弁理士の著作権情報室

判例から学ぶ!著作権の注意点

ピクトグラムは著作物として保護されるの? ~大阪市ローカルピクトグラム事件~ 大阪地判平成27年9月24日(平成25年(ワ)第1074号)

令和3年(2021年)7月23日に開催された東京オリンピックの開会式において、50種類の「オリンピックスポーツピクトグラム」を使ったパフォーマンスが披露されました。開会式の後もSNS上では独自のピクトグラムの投稿が相次ぐなど大きな話題を呼んでいます。

ピクトグラムとは、「視覚記号の一つである絵文字。ピクトグラフとも。非常口やトイレなどの施設や機能といった情報を、特定言語の文字を用いずに表現したもの。」(現代用語の基礎知識2021)とされています。

ところで、ピクトグラムは著作権法上、著作物として保護されるのでしょうか?
東京2020組織委員会は、Brand Protection Guidelines(大会ブランド保護基準)Version 5.0において、ピクトグラムをオリンピックシンボルや大会エンブレムなどとともに「知的財産として保護されていますので、自由に使用することはできません。」としており、それぞれ商標権を取得しています(商標登録第6222826号ほか)。

しかし、著作物として保護されるかどうかに関しては判然としないところ、過去の侵害訴訟において他のピクトグラムの著作物性の有無が争われた事件がありますから、この裁判例の争点のうち、著作物性の有無に絞って紹介します。

1 著作物性の有無が争われたピクトグラム


大阪市各局の設置する案内表示等に使用するために、被告(財団法人大阪市都市工学情報センター)(既に解散)からの委託に基づき、原告の取締役であるアートディレクター・デザイナーにより制作された19施設のピクトグラム(本件ピクトグラム)に関する著作物性の有無が争われました。

ピクトグラムは著作物として保護されるの? ~大阪市ローカルピクトグラム事件~ 大阪地判平成27年9月24日(平成25年(ワ)第1074号)

2 大阪地方裁判所の判断


(1)著作物の種類
以下のとおり、美術の著作物のうち「応用美術」の範囲に属すると判断されました。

「本件ピクトグラムは、実在する施設をグラフィックデザインの技法で描き、これを四隅を丸めた四角で囲い、下部に施設名を記載したものであり、これが掲載された観光案内図等を見る者に視覚的に対象施設を認識させることを目的に制作され、実際にも相当数の観光案内図等に記載されて実用に供されているものであるから、いわゆる応用美術の範囲に属するものであるといえる。」

(2)著作物の保護対象となる要件
以下のとおり、「実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得るような美的特性を備えている」ことが要件であると判断されました。

「応用美術の著作物性については、種々の見解があるが、実用性を兼ねた美的創作物においても、「美術工芸品」は著作物に含むと定められており(著作権法2条2項)、印刷用書体についても一定の場合には著作物性が肯定されていること(最高裁判所平成12年9月7日判決・民集54巻7号2481頁参照)からすれば、実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得るような美的特性を備えている場合には、美術の著作物として保護の対象となると解するのが相当である。」

(3)本件ピクトグラムの著作物性
以下のとおり、本件ピクトグラムの著作物性が認められました。

「ピクトグラムというものが、指し示す対象の形状を使用して、その概念を理解させる記号(サインシンボル)である以上、その実用的目的から、客観的に存在する対象施設の外観に依拠した図柄となることは必然であり、その意味で、創作性の幅は限定されるものである。しかし、それぞれの施設の特徴を拾い上げどこを強調するのか、そのためにもどの角度からみた施設を描くのか、また、どの程度、どのように簡略化して描くのか、どこにどのような色を配するか等の美的表現において、実用的機能を離れた創作性の幅は十分に認められる。このような図柄としての美的表現において制作者の思想、個性が表現された結果、それ自体が実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている場合には、その著作物性を肯定し得るものといえる。」
「この観点からすると、それぞれの本件ピクトグラムは、(中略)その美的表現において制作者(中略)の個性が表現されており、その結果、実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えているといえるから、それぞれの本件ピクトグラムは著作物であると認められる。」

〔「大阪城」のピクトグラムに対する判断〕
本件ピクトグラムのうち、「大阪城」に関する著作物性の判断を一例として紹介します。

「大阪城は角度により屋根部分の数やその形態が全く異なるところ、3つの屋根部分が見える角度の大阪城を、屋根の下の三角形状の壁部分のみを白抜きして強調し、・他の部分を捨象して青色に塗りつぶした形状のみで表現し、石垣部分については、現在の石垣の高さよりも大きく構成して強調してスケール感を出しつつ、格子状の線部分を白抜きにして石垣を簡略に表現するなどしている。当該本件ピクトグラムは、一見して大阪城と認識できるものの、その表現には個性が表れており、実用的機能を離れても、それ自体が美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているといえる。」

3 自由に利用可能なピクトグラム


ピクトグラムの中には著作物性の有無にかかわらず、誰もが自由に利用できるものもあります。例えば、国際標準化機構(ISO)のISO 7001や日本産業規格(JIS)のJIS Z8210の案内用図記号などが該当します。

4 まとめ


✓ 世の中に存在するピクトグラムは多種多様であり、一律に著作物性の有無を判断することはできないことから、個別具体的に判断されることとなります。
✓ 本件では、著作物として保護されるためには「実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得るような美的特性を備えていること」が要件であると判断されました。
✓ 著作物性が認められるピクトグラムであっても、誰もが自由に利用できるものもあります。

<月刊パテントの記事>
桝田剛「大阪市ピクトグラム等利用事件 ローカルピクトグラム及び地図デザインの著作物性が争われた事件」月刊パテント69巻12号(2016年)19-24頁

※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。

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