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著作権侵害物品を水際で差止めるには?

弁理士の著作権情報室

差止手続きは税関へ


著作物に係るキャラクター等を無断で使用した商品や海賊版DVD等、いわゆる著作権侵害物品(模倣品)を水際(日本への輸入時又は日本からの輸出時)で差止めたい場合、税関に対して差止手続きを執ることを申立てる「輸入(輸出)差止申立て」を行うことができます。差止申立ては、原則として、著作権者又は著作権者から著作権の譲渡を受けた者のみが申立人として行うことができます。申立てが受理されると、税関側において、侵害の疑いがある貨物が発見された場合に、その貨物が本当に侵害品に該当するのか否かを判断する、「認定手続」が開始されるようになります。「認定手続」が開始されると、税関は、権利者、輸入者(輸出者)双方の意見を求めて侵害の有無を判断します。「認定手続」で侵害認定となった場合は、当該貨物が没収され、廃棄となります。以下、「輸入(輸出)差止申立て」の手続きについて詳しく説明していきます。

著名なキャラクターに係る商品等の模倣品については、申立てがなくとも税関の職権で差止められることがありますが、通常は、まず税関に対して輸入差し止め手続き又は輸出差止手続きを執ることを申し立てるための申立て相談を行うことが必要となります。申立て相談は、全国に9つある税関本関(函館、東京、横浜、名古屋、大阪、神戸、門司、長崎、沖縄地区)のいずれでも行うことができます。

著作権侵害物品を水際で差止めるには?

差止申立てに必要な書類


差止申立てを行うためには、税関に対して①差止申立書、②侵害疎明資料(又は鑑定書)、③識別ポイント、④権利の発生を証明すべき資料等、の書類を提出することが必要となります。

①の差止申立書は、差止を申立てるための書類であり、税関のホームページに掲載された様式に従って作成します。

②の侵害疎明資料は、差止対象品が自己の著作権を侵害することを疎明(※1)するための書類であり、税関が差止申立ての受理・不受理を判断する上で最も重要視する書類です。文章だけでなく、わかりやすいように図面や写真を多用して構いません。これは自己で作成したものでも構いませんが、専門的な知識を要することから、専門家である弁護士や弁理士に作成を依頼するのが望ましいです。

③の識別ポイントは、現場の税関職員が多くの貨物の中から疑義貨物を見つける際に参考とする書類です。侵害疎明資料とは別に、差止対象品の外観上の特徴(パッケージや包装の特徴)、品番・型番等の事項を記載します。また、真正品が存在する場合には、真正品と比較する形で侵害品にしか見られない外観上の特徴等を記載します。この識別ポイントは税関職員以外には不開示とされます。

④の権利の発生を証明すべき資料は、差止対象品に係る著作物について自己が著作権を所有することを証明するための資料です。著作権の場合は、特許権、商標権等と異なり、権利の存在を確認できる登録原簿といった制度がないため、差止対象品に係る著作物が、自己が創作した著作物であり、その著作権が自己に帰属することを示す資料、あるいは原著作権者から差止対象品に係る著作権の譲渡を受けたことを示す資料等を提出する必要があります。

これらの書類は当初から完全なものを提出しなくともよく、通常は、税関との間でドラフトのやり取りを複数回行い、税関側から修正や資料補充等についてのアドバイスを受けながら提出できる形に仕上げていきます。

差止申立てに関し、税関に対して費用はかかりません。ただし、弁護士や弁理士に手続き全般の代理を依頼する場合や侵害疎明資料(鑑定書)の作成を依頼する場合は、別途代理人費用がかかることがあります。

差止申立てが受理されるための要件


差止申立てを行うために必要な書類は上記のとおりですが、上記の書類を提出した上で、税関側で差止申立てを「受理」と判断するために、(1)権利者であること、(2)権利の内容に根拠があること、(3)侵害の事実があること、(4)侵害の事実が疎明されていること、の4つの要件が求められます。

(1)については、著作権の場合は権利の発生に何の手続きも要さないため、権利の発生を示す証拠、自己が権利者であることを示す証拠を予め用意しておき、自己が権利者であることの十分な主張を行うことが必要です。

(2)について、差止申立てが「受理」された場合の有効期間は最長4年ですが、例えば残り1年で権利の存続期間が満了する場合は、1年分しか差止申立てをすることが出来ません。差止申立ての内容が権利の内容に応じたものであることが必要となります。

(3)については、現に国内で侵害品が出回っているという事実がなくとも、例えば中国で侵害品が出回っており、近いうちに侵害品が国内に入ってくる可能性が高い、といった事実であっても大丈夫です。

