「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?

第44回

残念な事業計画書

落藤 伸夫 2017年11月20日
 
金融機関が中小企業への貸出を判断する場合の、審査の考え方が複線化されたとご説明しました。今までの「債務者格付け」の考え方に、最近注目されている「事業性評価」の考え方が加わったのです。
金融機関は、決算書を分析して「この企業に融資しても大丈夫だ」と判断できる場合には、そうするでしょう。債務者格付けで融資判断するわけです。
一方で、債務者格付けでは融資できないと判断せざるを得ない場合でも「この企業は、効果が出そうな改善案・改革案を計画書としてまとめ上げて提出してきた。これを実行したら、本当に儲かる企業になれそうだ。だからその事業性を評価して融資しよう」と判断するかもしれません。事業性評価融資を行うわけです。

但し、金融機関にとって事業性評価融資を行うのは、相当な努力が必要です。第1歩は「効果が認められる改善案・改革案を策定できそうな企業」を探すことになりそうですが、それを行うのも、相当な負担がかかります。我が社に事業性評価融資を提案してくれるのを待っていたのでは、いつになるのか見当もつきません。
このため中小企業の皆さんには「立候補」することをお勧めしています。改善案・改革案を計画書としてまとめて金融機関に提出し、事業性評価融資を依頼するのです。


どんな計画書でも良いわけではない

こういうご提案をすると、中には「もっともらしい計画書を作って提出すれば、金融機関は事業性評価融資を検討してくれるのだな。だったらできるだけ手間を省いて計画書を作成し、金融機関に提出しよう」とお考えになる経営者もおられるようです。実際、それを勧める支援者も、いるようです。
しかし筆者は、最後でご説明する理由から、そのようなアプローチは避けた方が賢明だと考えています。まず、どんな計画書が「残念な計画書」なのか、ご説明しましょう。


フォーマットを埋めただけの計画書

ある時、ある支援者から「我が事務所で事業性評価融資の支援をすることになったので、チェックしてもらえないだろうか?』と持ちかけられました。その事務所は、公認会計士・税理士や中小企業診断士が複数勤務する、それなりの規模の事務所とのことでした。新規業務として推進するにあたって専門家の意見を聞きたいとのことでした。
「立派な事務所が新規業務立ち上げとして取り組んでいるとは、どんな計画書なのだろう?」と興味津々で拝見しましたが、文章を読むのはすぐに(10秒たっていないと思います)やめました。そしてパラパラとページをめくって全体の構成を確認しました(これにも、10秒たっていないと思います)。「これでは、事業性評価融資を依頼する事業計画書にはなりませんね」と答えるのに、1分かからなかったと思います(それでも、言葉を選ぶために30秒以上は考えていたわけです)。

なぜ、その計画書は「事業性評価融資を依頼する事業計画書」として不適切だったのか?そこから「事業性評価融資を依頼したいと考えている企業像」が全く見えてこなかったからです。何を行なっている企業なのか、どんな特徴があるのか、現在はどのような状況にあるのか、今からどんな企業になっていきたいのか、などについては、見事なほど、何も書いてありませんでした。少なくとも、私はそう感じました。

それを指摘すると、相手の先生は「いや、書いてありますよ。事業概要はこのページ、業種が明記されています。取引会社名や規模などの特徴はこのページ、工場・設備、社員数などの現況はこのページです。今後については企業理念を参照してください。私たちとしては、これで十分だと思っています。金融機関に、手の内を全て見せる必要はありません」という答えでした。話をよく聞くと、その事業計画書は事務所で使っている企業紹介の一般的なフォーマットを使っているとのことでした。

確かに、インターネットのホームページで企業を紹介する場合なら、その説明で十分なのかもしれません。十分をはるかに超えた情報量なのかもしれません。しかし、「債務者格付けで判断すると、この企業に何の疑問なくGOサインは出せない」と考えている金融機関に、事業性を評価して融資してくれるよう依頼するには、圧倒的に情報量が足りません。というか、欲しい情報は何も提供されていないに等しいのです。これでは、金融機関から事業性評価融資を依頼することはできません。

事業計画書を作成するときに、フォーマットを使ってはいけないという気持ちはありません。しかし、私は結局、フォーマットを使っていません。いろいろな企業の「事業性評価融資を提案する事業計画書」を作成してきて、もしこれがフォーマット化できるなら、流れや見栄えの良い計画書を効率的に作成できると考えるのですが、何度かトライして、諦めました。企業ごとに、金融機関に訴えたいポイントが違うからです。

