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TPP協定の締結に伴う著作権保護の強化について

弁理士の著作権情報室

TPP協定を締結したことは多くの皆様がご存じかと思います。今回はTPP協定の締結に伴う著作権保護の強化について説明いたします。
TPP協定は締結の際に米国が交渉から脱退したことから、崩壊の危機に面しましたが日本政府の働きかけで、締結されて協定が発効しました。ただし、米国が協定から抜けた結果、11ヶ国になった為に「TPP11」と称されていますが、正式名称は、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(略称: CPTPP)です。そして、我国における知的財産関係の法律に関しても、特許法、商標法だけでなく著作権法も著作権保護の強化のために一部改正されましたので、我国の著作権保護の強化の内容について、以下に項目を挙げて説明いたします。

1.著作物等の保護期間の延長


これまで、著作物の保護期間は死後50年でしたが、これを70年に延長しました。また、無名・変名の著作物、団体名義の著作物の保護期間は公表後50年でしたが、これを70年に延長しました。これに伴い、実演の保護期間やレコードの保護期間も70年に延長しました。なお、映画の著作物の保護期間はすでに公表後70年になっています。
このように保護期間を延長することで、漫画やアニメ等の中長期的な著作権料収入の増加が期待されると共に、長期にわたって楽しまれる著作物等から得られる収益も増加することが期待されます。そして、保護期間を延長したことで、著作権保護の強化が図られましたが、この結果として、新たな創作活動やアーティストの発掘・育成が可能ともなりました。

TPP協定の締結に伴う著作権保護の強化について

2.著作権等侵害罪の一部非親告罪化


親告罪とされていた著作権等侵害罪のうちでも、以下の3つの要件に全て該当する場合に関しては非親告罪の対象とし、著作権者等の告訴がなくとも公訴を提起できるようになりました。
①対価を得る目的又は権利者の利益を害する目的があること
②有償著作物等について原作のまま譲渡・公衆送信又は複製を行うものであること
③有償著作物等の提供・提示により得ることが見込まれる権利者の利益が不当に害されること
例えば、販売中の漫画等の海賊版の販売や映画の海賊版を配信する等の行為については、3つの要件に全て該当し、非親告罪となるものと考えられ、海賊版対策の実効性が高まる形で著作権保護の強化が図られました。ただし、コミックマーケットにおける同人誌等の二次創作活動については一部の要件に該当しないと考えられ、非親告罪にならないことになります。この結果、二次創作活動の萎縮を抑えつつ海賊版対策の確実な実効が図られることが期待されます。

3.アクセスコントロールの回避等に関する措置


著作物等の視聴等を制限するアクセスコントロール技術を権限なく回避する行為について、一定の場合を除き、著作権等を侵害する行為とみなして民事上の責任を問い、また、このような技術の回避を行うゲーム機用の装置やプログラムの公衆への譲渡等を刑事罰の対象とすることとしました。
このようにアクセスコントロール技術を回避する行為自体や装置等の譲渡を侵害行為としたことで、正規版のソフトのみを実行可能にする技術が保護される結果、著作権者等の正当な利益の確保ができるようになりました。さらに民事上の責任が問えるだけでなく、一定の行為については刑事責任を問えるようになりましたので、著作権保護の強化が大きく図られたと言えます。

4.配信音源の二次使用に対する使用料請求権の付与


商業用レコードを用いて放送又は有線放送が行われた場合に加え、配信音源を用いて放送又は有線放送が行われた場合についても、実演家及びレコード製作者に放送事業者等に対する二次使用料請求権を付与することとしました。
これは、音楽配信サービスの普及に伴う配信音源(インターネット等から直接配信される音源)の二次使用の需要拡大に対応し、配信音源を用いて放送又は有線放送が行われた場合についても、実演家及びレコード製作者に放送事業者等に対する二次使用料請求権を付与するものです。

5.損害賠償に関する規定の見直し


従来の損害額に関する推定規定等に加え、侵害された著作権等が著作権等管理事業者(JASRAC等)により管理されている場合には、著作権者等は、当該著作権等管理事業者の使用料規程により算出した額を損害額として賠償を請求できることとしました。
著作権等管理事業者の使用料規程を基に損害額を算出できるようになったため、著作権等侵害に対する損害賠償請求に係る立証負担の軽減が図られる形で、著作権保護の強化がされたと言えます。

令和3年度 日本弁理士会著作権委員会委員

弁理士 飯塚 道夫

※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。

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