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オンライン授業でのコンテンツ(著作物)の利用、著作権侵害になるの?【教育関係者向け】

弁理士の著作権情報室

新型コロナウイルスの感染拡大、その第2波、第3波の到来も懸念される中、今まで以上にオンライン授業に対する注目が高まっています。
いままでも学校教育においては、文学や音楽、映画など多くの著作物が利用されていますが、オンライン授業においてもその利用をしやすくするために、法改正がなされ、補償金制度が創設されました。
ここでは、教育の情報化に対応した著作権制限規定に関する著作権法改正について、弁理士がわかりやすく説明いたします。

著作権法で認められている、教育機関による著作物の利用とは


通常、他人の著作物を無償、無許諾で利用すれば、著作権侵害となりますが、学校その他教育機関における複製等は、著作権法の制限規定により、著作者の利益を不当に害する場合を除き、認められています。
この具体的な例としましては、教員や授業を受ける学生が、新聞記事や市販されている書籍の一部を生徒又はクラスメートに配布するために、無許諾で複製(コピー)する行為などが挙げられます。

対象となる学校その他の教育機関とは


著作権法の制限規定の対象となる学校その他の教育機関については、幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育、学校、特別支援学校、大学及び高等専門学校だけでなく、専修学校や各種学校も対象となります。
また、保育所、認定こども園、学童保育など保育関連施設、公民館、図書館、博物館や青年の家といった社会教育施設、教育センター、教職員研修センターなどの教職員向けの研修を行う施設、学校設置会社経営の学校(例えば株式会社が設立した株式会社立学校のように、営利目的の会社により設置される教育機関ですが、構造改革特別区域法の特例により教育機関に該当するもの)も対象となります。
一方で、著作権法では、営利を目的として設置されているものは対象外とされています。
つまり、
・営利目的の会社や個人経営の教育施設
・学校等の認可を受けていない予備校・塾
・カルチャーセンター
・企業等の研修施設
などは、対象外となります。
これら対象外の施設で、他人の著作物を利用する場合は、他人の著作物を無償、無許諾で利用すれば、当然、著作権侵害となるので注意が必要です。

今回の法改正前においても認められていた行為とは


今回の法改正前も、以下のような行為はそれぞれ認められていました。
・複製した著作物を対面に生徒がいる授業において配布する行為
・対面に生徒がいる授業で使用している資料や講義の映像を別の教室で同時に行われている授業に対し配信する行為(遠隔合同授業)
・複製した著作物(印刷された紙媒体又は記録メディアに格納したもの)を郵送により事前に配布する行為

つまり、改正前においても、対面に生徒がいる授業での配布、別教室への映像の同時配信、事前にアナログな手法で配布する行為は、著作者の利益を不当に害する場合を除いて、無許諾であっても、著作権侵害とはなりませんでした。

一方で、オンライン授業というと、対面に生徒がいない状態で行われることが多く、また、その資料や映像はオンライン上でリアルタイムに又はオンデマンドでやり取りされることが通常です。
このように著作物を利用しようとすると、都度、権利者へ許諾を得ることや対価を支払うこと等の権利処理を意識しなければなりませんので、オンライン授業では著作物を十分に活用することができませんでした。

オンライン授業でのコンテンツ(著作物)の利用、著作権侵害になるの?【教育関係者向け】

では、今回の法改正でどうなったか


オンライン授業での著作物の利用をしやすくするため、以下のような行為も、著作者の利益を不当に害する場合を除いて、無許諾で認められるようになりました。
・学校等の授業や予習・復習用に,教師が他人の著作物を用いて作成した教材を生徒の端末(PC、タブレット等)にメール等で送信する行為
・対面に生徒がいない著作物を利用した授業を、同時中継で配信する行為(スタジオ型遠隔授業)
・対面に生徒がいない著作物を利用した授業を収録して、いつでも生徒が授業を受けることができるようアップロードしておく行為(オンデマンド型遠隔授業)
・授業の過程においてネットワークを通じて送信(公衆送信)される著作物を受信してスクリーンやパソコンのディスプレイ等を用いて生徒等に視聴させる行為

著作物利用の対価は?無償?有償?


