的」でないようにも見えますが、そうではありません。実在しているものを記載するので工夫できる範囲は少ないですが、書かれたもの(表現物)に、地図作成者の考えや気持ちが反映されていることから、単に建物と道路・線路を記載したものであっても創作性が認められます。

さきほどの例としてのGoogleマップやYahoo! JAPAN地図では、どちらの地図もぱっと見同じように見えますが、実際に比べてみると、それぞれ見やすさ・使いやすさなどを考えて工夫が施されています。

例えば、Googleマップでは、建物の場所の目印として、風船マーク・吹き出しマークのような形を使って、統一して表示しており、また、地下街と地上階は明確な境目がないような仕様になっています(本原稿作成時の仕様)。

他方、Yahoo! JAPAN地図の場合は、建物の場所の目印として、コンビニ、ガソリンスタンド、一部の飲食店についてはその店のロゴが使われていたり、また、駅名は他の文字より大きめに記載されていたり、さらに、「屋内」用の表示に変更すれば地下街と地上階を明確に区別できたりします(本原稿作成時の仕様)。

このように、地図をどのように分かり易く表現するか等というのは、会社(あるいは人)によって異なり、この部分は創作性と思われる部分であり、許諾等なく、GoogleマップやYahoo! JAPAN地図の地図をトレースすることは著作権法上問題ありです。

著作権法でいう「創作」はGoogleマップやYahoo! JAPAN地図のように高尚なものでなくとも、地図作成者の考えや気持ちが表現されていれば著作物として認められます。

単に、幼いこどもが建物、道路、線路などを書いたものであっても、どれを書かない、どれを書くといったことはその子どもの考えによるもので、程度は低いかもしれませんが、創作性はあるといえ著作物になりえます。
ご自身で、カフェやパン屋さんへの道を示すために地図を作成した場合にはその地図に著作権が発生します。

3.地図の著作物性についての判例


実際、過去の裁判例では以下のように述べられています。

「一般に、地図は、地球上の現象を所定の記号によつて、客観的に表現するものにすぎないものであつて、個性的表現の余地が少く、文字、音楽、造形美術上の著作に比して、著作権による保護を受ける範囲が狭いのが通例ではあるが、各種素材の取捨選択、配列及びその表示の方法に関しては、地図作成者の個性、学識、経験等が重要な役割を果たすものであるから、なおそこに創作性の表出があるものということができる。そして、右素材の選択、配列及び表現方法を総合したところに、地図の著作物性を認めることができる。」(判決文の一部そのまま)(昭和46年(ワ)第33号事件。富山市住宅地図事件)

また、少し表現が変えられていますが、以下のように述べるものもあります。

「一般に、地図は、地形や土地の利用状況等を所定の記号等を用いて客観的に表現するものであって、個性的表現の余地が少なく、文学、音楽、造形美術上の著作に比して創作性を認め得る余地が少ないのが通例である。それでも、記載すべき情報の取捨選択及びその表示の方法に関しては、地図作成者の個性、学識、経験、現地調査の程度等が重要な役割を果たし得るものであるから、なおそこに創作性が表われ得るものということができる。」(平成11年(ワ)第13552号事件。ふぃーるどわーく多摩事件)

そして、ご自身で地図を作成するにあたっては、他人のものを参考にしたとしても本質的な特徴を直接感得等できないようなものであれば、複製権の侵害にはならないとされます。

前掲の裁判例のうち、富山市住宅地図事件で以下のように述べられています。

「著作権侵害の成否を判断するに際し、一般に新たに作成された著作が、既に存在する他人の著作物に依存することなく、独自に創作されたものであれば、結果的に他人の著作物と同一になることがあつても、著作権侵害とはならないのであるが、新著作が他人の著作物を基本として作成された場合であつても、そこに独自の創作性が加えられた結果、通常人の観察するところにおいて、旧著作の著作物としての特徴が、新著作の創作性の陰にかくれて認識されないときは、新著作は単なる複製でも二次的著作物でもなく、他人の著作物の自由な利用により創作された独自の著作物であると認められ、著作権侵害とはならないというべきである。」(判決文の一部そのまま)

令和3年度 日本弁理士会著作権委員会委員

弁理士 川添 昭雄

※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。

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