キャッチコピー・キャッチフレーズ・標語など が似てても大丈夫?
著作権侵害
他人のキャッチコピー等を無断で利用(複製、翻案等)すると、(A)他人のキャッチコピー等に著作物性があり、(B)自分が使用したキャッチコピー等が他人のキャッチコピー等をもとにしており(たとえ無意識であれ)(依拠性),(C)それが他者のキャッチコピー等と同一または類似(類似性)していれば、著作権侵害が成立します。ここでは、キャッチコピー等で特に問題となる著作物性について、2つの事件を例に説明します。
著作権侵害については、弁理士の著作権情報室:Q:どんなことをしたら著作権(著作財産権)侵害になるの?をご参照ください。
著作物性について
「著作物」とは、著作権法2条1項1号により、『(a)思想又は感情を(b)創作的に(c)表現したものであって、(d)文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの』と定義されています。キャッチコピー・キャッチフレーズ・標語などは、思想又は感情を文字で表現したものであり、言語に係るものであることから、(a)、(c)及び(d)の要件は満たしており、2つの事件では(b)の創作性が問題となりました。
創作性について
現在の通説(一般に認められている説)では、創作性が認められるためには何らかの個性が表れていればよいとされ、緩やかに解釈されており、誰がやっても同じになるほどにありふれた表現でないこと、すなわち、他と異なる何らかの工夫が凝らされているものである限り、個性が表れているとして創作性を認めています。従って、児童のお絵描き・日記や書簡も保護されます。これは、文化の世界は、技術のように進歩・発展していくというものではなく、むしろ、多種多様な表現物が存在すること自体に価値があり、従って、客観的にみて著作者の個性が表れていないことが明らかな場合を除いて、広く創作性を認めるべきとされる考えに沿ったものです。2つの事件では、創作性がどう判断されたのでしょう。
事例1
原告(訴えた人)が使用していたキャッチフレーズは、1「音楽を聞くように英語を聞き流すだけ 英語がどんどん好きになる」、2「ある日突然、英語が口から飛び出した!」、3「ある日突然、英語が口から飛び出した」です(2と3の違いは最後の「!」の有無)。被告(訴えられた人)が使用していたキャッチフレーズは、(1)「音楽を聞くように英語を流して聞くだけ 英語がどんどん好きになる」(2)「音楽を聞くように英語を流して聞くことで上達 英語がどんどん好きになる」(3)「ある日突然、英語が口から飛び出した!」(4)「ある日、突然、口から英語が飛び出す!」です。裁判では、原告のキャッチフレーズ1については、「17文字の第1文と12文字の第2文からなるものであるが、いずれもありふれた言葉の組合せであり、それぞれの文章を単独で見ても、2文の組合せとしてみても、平凡かつありふれた表現というほかなく、作成者の思想・感情を創作的に表現したものとは認められない」として創作性を否定しました。原告のキャッチフレーズ2については、「キャッチフレーズのような宣伝広告文言の著作物性の判断においては,個性の有無を問題にするとしても,他の表現の選択肢がそれほど多くなく,個性が表れる余地が小さい場合には,創作性が否定される場合があるというべきである」とした上で、「五七調風の語調の利用や,商品を主語とした表現の採用自体は,アイデアにすぎない」とし、控訴人キャッチフレーズ2は、「他の表現の選択肢が限られていることをうかがわせるものである。このような意味において,控訴人キャッチフレーズ2における語句の選択は,ありふれたものということができる」として、創作性を否定しました。結果、著作物性は否定され、著作権侵害は認められませんでした。
事件2
これは、交通標語に関する事件です。原告のスローガンは,「ボク安心 ママの膝(ひざ)より チャイルドシート」という交通標語であり、被告のスローガンは,「ママの胸より チャイルドシート」という交通標語です。裁判では、「交通標語の著作物性の有無あるいはその同一性ないし類似性の範囲を判断するに当たっては,(1)表現一般について,ごく短いものであったり,ありふれた平凡なものであったりして,著作権法上の保護に値する思想ないし感情の創作的表現がみられないものは,そもそも著作物として保護され得ないものであること,(2)交通標語は,交通安全に関する主題(テーマ)を盛り込む必要性があり,かつ,交通標語としての簡明さ,分りやすさも求められることから,これを作成するに当たっては,その長さ及び内容において内在的に大きな制約があること,(3)交通標語は,もともと,なるべく多くの公衆に知られることをその本来の目的として作成されるものであることを,十分考慮に入れて検討することが必要となるというべきである。そして,このような立場に立った場合には,交通標語には,著作物性(著作権法による保護に値する創作性)そのものが認められない場合も多く,それが認められる場合にも,その同一性ないし類似性の認められる範囲(著作権法による保護の及ぶ範囲)は,一般に狭いものとならざるを得ず,ときには,いわゆるデッドコピーの類の使用を禁止するだけにとどまることも少なくないものというべきである。」とし、『「ボク」,「ママ」及び「チャイルドシート」という三つの語句は,チャイルドシートに関する交通標語において,使用される頻度が極めて高い語句であると推認することができる。』とした上で、『このようにみてくると,原告スローガンに著作権法によって保護される創作性が認められるとすれば,それは,「ボク安心」との表現部分と「ママの膝(ひざ)より チャイルドシート」との表現部分とを組み合わせた,全体としてのまとまりをもった5・7・5調の表現のみにおいてであって,それ以外には認められないというべきである。』と判示しました。結果、原告の交通標の著作物性は認められましたが、類似性は否定され、著作権侵害は認められませんでした。
まとめ
創作性の判断について、事例1おいては、いずれのキャッチフレーズもありふれたものとして、創作性が否定されました。事例2おいても、ありふれたもの等は、創作性が否定されるという前提に立った上で、「全体としてのまとまりをもった5・7・5調の表現のみ」
にだけは創作性を認めています。キャッチフレーズ等に著作物性が認められることは多くはないと思いまがすが、事例2ように認められることもあります。なるべく、自分の言葉でキャッチフレーズ等を作成するようにしましょう。
<参考文献>
1.東京地裁平27・3・20(スピードラーニング事件)
2.知財高判平27・11・10(スピードラーニング事件)
3.東京高判平13・10・30(交通標語事件)
4.島並良・上野達弘・横山久芳共著「著作権法入門」第3版
令和7年度 日本弁理士会著作権委員会委員
弁理士 上田 精一
※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。
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