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ビジネスの著作権

スピーカーの開発過程において、音質試験のために著作権者の許諾を得ずに音楽を流した場合、著作権侵害となりますか?

弁理士の著作権情報室

A:その音質試験が、会場に一般の人々を招待して行うような場合は、試験のための利用であると同時に、一般の人々は著作物に表現された思想又は感情を享受しているため、著作権侵害となる可能性があります。一方、開発員のみがスピーカーの音質を確認するためにその音楽を聴くのであれば、「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない行為」となり、著作権が制限されるため、著作権侵害とはなりません。

以下、著作権侵害となる場合と著作権者の権利が制限される場合(著作権侵害とはならない。)の考え方について解説します。

著作権侵害と権利制限規定


著作権法では、著作物の利用行為(下記、①~⑪)を規定し、著作権者から許諾を得ることなくそれらの利用を行った場合は著作権侵害に該当すると規定しています。

著作物の利用の類型
 ①複製、②上演及び演奏、③上映、④公衆送信・伝達、⑤口述、⑥展示、
 ⑦頒布、⑧譲渡、⑨貸与、⑩翻訳・翻案、⑪二次的著作物の利用

しかし、あらゆる利用行為について常に著作権者からの許諾が必要であるとすると、著作物の公正な利用を図ることができなくなる恐れがあります。そこで、著作権法では一定の場合に著作権を制限し、著作権者の許諾を得ることなく著作物を利用することができるような規定(権利制限規定)を多数設けています。そして、「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用」は著作権者の権利が制限される規定の一つです。

著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用


「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用」の場合には、つまり、著作物に表現された価値を享受しない利用の場合であれば、著作権者に許諾を受けていなくても、その著作物を利用することができます。

 利用できる場合の典型例として以下のものがあります。
 ①技術の開発等のための試験の用に供する場合
 ②情報解析の用に供する場合
 ③人の近くによる認識を伴うことなく電子計算機による情報処理の過程における利用等に供する場合
 ④①~③以外の場合であっても、著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない場合

但し、①~④に該当する場合であっても、必要と認められる限度での利用でなければならず、且つ、著作権者の利益を不当に害する場合は権利制限の対象とはなりません。つまり、利用に際しては、著作権者の許諾を得る必要があるということになります。

「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない行為」の具体例


それでは、「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない行為」にはどのようなものがあるのでしょうか。文化庁は、以下のような具体例を挙げています。

・人工知能の開発に関し人工知能が学習するためのデータの収集行為、人工知能の開発を行う第三者への学習用データの提供行為
・プログラムの著作物のリバース・エンジニアリング
・美術品の複製に適したカメラやプリンターを開発するために美術品を試験的に複製する行為や複製に適した和紙を開発するために美術品を試験的に複製する行為
・日本語の表記の在り方に関する研究の過程においてある単語の送り仮名等の表記の方法の変遷を調査するために,特定の単語の表記の仕方に着目した研究の素材として著作物を複製する行為
・特定の場所を撮影した写真などの著作物から当該場所の3DCG映像を作成するために著作物を複製する行為
・書籍や資料などの全文をキーワード検索して,キーワードが用いられている書籍や資料のタイトルや著者名・作成者名などの検索結果を表示するために書籍や資料などを複製する行為
(文化庁著作権課「デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定に関する基本的な考え方」参照)

これらの行為は、いずれも著作物に表現された価値を享受しない利用に該当するため、著作権者の許諾を得ることなく利用をすることが可能です。

「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない行為」に該当するかの判断基準


著作物の利用行為が「享受」を目的としているか否かは、著作物等の視聴等を通じて、視聴者等の知的・精神的欲求を満たすという効用を得ることに向けられた行為であるか否かという観点から判断すると考えられます。(文化庁著作権課「デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定に関する基本的な考え方」参照)

したがって、上述した具体例以外であっても、「享受」を目的としていなければ、著作権者の許諾を得ることなく利用をすることが可能です。

こうした判断基準については、今後具体例が蓄積していくことによって、より明確になっていくものと考えられます。

令和3年度 日本弁理士会著作権委員会委員

弁理士 大沼 加寿子

※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。

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