一見、職務著作になると見える著作物に注意!

1.職務著作になるかどうかは意外と不明確!
著作物に関しては、いわゆる職務著作の規定があることから、社員が職務として創作した著作物は、会社が著作者となって著作権・著作者人格権を有するとイメージされていることが多いと思われます。
しかし、実は、職務として創作された著作物が職務著作になると言えるかどうかは必ずしも明確でないことも多く、社員などとの間で争いになり、裁判において職務著作になるかどうかが争われるケースも多く見られます。
2.社内デザイナーとの関係を例として
(1)会社で職務として社内デザイナーが創作した著作物、例えば、独特なパンダのイラストについては、何となく、その著作者は職務著作になって社内デザイナーではなく、会社が著作者であるようなイメージを持たれている場合が多いのではないでしょうか。
しかし、実際、社内デザイナーが何らかの理由、特に社内デザイナーにとってネガティブな理由で会社を退職すると、その退職後に、パンダのイラストの著作者は私であると主張されてしまうことがあります。
この場合、社内デザイナーに著作権法の知識があまりないことから、パンダのイラストを創作したのは自分なのだから、創作した自分が著作者であると考えていることもあります。
パンダのイラストに関して、社内デザイナーが退職した後に自分が著作者であるとして争いになると、パンダのイラストが職務著作になるかどうかが問題になります。一応、以下のように職務著作の要件が解されていますが、裁判でどのように解釈されるかには揺れがあり、その個々の状況によっては会社の職務著作になるかどうかの判断が微妙になるケースもあり得ます。
(2)職務著作になるための要件としては、以下の5つの要件を備える必要があります。
1)法人その他使用者(以下この条において「法人等」という。)の発意に基づき作成されたこと
2)作成者が法人等の業務に従事する者であること
3)職務上作成した著作物であること
4)法人等が自己の著作の名義の下に公表するものであること
5)作成時の契約、勤務規則その他に別段の定めがないこと
なお、プログラムの著作物に関しては、前記(4)の要件は除外されています。
1)法人その他使用者(以下この条において「法人等」という。)の発意に基づき作成されたこと
<ポイント>
「法人等」との要件には、屋号の下に事業活動を行う個人事業における個人事業主及び法人(会社)が含まれるものと解されています。また、「法人等の発意」との要件は、必ずしも法人等からの具体的な指示又は承諾がない場合であっても、その法人等の業務に従事する者の職務の遂行上、その著作物の作成が予定されていればよいと解されています。
2)作成者が法人等の業務に従事する者であること
<ポイント>
「作成者が法人等の業務に従事する者」との要件には、法人等と雇用関係がある者が含まれ、法人の取締役も含まれていると解されています。また、必ずしも雇用関係があるとは言い切れない場合でもその実態によっては本要件を満たす場合があると解されています。
3)職務上作成した著作物であること
<ポイント>
「職務上作成した」との要件には、業務に従事する者に直接命令されたものの他に、業務に従事する者の職務上、予定又は予測される行為も含まれるものと解されています。
4)法人等が自己の著作の名義の下に公表するものであること
<ポイント>
「自己の著作の名義の下に」の要件における「著作の名義」は、著作権者ではなく著作者であることを示すことであると解されています。また、「公表するもの」とされていることから、「その公表が予定されているもの」も含まれるものと解されています。
5)作成時の契約、勤務規則その他に別段の定めがないこと
<ポイント>
本要件の判断基準時は著作物の「作成時」であり、その後の契約などによって取り決めを行った場合を含まないものと解されています。
これらのように一応は解釈されると思われますが、これらの解釈が絶対ではないことから、実際に、会社がパンダのイラストに関して社内デザイナーと争いになった場合には、各要件を備えるかどうかは具体的な事実に基づいて争うことになります。
(3)そこで、社内デザイナーとの関係で会社側に立った場合に、予め手当しておくとよいと思われる事項を、以下に一例として挙げます。
1)職務著作の場合には会社が著作者になることの就業規則などへの明記及び社内デザイナーへの説明
2)社内デザイナーとの間での職務範囲を示した雇用契約書又は覚書の作成
3)社内デザイナーに著作物の創作を指示する際の指示書の作成
4)パンダのイラストを公開する際には会社名だけで公表すること
5)社内デザイナーの退職時での、勤めていた間の職務上創作した著作物は職務著作であることの誓約書又は確認書などの作成
3.まとめ
事前に社内デザイナーとの著作者かどうかの争いを回避することを十分に検討しておかないと、思わぬところで、社内デザイナーに自分が著作者であると主張され、最悪、会社が著作者になれない場合も考えられますので、特に、会社の売上・利益に貢献する又は貢献している著作物については、前記のような事項などを参考にして職務著作になることの主張・立証ができるように予め検討・準備しておくことが肝要であると思われます。
令和7年度 日本弁理士会著作権委員会委員
弁理士 垣木 晴彦
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