(4)については、税関では侵害の疎明が十分であるか否かで受理・不受理の判断を行うため、当事者にとって自明な部分であっても十分な疎明を行うことが必要となります。

その他、これは受理されるための要件ではありませんが、税関が侵害品を他の貨物と識別できることが重要となります。そのためには、上述の「識別ポイント」をしっかりと記載することが必要です。侵害品を識別できなければ、たとえ差止申立てが受理されたとしても実行性に欠けるものとなってしまいます。

著作権侵害物品の侵害疎明に際して留意すべきこと


税関に対する差止申立ては、著作権侵害物品だけでなく特許権侵害物品や商標権侵害物品など、各種知的財産侵害物品について行うことができますが、著作権の場合は、特許権や商標権等と異なり、権利の存在を示す登録原簿のようなものがありません。このため、著作権侵害物品に係る差止申立ての場合は、申立てに係る著作物に著作物性が認められること(著作権が存在すること)が前提となります。

例えば、申立てに係る著作物がキャラクターの図柄である場合(差止対象品がキャラクター商品等である場合)、侵害疎明資料の中でそのキャラクターの図柄に著作物性が認められることを記載する必要があります。誰もが知るような著名なキャラクターであれば容易に著作物性が認められますが、人をモチーフにしたキャラクターやシンプルなキャラクター等の場合には、そもそもそのキャラクターの図柄が著作物(絵画の著作物)に該当するのか否かが問題となります。著作物性を有するか否かの明確な基準は存在しませんので、著作物性が認められると税関が判断出来るよう侵害疎明資料の中で十分な主張を行うことが重要です。キャラクター商品等に係る差止申立てでは、当該キャラクターの著作物性が認められた上で、差止対象品に付された図柄の同一・類似性、及び依拠性が認められることが必要となります。

また、差止対象品が漫画を原作とするアニメの海賊版DVDである場合、アニメに係る映像作品は原作漫画から新たに付与された創作的部分であり二次的著作物となりますので、二次的著作物の著作権者(当該アニメの制作委員会など)も申立人となることができます。一方、原作漫画に登場するキャラクターの図柄を使用したキャラクター商品に係る侵害品の差止めに関しては、原作漫画に登場するキャラクターの図柄の複製権侵害、又は翻案権侵害となるので、原著作物である原作漫画の著作権者、即ち漫画家又は当該漫画家から原作漫画の著作権を譲り受けた者しか原則として申立人になることができません。

なお、いわゆる「商品化権者」については、特許法等における「専用実施権者」と同視できるものではなく、差止請求権は認められないため、原則として申立人になることができません。

差止申立てがされた後の流れ


差止申立てが受け付けられると、税関ホームページ上に差止申立ての内容が公表されます。税関は、公表後速やかに、その差止申立てについて「受理」又は「不受理」のいずれかの決定をします。なお、税関ホームページ上での公表中に利害関係者から意見が提出された場合、当事者間で訴訟等が係属中である場合、税関では侵害か否かの判断が困難である場合には、専門委員に意見を聴取する専門委員意見照会が行われることがあります。専門委員意見照会が行われると、税関は専門委員の多数意見に応じて「受理」、「不受理」を決定します。なお、当事者間で訴訟等が係属中である場合等には、その判決等が出るまで「受理」、「不受理」の決定を「保留」との判断がなされることがあります。

差止申立てが受け付けられてから「受理」、「不受理」の決定・通知がなされるまでに、通常は一ヶ月程度、専門委員意見照会が行われた場合には三ヶ月程度かかります。差止申立ての「受理」の決定が通知されると、税関内ネットワークに情報が掲載され、全国で取り締まりが開始されます。

まとめ


筆者自身、東京税関の知的財産センターに5年間在籍し、知的財産侵害物品の水際差止めに関わってきました。税関では、少しでも多くの模倣品が国内へ流入、あるいは国外へ流出することを防ぐという公益的な観点から、知的財産侵害物品の水際差止めに当たっています。そのため、権利者側からの積極的な申立てが、現場で関わっている税関職員のモチベーションアップにも繋がります。権利者の皆様におかれましては、税関における差止申立て制度を積極的に活用して頂ければと思います。

(※1)「疎明」とは、一応確からしいと判断することができる状態とされていますが、税関側として水際差止業務に携わってきた筆者の実感としては、税関は財産権の没収という強大な公権力を行使できるため、侵害有無の判断に際しては慎重をきたす必要があり、税関での差止申立手続きにおける「疎明」は、むしろ「証明」(真実らしいと確信を抱かせる状態)に近いレベルのものが求められるように思います。

令和4年度 日本弁理士会著作権委員会委員

弁理士 松本 了一

※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。

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