またこの計画書は、企業にとっても「この通り実行していけば必ず成功できる。儲けられるようになる」という自信を持って実行してもらえる計画書であるとの位置付けでもあります。そのような事業計画書は、フォーマットを用いて量産することはできないと痛感するようになりました。


数字の根拠が希薄な計画

その計画書には、もう一つの特徴がありました。「楽観的な数値目標が並んでいる事業計画書」だったのです。その計画書には「当社は今年度、売上や利益が対前年比で20%増加すると見込まれる」と書かれていました。
「なぜ、この数値が実現可能なのか、よく分からないのでご説明いただけませんか?」とご質問すると、「対前年比20%くらいの成長率は実現可能だと思われます。あなたがそうは思わないとすれば、それは見解の相違です」というお話でした。

確かに、世の中一般からすると、対前年比120%は、特に疑念を抱くような「楽観すぎる」数字なのではないかもしれません。しかし、その企業、すなわち近年は売上がジリ貧で赤字となっており「債務者格付けで判断すると、この企業に何の疑問なくGOサインは出せない」と金融機関が考えている企業とっては、楽観的過ぎると感じられる可能性が高いと思われます。数字の根拠が、希薄なのです。

「そのような企業は、ではどうしたら良いのか?20%ではダメならば、10%ならば良いのか?5%ならば確実か?」いえ、そのような意味ではありません。というより「現実を鑑みて数字を抑えた」計画書は、そもそも存在意義がないと言わざるを得ないことが多いのです。利益が5%増加しても赤字から脱却できないのなら、その計画を実現したとしても、企業として儲かり、金融機関にも返済ができるようになるとは言えません。作成する意味はないのです。

ではどうすれば良いのでしょうか?「その数字を達成できる理由」を、しっかりと説明すれば良いのです。説明の仕方には、2種類あります。
先ほどの「対前年比20%程度の売上・利益拡大は可能と思われる」という説明の仕方は、確率論的な説明の仕方です。「対前年比50%は、幾ら何でも無理だと思われる。しかし20%程度なら、なんとかなるだろう。可能性は否定できない」という説明の仕方です。昨年の売上が同程度の成長率で拡大していれば、その説明で納得してもらえるかもしれません。しかし、昨年もジリ貧だったので「債務者格付けで判断すると、この企業に何の疑問なくGOサインは出せない」と判断せざるを得ないと金融機関が考えている企業がそれを言っても、納得してもらえないのです。

もう一つは、「私は今後、Aという方策を実施し、それによる成長を5%見込む。Bも行って、5%見込む。CもDも行なって、それぞれ5%見込む。合計20%成長できると見込まれる」という説明方法です。因果関係による説明と言えるでしょう。行動と効果(イベントをすれば○円の売上が見込める)の因果関係について、過去の実績で説明できると、なお良いです。こうやって、目標値を実現できるまで自分が行っていこうとする対策を積み上げていく、つまり丁寧にアクションプランを説明することで、金融機関を納得できるかもしれません。


残念な事業計画書の弊害

「事業性評価融資が始まったばかりで、金融機関もまだ準備が満足にできていないなら、適当な計画書を作ってトライしてみたら良いではないか。」そういう意見を耳にすることもありますが、筆者はあまりお勧めしていません。そのような、金融機関を「手玉に取ろうとする」やり方は、マイナスに作用する可能性が高いからです。
「あの企業は、事業計画書を立てるにしても真剣味が足りない」と判断され、それが金融機関の記録に残ると、後々苦労することになりかねません。
それより、真剣に取り組んだ方が、金融機関の信頼を勝ち得ますし、自分自身にとっても、その計画の実行により実効があがって儲かる体質になれるというメリットがあります。ここは是非、残念な事業計画書ではなく、ご自身にとってメリットになる事業計画書を目指して頂きたいところです。

 
 
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プロフィール

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代表 落藤 伸夫


中小企業診断士・MBA
日本政策金融公庫に約30年勤めた後、中小企業診断士として独立。 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を得意とすると共に、前向きに努力する中小企業の資金調達も支援する。 「儲ける力」を身に付けたい企業を応援する現在の中小企業金融支援政策に共感し、事業計画・経営改善計画の立案・実行の支援にも力を入れている。

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