ビジネスの著作権

著作物に該当しない情報の模倣は一切自由?

弁理士の著作権情報室

著作権法上の著作物に該当しない情報は、著作権法による保護を受けることはできません。したがって、著作物に該当しない情報を無断で模倣しても、著作権侵害の責任を負うことはありません。しかしながら、著作物に該当しない情報のなかには、著作物と同様、場合によってはそれ以上に、情報の生産において相応の投資がなされ、経済的・商業的価値があり、社会的に有用なものがあります。こういった情報を無断で模倣した場合、違法となってしまい、何らかの責任を負うリスクはまったくないのでしょうか?

著作物に該当しない情報の模倣は一切自由?

考え方


著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいうところ(著作権法2条1項1号)、著作物に該当しない情報を無断で模倣し、これによって、情報の生産者に損害を与えた場合、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償責任を負うリスクがないかが問題となります。

この点については、2つの立場があるとされています。

1つは、著作権法は、保護すべき情報をすべて保護できているわけではないという考え方に基づき、当事者の利益バランスを考慮して、柔軟に不法行為の成立を認め、妥当な解決を図っていくべきとする立場です。

もう1つは、著作権法は、情報の生産者と利用者のバランスを踏まえ、保護すべき情報を適切に保護しているという考え方に基づき、著作物に該当しない情報については、原則として、法的に保護すべきではなく、無断で模倣されても、不法行為の成立を認めるべきではないとする立場です。この立場であっても、情報の模倣が、自由競争の範囲を逸脱し、情報の生産者の営業を妨害して、その営業上の利益を侵害しているような場合には、例外的に不法行為の成立を認めることになります。

北朝鮮事件最高裁判決


この点に関連する最高裁判決があります。わが国の著作権法の保護を受けることができないとされる北朝鮮の国民の著作物の利用行為が問題となった北朝鮮事件最高裁判決(最高裁平成23年12月8日判決)であり、最高裁は、わが国の著作権法の保護を受けることができない著作物の利用行為は、著作権法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り、不法行為を構成するものではない旨述べました。

北朝鮮事件最高裁判決は、わが国の著作権法の保護を受けることができない著作物についての判断ですが、著作物には該当しない情報についてもあてはまると考えられています。

最高裁は、上述した2つの立場のうち、後者の立場に立つものと考えられます。

最近の裁判例


北朝鮮事件最高裁判決以前は、不法行為の成立を認めた裁判例が散見されました。これに対し、北朝鮮事件最高裁判決以降は、不法行為の成立を否定する裁判例が続きました。もっとも、最近、不法行為の成立を認めた裁判例がいくつか現れましたので、以下でご紹介致します。

バンドスコア事件


本件は、被告が原告の製作・販売に係るバンドスコア(楽譜)を無断で模倣し、ウェブサイトにおいて無料で公開し、広告料収入を得ていたところ、かかる被告の行為により、原告においてバンドスコアの販売冊数が減少し、営業上の利益を侵害されたとして、原告が被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求を行った事件です。

原告は、本件において、著作権侵害の主張をしていませんが、バンドスコアは著作物には該当しないと考えたためではないかと思われます。バンドスコアは、音楽の著作物の複製であり、創作性がないため、著作物には該当しないと考えられます。なお、本件においては、原告においても被告においても、楽曲自体については利用許諾を得ていたものと思われます。

東京高裁令和6年6月19日判決は、上述した北朝鮮事件最高裁判決を引用したうえで、「他人が販売等の目的で採譜したバンドスコアを同人に無断で模倣してバンドスコアを制作し販売等する行為については、採譜にかける時間、労力及び費用並びに採譜という高度かつ特殊な技能の修得に要する時間、労力及び費用に対するフリーライドにほかならず、営利の目的をもって、公正かつ自由な競争秩序を害する手段・態様を用いて市場における競合行為に及ぶものであると同時に、害意をもって顧客を奪取するという営業妨害により他人の営業上の利益を損なう行為であって、著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するものということができるから、最高裁平成23年判決のいう特段の事情が認められるというべきである。」と述べ、不法行為の成立を認めるべき特段の事情があるとして、不法行為の成立を認めました。

棋譜情報事件


本件は、原告が、被告の配信する将棋の実況中継に基づいて、将棋の指し手(棋譜情報)を含む動画をグーグルの運営するユーチューブ等においてリアルタイムで無料配信して収益を上げていたところ、被告が原告の動画配信は被告の著作権を侵害する旨の申告をグーグル等に行ったため、原告は、被告の申告行為が不正競争防止法2条1項21号の不正競争にあたるとして、被告の申告行為の差止め等を求めた事件です。

被告は、訴訟においては、棋譜情報が著作物にあたり、原告の動画配信が著作権侵害にあたるとの主張は行わず(なお、棋譜情報が著作物にあたるかどうかを判断した裁判例はないようであり、肯定説も否定説もあるようです。)、原告の動画配信が不法行為を構成するため、被告の申告行為は、原告の営業上の利益を侵害するものでななく、不正競争防止法2条1項21号の不正競争にあたらないとの主張を行いました。

大阪高裁令和7年1月30日判決は、概ね以下のように述べて、原告の動画配信は不法行為を構成するため、被告の申告行為は、原告の営業上の利益を侵害するものでななく、不正競争防止法2条1項21号の不正競争にあたらないと判断しました。
(1)棋戦を主催する日本将棋連盟が棋戦を配信する権利を被告に許諾することにより、棋戦の開催・運営費用を賄い、被告は、有償配信により、負担した協賛金等を回収するとともに、利益を上げることを目指すというビジネスモデルが採用されている。原告の動画配信は、被告の配信から得たリアルタイムの棋譜情報を無料で提供するものであって、被告に直接的に損害を生じさせ、当該ビジネスモデルの成立を阻害しうる。
(2)原告は、他の動画配信者がリアルタイムでの棋譜情報を配信しないなかで、被告のような多額の費用負担を行うことなく、リアルタイムでの棋譜情報を配信し、収益を上げており、競争の枠外の行為をしている。
(3)少なくとも被告が棋戦をリアルタイムで配信するまさにそのときになされた原告による棋譜情報を含む動画配信は、自由競争の範囲を逸脱して被告の営業上の利益を侵害するものとして違法性を有し、不法行為を構成する。

まとめ


以上のとおり、著作権法上の著作物に該当しない情報については、上述した北朝鮮事件最高裁判決によると、原則として、無断で模倣したとしても、不法行為にはならないと言えます。しかしながら、情報の模倣が、自由競争の範囲を逸脱し、情報の生産者の営業を妨害して、その営業上の利益を侵害している場合など、著作権法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害している場合には、例外的に、不法行為になる可能性があることに注意が必要です。

参考文献


島並良 上野達弘 横山久芳著 著作権法入門 第4版 有斐閣
判例時報 2620号 59頁

令和7年度 日本弁理士会著作権委員会委員

弁護士・弁理士 篠森 重樹

※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。

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