注目判例・法改正・書評

アメリカ著作権法(アメリカ法ベーシックス 15)

弁理士の著作権情報室

[著] 安藤 和宏(2025年6月・弘文堂発行)

アメリカ著作権法(アメリカ法ベーシックス 15)

https://www.koubundou.co.jp/book/b10133547.html

1. どんどん読みたくなる衝撃の渾身作


米国は、世界随一のエンタメ大国であり、我が国との交流も盛んであるため、米国著作権法への理解はことに重要である。しかし、我が国の著作権法と比較すると、法目的のみならず、随所において異なるところが少なくなく、しかしさほど日本語文献が充実している分野でもないため、本書の刊行は実務家にとっても企業担当者にとっても朗報でしかない。

本書を読み進めてまず感じるのは、ハードカバーの装丁からは想像もつかないほどにソフトな文体で、あたかも読者に語りかけるように書されていることだ。このため、米国法や著作権法に必ずしも明るくない読者であっても、きっとどんどん読み進めることでできる。

しかしソフトな文体であることとは裏腹に内容は骨太だ。随所で日本法との差異に触れられているため、日本の著作権法の知識がある読者であれば、比較法的な視点で立体的に理解を進めることができるだろう。

2. 本書の内容


我が国の著作権法や特許法に慣れ親しんだ方であれば、米国において連邦法として制定するために必要となる憲法上の根拠規定が共通であるため、著作権法も特許法も共に「学術および有用な技芸の進歩を促進する」という法目的であることに驚かれるのではないだろうか。

本書は、全14章からなり、まずは米国の裁判制度から著作権法の歴史と、導入の解説がなされる。これに続き、保護要件や登録制度、保護対象、権利主体、移転・利用、保護期間と、制度の骨格となる部分の解説におよそ100ページを丁寧に割き、その後260ページ超にわたり、米国の特徴的な制度や個別の論点について詳細な解説がなされる。

基本的な流れは統一感のあるスタイルで、各項目の歴史的経緯を踏まえた制度解説のうえで関連する裁判例を列挙するものだ。しかし、過去にあった事件をただ列挙するに留まらず、それぞれの裁判がどのような流れで起きたものであるのか、そしてその位置付け・実務的・学術的な評価を丁寧に論じているため、個別事件の解決手段である裁判が、実は水面下でのちに起こる事件における判断に影響を与えていることをつぶさに知ることができる。

また、周知の通り米国著作権法には日本法には存在しない「フェアユース」規定があり、兎角この点ばかりが取り沙汰されがちであるが、本書では他の権利制限規定についても詳細に解説されている。権利制限規定ばかりではなく、その前提となる利用行為が米国法では日本法における支分権ほどに細かく規定されていないながらも十分に機能していることも解説されており、同じ著作物が国境を越えてどのように保護されるのかを知る意味でも学びとして大きい。

加えて、日本法には設けられていない「終了権」や「破壊防止権」、「法定損害賠償」、「DMCA」といった特徴的な制度について独立した章として詳しく解説されており、著作物の保護のあり方の多様性を感じられるとともに、我が国の実務への示唆に富むといえる。しかし一方で、エンタメ大国の米国では実演家の権利が著作権法で規定されておらず、その保護に契約法のみならず商標法(ランハム法)まで用いられるというのだから驚かされたのは筆者だけではないだろう。

本書は、一度読むだけで米国著作権法の概略を掴むことができるものであるが、繰り返し目を通すことで、考え得る限りのツールを用いて事案解決に励む米国実務家の仕事ぶりに想像を膨らまし、法解釈の楽しさをより深く学ぶことができる唯一無二の良書であるといえよう。

3. むすびに


本書は、著者が20年を賭けて形にした、米国著作権法の概説書である。折しも近年は、生成AIが市場を席巻するとともに米国ではフェアユースに関する連邦最高裁判決が出るなど、米国著作権実務は今もなおダイナミックに躍動している。本書は、そんな米国著作権実務の最新事情までカバーしており、この意味でも、まさに今読むべき一冊といえる。

令和7年度 日本弁理士会著作権委員会委員

弁理士 伊藤 大地

※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。

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