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日常生活の著作権

書籍のPDF化(いわゆる「自炊」)を代行することは私的使用のための複製にあたるかついて〜自炊代行事件〜

弁理士の著作権情報室

知財高裁平成25年(ネ)第10089号平成26年10月22日判決
(原審)東京地裁平成24年(ワ)第33525号平成25年9月30日判決

著作物の無断複製は著作権者が有する複製権を侵害することになります。しかし、私的使用のためになされる複製は例外的に許容されています。この事件では、この私的使用のための複製を外部の代行業者が行うことが適法かどうかについて争われました。

書籍のPDF化(いわゆる「自炊」)を代行することは私的使用のための複製にあたるかついて〜自炊代行事件〜

事件の概要


本件は、小説家、漫画家又は漫画原作者である被控訴人(一審原告)らが、控訴人(一審被告)は、顧客から電子ファイル化の依頼があった書籍について、著作権者の許諾を受けることなく、スキャナーで書籍を読み取って電子ファイルを作成し(スキャンないしスキャニング)、その電子ファイルを顧客に納品しているところ、注文を受けた書籍には、原告作品が多数含まれている蓋然性が高く、今後注文を受ける書籍にも含まれる蓋然性が高いから、被控訴人らの著作権(複製権)が侵害されるおそれがあるなどと主張し、複製行為の差止及び不法行為に基づく損害賠償を求めました。

原判決(東京地裁)では、控訴人の行為は被控訴人らの著作権を侵害するおそれがあり、著作権法30条1項(以下参照)の私的使用のための複製の抗弁も理由がなく、差止めの必要性を否定する事情も見当たらないとして、差止請求を認容するとともに、不法行為に基づく損害賠償請求を一部認容しました。このため、控訴人らがこれを不服として控訴しました。

この事件では、控訴人(一審被告)が私的使用のための複製に該当するかが争点の一つとして争われました。

著作権法の規定


第30条 著作権の目的となっている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
(以下略)

裁判所の判断


裁判所は、「著作権法30条1項は、①『個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とする』こと、及び②『その使用する者が複製する』ことを要件として,私的使用のための複製に対して著作権者の複製権を制限している。」と前置きした上で、まず、控訴人(一審被告)が「営利を目的として,顧客である不特定多数の利用者に複製物である電子ファイルを納品・提供するために複製を行っているのであるから,『個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とする』ということはでき」ないとして上記①の要件を満たさないと判断しました。また、控訴人が「複製行為の主体であるのに対し,複製された電子ファイルを私的使用する者は利用者であることから,『その使用する者が複製する』ということはでき」ないとして上記②の要件をも満たさない、と判示し、結論として、私的使用のための複製であるとの控訴人(一審被告)の抗弁を退けました。

この判決では、控訴人を「利用者の『補助者』ないし『手足』と認めることはできないから,控訴人らの上記主張はそもそも前提となる事実を欠き,採用することができない。」として、いわゆる「手足論」を排除するとともに、著作権法30条1項の趣旨からも逸脱するものであるとして、著作権を侵害するとした第一審の判断を維持しました。

留意点


この知財高裁判決は、著作権法30条1項について「個人の私的な領域における活動の自由を保障する必要性があり,また閉鎖的な私的領域内での零細な利用にとどまるのであれば,著作権者への経済的打撃が少ないことなどに鑑みて規定されたものである。」と指摘しつつ、「同条項の要件として,著作物の使用範囲を『個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とする』(私的使用目的)ものに限定するとともに,これに加えて,複製行為の主体について『その使用する者が複製する』との限定を付すことによって,個人的又は家庭内のような閉鎖的な私的領域における零細な複製のみを許容し,私的複製の過程に外部の者が介入することを排除し,私的複製の量を抑制するとの趣旨・目的を実現しようとしたものと解される。」という趣旨を明らかにした点で意義があると言えます。

この判決から、たとえ本判決と酷似するとまでは言えない事案であっても、その私的使用のための複製の過程に外部の者が介入する結果、複製の量が増大し、私的複製の量を抑制するとの著作権法30条の趣旨・目的が損なわれ、著作権者が実質的な不利益を被るおそれがあるとすれば、「その使用する者が複製する」との要件を充足しない(=著作権が制限されないため無許諾複製は違法)という結論になりうることが予想されます。違法行為に加担しないよう、自炊を行う場合にはご自身で行うようにしましょう。

令和4年度 日本弁理士会著作権委員会委員

弁理士 伊藤 大地

※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。

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