注目判例・法改正・書評

著作権者の利益を不当に害しない範囲で、著作物の部分的な表示等ができるようになりました ~2019年1月1日施行の著作権法の改正~

弁理士の著作権情報室

あまり馴染みがなく、「私には関係ない」という人が多い(と思われる)著作権法ですが、インターネットの広がりやAIの進化により、仕事だけでなく、日常生活のちょっとしたところにも著作権との関わりが出てくるようになりました。ここでは、2019年1月1日に施行された著作権法の改正について、弁理士がわかりやすく説明いたします。

著作権者の利益を不当に害しない範囲で、著作物の部分的な表示等ができるようになりました ~2019年1月1日施行の著作権法の改正~

今回施行された法改正の概要は以下の4点です。
1. デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定の整備
2. 教育の情報化に対応した権利制限規定等の整備
3.障害者の情報アクセス機会の充実に係る権利制限規定の整備
4.アーカイブの利活用促進に関する権利制限規定の整備等

出展
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/h30_hokaisei/pdf/r1406693_01.pdf
これらの内容を、著作権の専門家である弁理士が、日常のケースなどに沿ってやさしく解説します。

1.デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定の整備(著作権法第30条の4、第47条の4、第47条の5)。


ざっくり言うと・・・
以下の場合は、著作権者の利益を不当に害しない範囲で利用可能となります。
所在検索サービス(例:書籍の検索)の検索結果として著作物(例:書籍の本文)を部分的に表示すること。
情報解析サービス(例:論文について剽窃の有無の検証)で解析結果(剽窃の有無)とあわせて著作物(剽窃された部分)を表示すること。
AI開発のためのディープラーニングで採用されている代数的・幾何学的な解析を著作物(例:画像)に対して行なうこと。

何が問題だった?
対象がインターネット情報検索のための複製等に限定されていたため、権利者に及ぶ不利益が軽微であっても、所在検索サービスにおける著作物の表示は形式的には著作権侵害となる可能性があった。
同じく、対象がインターネット情報検索のための複製等に限定されていたため、権利者に及ぶ不利益が軽微であっても、論文剽窃検証サービス等における著作物の表示は形式的には著作権侵害となる可能性があった。
情報解析の方法が統計的な解析に限定されていたため、AI開発のためのディープラーニングで採用されている代数的・幾何学的な解析は形式的な著作権侵害となる可能性があった。

2.教育の情報化に対応した権利制限規定等の整備(著作権法第35条)


ざっくり言うと・・・
オンデマンド授業での講義映像・資料の送信、対面事業の予習復習用の資料のメールでの送信、スタジオ型のリアルタイム配信授業は、個別に許諾を受けることなく、できるようになる。※ただし補償金の支払いは必要。

何が問題だった?
許諾を受けることができない、権利者が見つけられない、手続きが煩雑で授業に間に合わないという問題があった。

3.障害者の情報アクセス機会の充実に係る権利制限規定の整備(著作権法第37条)


ひと言で言うと・・・
視覚障害者等のための書籍の音訳等は、権利制限規定により権利者の許諾なく行うことが可能だったが、この対象を、肢体不自由のために書籍を保持したりページをめくったりできない人など、障害によって書籍を読むことが困難な人まで拡大。

4.アーカイブの利活用促進に関する権利制限規定の整備等(著作権法第31条、第47条、第67条)


ひと言で言うと・・・
(1)作品の展示に伴う美術・写真の著作物の利用(著作権法第47条)
美術館等が、タブレット端末のような電子機器に美術・写真の著作物を掲載することを可能とする。また美術館等が展示する作品の情報をインターネットで紹介する際にその著作物のサムネイル画像を合わせて提供することが可能となった。
(2)著作権者不明等の著作物の裁定制度の見直し(著作権法第67条)
権利者と連絡がとれたら補償金等を確実に支払うことが期待できる国や地方公共団体等は、事前の供託は不要となった。
(3)国立国会図書館による外国の図書館への絶版等資料の送信(著作権法第31条)
外国における日本研究の発展等に貢献することを目的として、国立国会図書館は外国の図書館にも絶版等資料を送信できるようになった。

参考資料:著作権法の一部を改正する法律 概要説明資料
//www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/h30_hokaisei/pdf/r1406693_02.pdf

令和元年度 日本弁理士会著作権委員会委員

弁理士 後藤 正二郎

※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。

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また、日本弁理士会各地域会の無料相談窓口でも相談を受け付けます。以下のHPからお申込みください。

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