法改正前から無許諾で認められている行為については、無償で行うことができますが、法改正によって新しく無許諾で認められるようになった行為については、有償で認められることになりました。
この場合の対価の支払い方法は、著作物の利用者が個別に著作権者へ支払うのではなく、学校単位で補償金を徴収する窓口を一元化し、そこから著作権者に分配することで、円滑な権利処理が図られることとなりました。
この制度を「授業目的公衆送信補償金制度」といいます。
この制度は、令和3年(2021年)5月までに施行する予定でしたが、今般の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大に伴うオンライン授業への高まるニーズに対応するため、当初の予定を早め,令和2年(2020年)4月28日から施行されました。

指定管理団体「一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS、サートラス)」の設立について


学校その他の教育機関から補償金を徴収し、著作者に分配する窓口として、指定管理団体の「一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS、サートラス)」が設立されました。
たとえば、音楽の著作物については、SARTRASに補償金を支払えば、JASRACと連携して権利処理がされます。
俳優などの実演家、レコード製作者等が持つ著作隣接権についても、芸団協、レコ協と連携して権利処理がされます。
また、授業目的公衆送信補償金制度の利用にあたって、教育機関は、所定の届け出をSARTRASに行うことが求められています。
なお、新型コロナウイルス感染症による緊急的かつ特例的対応として、初年度(令和2年度)に限り補償金額を特例的に無償とする旨の認可申請も行われ、今年度、教育機関が支払うべき補償金の額は0円となっています。
令和3年度からの補償金の額について、本記事の執筆時点では確定していませんが、決まり次第、発表されるかと思います。

著作権者の許諾が必要なケース(著作権者の利益を不当に害することとなる場合とは)


これまで、学校その他の教育機関が、著作権者の許諾なく著作物を利用することができることについて解説してきましたが、無制限に学校等の教育機関で複製や公衆送信などの利用行為が行われでしまうと、現実に市販物の売れ行きが低下したり、将来における著作物の潜在的販路を阻害してしまうこととなってしまいます。
そのため、授業の過程における著作物の利用が著作権者の利益を不当に害する場合は、著作者の許諾を得ることが必要となります。

現在公開されている改正法の運用指針では、以下のような行為が、著作権者の利益を不当に害する場合に該当する可能性が高い例として挙げられています。
・入学式等の学校行事で学年全体や全校の履修者等全員に配付すること
・同一の教員等がある授業の中で回ごとに同じ著作物の異なる部分を利用することで、結果としてその授業での利用量が小部分ではなくなること
・美術、写真、楽譜など、市販の商品の売上に影響を与えるような品質や態様で提供すること
・製本して配布すること
・組織的に素材としての著作物をサーバーへストック(データベース化)すること

このように、著作物を利用する場合は、
複製部数や公衆送信の受信者の数については、原則として、授業を担当する教員等及び当該授業の履修者等の数を超えないこと、
著作物の種類と分量については、紙、デジタル等形式にかかわらず原則として著作物の小部分の利用にとどめること
等に注意が必要です。

参考資料:教育の情報化の推進のための著作権法改正の概要
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/h30_hokaisei/pdf/r1406693_14.pdf

参考資料:SARTRASウェブサイト、補償金制度 よくあるご質問
https://sartras.or.jp/seidofaq/

参考資料:改正著作権法第35条運用指針
https://sartras.or.jp/wp-content/uploads/unyoshishin2020.pdf

令和2年度 日本弁理士会著作権委員会委員

弁理士 小野尾 勝

※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。

※ 著作権に関するご相談はお近くの弁理士まで(相談費用は事前にご確認ください)。
また、日本弁理士会各地域会の無料相談窓口でも相談を受け付けます。以下のHPからお申込みください。

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